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2020年04月18日(土)

たくさんの協働で生まれたmorinos~建築の軌跡~(morinos建築秘話42)

木造建築教員の辻の視点でmorinosの竣工までの道のりをまとめてみました。
本当にいろいろな人の関わりでこの施設が実現したんだなと感じます。

Episode 0 ドイツ・ロッテンブルグ大学との教育連携

morinosの始まりは、2014年ドイツBW州のロッテンブルク林業大学(以下、HFR)との教育連携を締結したことに始まります。(HFRとの連携の歴史は特設ページから)
私もこの連携の中で何度かドイツを訪れ、ドイツの森林に対する意識の高さに触れました。
2015年にはフライブルグの森林環境教育施設「森の家」に行きました。
この施設は幼児ではなく、青少年をメインターゲットにして環境リテラシーを高めていました。
都市にほど近い場所にこのような施設がドイツBW州だけで3つもあることに驚きました。

フライブルク森の家には、グリーンウッドワーク用の見慣れた削り馬もたくさん。

BW州最大の環境教育施設は、HAUS DES WALDES (ハウスデスヴァルデス)です。(morinosの原型になった施設)
・ドイツ報告01-HAUS DES WALDES (ハウス・デス・ヴァルデス)

2018年初めに松井匠講師が「森林環境教育施設の建築視察」として訪問し、館長のライヒレ氏から、設計時の注意点や運用時の工夫など、数々のヒントをもらいました。

HAUS DES WALDES (ハウスデスヴァルデス)。運用・展示・経営など、数々の経験談を設計に活かしました。

視察では、ロッテンブルク林業大学の建築教員デデリッヒ先生や、環境教育教員のフックス先生の丁寧な案内で、4つの「森の入口」施設を見学し、運用時に「納戸が足りなくなる問題」や「運用者と設計者のイメージ共有の大切さ」を経験談から学びました。その後、しっかりと設計に活かしています。

このようにドイツでは、市民の身近なところに森林や林業に親しむ環境が整備され、林業だけにとどまらない森林の多面的機能がわかりやすく伝えられています。
岐阜県は、森林面積 全国5位、森林率 全国2位の森林県。
そこで日本初となる「森の入り口」となる施設を建設するという知事の決断で森林総合教育センター(morinos)の計画がスタートしました。

◆視察協力:
ハウス・デス・ヴァルデス(ベトール・ライヒレ氏)
フライブルグの森の家 (マーガレット・ハンセン博士)
フェルドベルグの自然の家(ステファン・ブフナー氏)
ドイツロッテンブルク林業大学(バスチァン・カイザー学長、ルドガー・デデリッヒ先生、フックス・オトマー先生)
◆通訳 (株)江真コンサルティング(江鳩景子さん)

 

Episode 1 基本構想のワークショップ

morinosの基本構想は、2018年2月~3月。

HFRから学生とデデリッヒ教授をお呼びして、1週間の短期設計ワークショップでお互い議論しながら作り上げる計画で考えていました。
さらに、最終日には建築家:隈研吾さんに講評をいただき基本構想を固めてしまおうという狙いです。

しかし、残念ながらデデリッヒ教授が病気のため急慮来日できなくなり、アカデミーの学生主体で進めることに。
この時の報告書は52ページにドイツ語でまとめてHFRにお送りすることで、後日計画案に対するコメントをいただきました。

このWSの様子はブログでも報告しています。
・森林総合教育センター 木造建築ワークショップ スタート
・木造建築デザインワークショップ 計画案プレゼンテーション
・建築家 隈研吾氏と一緒にデザインワークショップ

環境教育や林業専攻の学生や教員にもインタビュー

最終日に行われた隈さんや学長を囲んでのWSで、現在のmorinosのイメージが概ね出来上がりました。

◆参加学生:玉置さん(16期生)、八代さん(16期生)、大上さん(17期生)、坂田さん(17期生)、佐藤さん(17期生)
◆WS参加者:参加学生に加え、建築家 隈研吾さん、涌井学長、長井さん(隈事務所)、林政部長、ナバさん、建築教員他多数の方々
◆報告書とりまとめ:辻寛事務所(辻さん)

Episode 2 学生と協同の基本設計

2018年4月からは、基本構想を受けて建築イメージを実際に建てられるように検討が始まりました。
基本構想WS時に2年生だった16期生の2人は卒業し、17期生に引き継いで動線計画や3Dモデル、構造解析を開始しました。
夏までに実施設計に移行できる段取りをしていきます。

