木造建築専攻
卒業生の進路
卒業生インタビュー
20周年記念事業

宮森庸介 ― 構造実験と構造設計 ―

プロフィール

森と木のエンジニア科 19期生
森と木のクリエーター科 21期生

2000年 富山県生まれ
2019年 富山県内の高校(総合学科) 卒業
2021年 森と木のエンジニア科 林産業コース 卒業
2023年 森と木のクリエーター科 木造建築専攻 卒業
NPO法人 WOOD AC 勤務

質問1)どんな仕事をしていますか?

 私が勤めているNPO法人WOOD ACは、美濃市にあるアカデミーの1,2期生が中心となって立ち上げた会社で、木造の構造実験と構造設計、木の住まいの調査や改修のアドバイス、木材・木造建築についての講習会の企画・運営、木材の活用につながる、調査や冊子の製作など様々な活動をしています。私は現在、その中でも主に「構造実験」と「構造設計」を担当しております。
 構造実験では、アカデミーの試験施設を借りて、壁や床などの実大試験体を破壊して、構造性能を検証する実験を行っています。また、実験を行うだけではなく、見積もりから材料の手配、実験計画の作成、試験体の組み立て、データ整理、報告書の作成までの一連の作業を行います。
 構造設計では、建物自身の重量や、地震や台風などに対する安全性について、検討を行い、安全性を確かめます。安全な建物を目指すことはもちろん、意匠設計者の方と相談しながら、施工性やコストのことも考えながら設計をしています。特に、木を現しとして使用する場合は、構造と意匠が不可分のものとなるため、ただ強い建物になればよいということでもありません。意匠設計者の意図を汲み取り、さらには施主の方のこと考えながら、構造としても意匠としてもより良い住まいとなることを目指しています。
 また、WOOD ACでは、全国的にも珍しく、構造実験と構造設計をどちらも行う(会社というだけではなく、同じ人間がどちらも行う)ため、本や論文からの知識だけはなく、実際にどのような壊れ方をするのか、何が危険なのかなどを実験で確かめることができます。それによって、実験結果に基づいて設計を行えるため、設計者や施主の方に対して、数値以上にリアルなアドバイスをすることができます。
 設計は構造設計ばかりではなく、意匠も含めたコンサルティング的な仕事も行っております。WOOD ACの創設メンバー(現在は理事)の多くは意匠設計事務所として独立された方が多いので、規模の大きい物件では、お互いの専門分野について相談しながら計画を進めることもあります。

質問2)アカデミーに入ったきっかけは?

 存在を知ったのは、ほとんど偶然で、それまでは林業や木材に対する関心はありませんでした。高校時代に特にやりたいこともなく、周りに流されて4年生大学を目指すのは違うな、と考えていたときに、知り合いのツテでアカデミーを知り、実践的なカリキュラムが多く、体験しながら学べることが、自分の性にあっているように思い、オープンキャンパスに参加しました。当時は、建築には少し興味がありましたが、林業や木そのものに関しては、アカデミーの存在を知るまでは考えたことのない分野であり、未知の世界に感じたので、そういった世界についても知りたいと思い入学しました。
 クリエーター科への進学については、エンジニア科では学びきれなかった、建築についてより深く学びたいと思ったことと、多世代と学ぶことができるところに魅力を感じ決意しました。
エンジニア科でも学べることは多かったですが、2年という期間は少し短く感じましたし、実際に4年間通うことで、エンジニア科での知識を深めることができ、クリエーター科での学びがより充実したものになりました。
 クリエーター科は幅広い年代の人が在籍しており、私の学年はエンジニア科から進学した私が一番年下の20歳で、最年長は元先生で62歳でした。年齢だけでなく、前歴も様々で、私の同級生では先生、記者、インテリアデザイナー、大工、雑誌の編集者の方がいました。学生として、先生から学ぶことも多いですが、同じく学生として過ごす、年の離れた同級生からも、それぞれの経験や価値観を聞くことができることも、クリエーター科の学べることの一つのように思います。

質問3)今に生きているアカデミーの学びは?

 実験でいえば、構造力学や木材の性質についての授業が生きているかと思います。力学が分かれば、試験体に力を加えた際に、どこに大きな力がかかっているかが分かるようになります。また、節や目切れなどの材料としての弱点をあらかじめ知っておくと、試験をしているときも、どういったところで破壊が起きるか、破壊が生じたときに、なぜ壊れたかが見えてきます。エンジニア科での林業の経験もあるため、使われる材料が樹木として生きていた時の、立木の状態を想像できるため、材料としての弱点ができた原因についてもある程度推測できます。
耐久性や使用環境(雨掛かりがあるかないかなど)を考慮して、構造性能に反映することも行うので、劣化について知るという意味では、メンテナンスや古民家調査の授業も関わってくるかもしれません。
 構造設計では、構造の授業の他に、製図の授業や古民家調査が、特に役立ったかと思います。意匠図は基本的に描くことは少ないですが、伏図、軸組図などの構造図を描くので、やはり、作図能力は必要です。また、色々な設計事務所の図面を見るので、それぞれの事務所ごとに癖があったり、描き方が違ったりもするため、それを理解するためには図面を読み解く力も重要になります。
 また、改修を行う際には調査に行くこともありますし、調査結果をもらって補強計画を立てる場合は、現地では実際にどうなっているのかを想像しなければならないため、調査をした経験は非常に重要だと思います。

(2024年インタビュー)