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2020年03月27日(金)

白い薄化粧の丸太と無塗装の外壁(morinos建築秘話23)

morinosの外壁は杉の本実(ほんざね)加工された板を縦張りにしています。
外観を見ると、南と東面は、ほぼガラス張りですが、北側のバックヤードは全面スギ板の外壁。

無節のスギがきれいです。きれいすぎるくらいです。
竣工したての現在は、まだ赤身と白太が目立っていますが、1年もすると色目もそろってきて落ち着きが出てくるでしょう。

この北側のバックヤードは効率よくプログラムのアイテムを収納できるように大量の収納棚を作りましたが、それ以外にも、フックや棚板を増設して道具を見せながら収納したり、プログラムで出来上がった作品を展示したりと可変性が求められます。
そんな時、釘やビスが効く木材は有効です。

そしてこの外壁は仕上げは何もしていません。無塗装です。

木材は外部で使うとき、一般的に塗装することが大半です。
アカデミー本校舎でも、外壁は真っ黒に塗装されていて、緑との対比が美しいです。

2001年の竣工当時の写真

では、何のために塗料のを塗るか考えたことはありますか?

調べてみると「塗料は粘性をもった液体で、被塗物(塗装されるもの)に塗布された後に乾燥して、皮膜(固体化)を形成することで、被塗物を保護し美観を保つもの」とされています。
つまり塗料の目的2つ。木部に色を付けて美しく見せる「美観」(paint)と、紫外線や生物劣化から護る「保護」(coating)です。

morinosでこの2点について考えてみます。

「美観」に関しては、アカデミーのように黒くアクセントを付けたり、色を付けて感性に働きかけたりすることもありますが、morinosは上の写真にあるように、大工さんが丁寧に無節のキレイな材を張っていて、特に色を付けなくても自然な風合いの非常にいい感じです。

では、「保護」はどうでしょう。考えられる劣化は2つです。
腐朽菌やシロアリで木材の強度に影響を与える「生物劣化」と、紫外線などの吸収による変色や表面のカビによって見た目が変化する「気象劣化」です。

「生物劣化」は木材の耐久性や強度に影響するため防がないといけません。

腐朽菌やシロアリは生物ですので、生息できる条件が4つそろって初めて活動が可能です。
つまり、適度な温度、呼吸できる空気、水分、エサ(木材)です。このうち1つでも取り除ければ生息できないことになります。
温度と空気はコントロールできないため、通常は薬剤処理で特定の生物にとっての毒エサに変化させるか、水分供給を極力なくし生息しにくくするかのどちらかの対応になります。
morinosのデッキ面は、全て屋根下に納めることで雨や夜露から水分供給を減らしつつ、それでも横殴りの雨の場合は水が溜まりやすいため、安全性の高いACQやAZNで防腐防蟻処理しています。

今回のmorinosの外壁はというと、垂直面のため水分の滞留がなく、通気性を確保できれば多少濡れても翌日には乾燥してしまいます。よほど壁の前に荷物を積みすぎて通気を阻害しなければ、腐朽菌やシロアリは来にくい環境になっています。

では「気象劣化」はどうでしょう。強度や耐久性能は劣化しにくいので、見た目の印象はどうかということです。
木材は、紫外線が当たれば、銀鼠色に徐々に変化していきます。古民家やお寺などは無塗装も多いので、見る機会も多いでしょう。

この変化を経年劣化というのか、経年変化というか、風合いが増したというかは個人の感性かもしれません。

morinosは森林環境教育のセンターハウスの位置づけなので、身近に木材の変化を見る機会を設け、どのような印象を受けるかも学びの要素です。個人的には、風合いが増し、貫禄が出てくる印象です。

ですがほったらかしではいけません。空気中のチリやホコリが付着すると、なんだか薄汚れた印象の材も出てきます。
アカデミーの自力建設でも無塗装の建物があり、毎年授業でメンテナンスを行っています。
例えば、少し汚れ気味に経年変化した柱を単に水拭きするだけで、これだけ変わってきます。この変化は感動的です。(下の写真)
また一年もすれば、銀鼠色に変わってきますが表面のチリなどは一度取っているので、いい感じに見えます。(メンテナンス実習の様子はこちらから。)