2018年6月には中間報告として、涌井学長、ナバさん、関係部署の方にプレゼンです。
学生主導で計画の説明していきます。

学生が学長に対して中間報告をしている様子

基本設計段階のmorinos。概ね現在の計画の形が出来上がっています。

森林総合教育センター計画 学長へ進捗報告

中間報告で概ね方向性が確認できたため、ここで頂いたアイデアも加えて、基本設計を詰めていきます。
2018年8月には、基本設計の最終計画を全校生へ向けての発表する講評会も開催しました。
この講評会には意匠原案の隈さんにも2度目の来校をいただきました。
また、2月のWSには来られなかったHFRのデデリッヒ教授もお招きでき、ドイツでの環境教育の視点でのアドバイスをいただくことができました。

このあと、年度内実施設計完成に向けて進んでいきます。

講評会のあと、全校生+隈さん、デデリッヒ教授を囲んで集合写真

隈研吾氏と涌井学長とデデリッヒ教授と語ろう!「森林総合教育センター基本設計講評会」

◆基本設計担当学生:意匠担当:大上さん(17期生)、構造担当:坂田さん(17期生)
◆基本設計講評会参加者:アカデミー全校生、建築家 隈研吾さん、涌井学長、長井さん(隈研吾建築都市設計事務所)、教職員他多数の方々
◆通訳:辻寛事務所(辻さん)

Episode 3 設計事務所と協同の実施設計

2018年9月から始まった実施設計。
さすがに授業の片手間に私たち教員、学生だけでは実施設計、計画通知を行うのは困難。そこで、県内設計事務所の方と協働で進めました。

ですが、今回のV柱を構造に見込んだ少し特殊な木造建築。

すんなりと実施設計にまとめ上げるには至らず、木質構造の専門家チームも加わり、V字柱の必要断面(末口径)を決めたり、天井パネル内に収めるための母屋寸法や水平構面の取り方などを密に打ち合わせながら進めました。

また意匠面でも、各部の見付け(正面から見た寸法)や雨仕舞、断熱設計など、各部ディテールも並行して詰めていきます。

重要な意匠のポイントに関しては、隈研吾建築都市設計事務所の長井さんに相談をして、隈さんにも確認いただき、アドバイスを何度となくいただきました。

何度も原寸図や施工図を書いては、打ち合わせをしてを繰り返し、未成熟な部分も残しっつ、2019年3月に実施設計が完了。

図面のチェックのやり取り

今回の協働で、関係者が互いに手探りの状況もありましたが、地域材を活用した木造建築の設計によって、県内設計者の技術力向上も図れたのではと思います。

◆連携設計事務所:株式会社三宅設計(主担当:安藤さん、代表:三宅さん)
◆構造設計:木構堂(担当:速水さん)
◆意匠アドバイス:隈研吾建築都市設計事務所(隈さん、長井さん)
◆照明計画:ヤマギワ(岡野さん、西澤さん)
◆実施設計担当学生:意匠担当:大上さん(17期生)、構造担当:坂田さん(17期生)

Episode 4 工務店、設計事務所と協同の工事

年度が変わって2019年4月。いよいよ工事の開始です。
施工にあたっては、アカデミー本校舎にも携わられた木造建築を得意としている工務店さんが元受けとして受注していただき一安心。大工さんの腕前には定評があります。
実施設計通りに工事を進めるための施工監理者には、実施設計とは別の設計事務所に入っていただき新しいチームで竣工を目指します。

いろいろな方が関わることで、多方面からのチェック体制が整い、今回の建築での知見が広く伝わっていきます。

さて木材の段取りにあたっては、林業教員全員に加わっていただき、構造事務所から出てきた必要な寸法のヒノキ原木を探しに4月早々に演習林に。
・演習林で丸太材の物色・・・

6月には本格的に工事がスタートすることになり、起工式が開催されました。
起工式では、古田知事、涌井学長も玉串奉納をされ、出席者全員が手にした木の枝でmorinosプログラムの試行も披露されました。
『森林総合教育センター(仮称)』起工式

起工式のスティック・プログラム

夏休みに当たる8月に入ると林業教員はじめ、学生の有志によって伐倒・集材プロジェクトが始動。
12本伐倒する丸太の内、一本は三ツ紐伐りにも挑戦。
・大径木伐倒・集材プロジェクト授業(伐倒編)
・三ツ紐伐りで建築用材伐採
・大径木伐倒・集材プロジェクト授業(集材編)

ヒノキ丸太の集材プロジェクト。バックホウで集材。

その後搬出された丸太は工務店の加工場に輸送され、選木、刻みが行われ現場に戻ってきました。
加工時には我が子の出来具合を見るために林業の先生も郡上市白鳥町にある加工場に見学に行くほど。
・木材検査と丸太の選木
・センターハウス丸太柱の加工

加工を待つヒノキ丸太

11月に入ると、同時並行で進んでいた基礎工事と丸太を含む木構造が一緒になる建て方で一気にmorinosの形で見えてきました。
morinosの100年生ヒノキ柱立つ

建て方の様子

この辺りから、大工さんが10人以上、現場に入り、いろいろな工事が同時進行していきます。
電気屋さんや左官屋さん、ガラス屋さんなど、様々な業種の職人さんたちが竣工を目指して一気に工事が加速していきました。

12月には、隈研吾さん(三度目の来校)が来られて、丸太の仕上げや、樋の色など、ご指導いただきました。
隈研吾先生によるmorinos建築施工指導

隈さんに現場を見ていただいて、いろいろご指導いただきました。

2020年に入ると、仕上げ段階に入り、現在見えている天井やガラス、床材などが施工され完成のイメージが高まってきます。

工事の途中では何度も、学生と現場見学。
各部のディテールや断熱施工の様子、職人さんの手際のよい動き方など、現地でしか味わえない感覚を緊張感のもと体感できたのではないでしょうか。
学内にこれだけの現場が動いているというのは学生にとっては幸せでした。

学生と現場見学

卒業式直前には、客員教授の挟土秀平さんによる指導で学生、教員が参加しての壁塗り体験も開催。
挟土秀平さんによるmorinosの壁塗り体験指導

挟土さんの指導による学生の壁塗り

3月末には県産材を活用した各種家具が搬入されて竣工しました。(シンボル左官の仕上げが少し残ります)

中心に据えられる大型テーブルの組み立て

施工にかかわられた方は数えきれないほどいらっしゃいます。

◆施工:澤崎建設株式会社(現場監督:渡邊さん、施工図:谷合さん、代表:澤崎さん)
・大工棟梁:猪島さん
・木工事:澤崎建設の大工さんたち
・仮設工事:蓑島(蓑島さん)
・土、地業工事:澤崎建設(田中さん)
・鉄筋工事:共栄鉄筋(半野田さん)
・型枠工事:山田組(山田さん)
・コンクリート工事(市原さん)
・屋根工事:尾藤建築板金(尾藤さん)
・左官工事:篭原左官店(籠原さん)
・金属工事:郡上金属工業(日置さん)
・ガラス工事:丸奏(瀬口さん)
・塗装工事:河合塗装(河合さん)
・木製建具工事:ヒラシタ建具(平下さん)
・電気設備工事:興陽電気(河辺さん、桑波田さん)
・機械設備工事:畑中水道(畑中さん)
・造り付け家具:デックス(木村さん、山口さん)
・薪ストーブ工事:東陽(清水さん)
◆施工監理:株式会社ダイナ建築設計(主担当:関口さん、代表:松本さん)
◆シンボルの左官壁:秀平組(客員教授の挾土秀平さん、秀平組の職人さんたち)、学生有志
◆アカデミーの土づくり:森林総合教育課(川尻さん)、学生さん
◆葉っぱのエッチングガラス:アトリエ・テクノ・フォルム(江藤さん)
◆置き家具:飛騨産業(入江さん、野田さん)
◆演習林丸太伐採:林業専攻教員、林業専攻、エンジニア科学生有志
◆現場監理助言:隈研吾建築都市設計事務所(隈さん、長井さん)

私(辻)と松井先生、現場監督の渡辺さん。竣工したmorinosで撮影。

Episode 5 morinos 始動

2020年度からいよいよmorinosの運用が始まります。これから、もっともっと歴史が刻まれていくことでしょう。

 

私の視点で、morinos建設の軌跡をまとめましたが、私の知らないところで、もっとたくさんの人の関わりもあったと思います。
協働でしか生まれない建築。誰が欠けてもこの建築はできなかったでしょう。

これからmorinosの活用が進めば進むほど、さらにたくさんの人が関わり、森と人がつながっていくことを期待しています。

◆建物概要

建物名称:morinos(モリノス)
意匠原案:隈研吾
基本・実施設計:岐阜県立森林文化アカデミー木造建築スタジオ
(教員:辻充孝、松井匠、第17期学生:坂田、大上)
株式会社三宅設計(安藤)
設計監理:株式会社ダイナ建築設計(関口)
施工:澤崎建設株式会社(渡邊)
事務調整:森林総合教育課(川尻、鈴木)、前事務局長(久松)
延床面積:129.04㎡
総工費:88,533,000円
設計期間:2017年2月~2019年3月
施工期間:2019年4月~2020年3月

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。

morinos建築秘話シリーズ

関わられた方を思い出しながら書いたつもりですが抜けていたらごめんなさい。

准教授 辻充孝