また、日本古来の灰汁(あく)を使った洗いの技術もあります。
エンジニア科の研究テーマで取り組んだ実例もありますので参照して下さい。(灰汁洗いの実力は?

morinosでも、メンテナンス プログラムを開発してもらえるといいですね。
最近はやりのメンテナンスフリーでは味わえない「木を手入れする楽しさ」をわかってほしいです。

一方で、外部で塗装を施した材が2つあります。
すでに紹介したACQ注入によって緑がかったデッキ材と、下の写真です。

わかるでしょうか。morinosのトレードマークのV柱がほんのり白く塗られています。

実はこの丸太塗装には、いろいろエピソードがあります。

当初、私たち設計チームでは丸太も無塗装として外壁と同じく、時間の経過を感じられるようにする方針でいました。
ですが、隈事務所から丸太はエレガントに白く染めたいとの意向がありました。
私たちと考え方の相違があり、どうすべきか検討を重ね、4種類のサンプル(無塗装、一回塗、二倍希釈塗、二度塗り)を作成し、隈さんに現場で見ていただき無塗装の丸太の美しさで押そうとの方針。
実際、昨年末隈さんが現場に来られてエッチングガラスの仕上がりやディテールなどいろいろ相談して、いよいよ丸太の場面。
4種類の丸太サンプルを並べて、どれがいいか見てもらおうと、、、準備していると、、、
「これだね!!」即答で二倍希釈の薄い白塗りサンプルを指さしました。先手を打たれました。

V柱の意匠原案は隈さんですし、その想いを活かすべく、ほんのり白く薄化粧。

完成してみると確かに他の無塗装の材とは違った趣で目立っていい感じです。
V柱のコンセプトの非常に強いサインになっています。

今後、無塗装の外壁や方づえは銀鼠色に経年変化していくと、V柱の白い薄化粧がより際立ってくることでしょう。
無塗装の丸太のままだと、同じような変化に埋もれてしまいそうな中、morinosのトレードマークが際立ってくる予感がします。

その他の紹介していない木材活用も見ていきます。

天井パネルです。こちらも、無節の杉本実板で張られています。
大きな面積を一度に張ると、重たい印象になるため、黒いスリットを通して面を分割することで、軽快に見せています。
また、屋外の活動の場である南に向かって視線を誘導する役割も担っています。(このスリットには、設備やポールが仕込まれているのは過去に紹介した通り)

屋根を薄く見せるために途中に角度勾配が変わる段差がありますが、よく見る(下の写真の真ん中のライン)と、木目がつながっています。
ここでも大工さんの気遣いが伺えます。

下の写真は、白い薄化粧の丸太から伸びるヒノキ(無塗装)の方づえ。
「ひかり付け」の技法のように波打つ丸太表面にピタッと大入れで差し込まれています。

すごい技術です。
morinosの腕のいい大工さんでも一日一本しか丸太加工できないと言っていた意味が解ります。

アカデミーの自力建設でも丸太に方づえを取り付けることがありますが、もっと簡便な仕口(直行方向の接合部)です。

morinosの隣に建つ16期自力建設「Oasis」
その仕口を見てみると、一度平らな面を作って、方づえはそこに取り付いています。

Oasisの上棟式。学生の女性棟梁が祝詞を上げています。

これでもかなりの高難度。学生が苦労して作っている様子はブログでも紹介しています。

方づえの反対側は、壁に突き刺さっていて、こちらも断熱施工と合わせて難しい部分です。

このようにmorinosの上部外壁は、方づえを貫通するため、ガラスではなく壁にしています。
上部壁はランダムに取り付いているように見えますが、本当のランダムではなく、3Dモデルでバランス調整を何度も重ね、検証に検証を重ねた結果の壁配置です。
土の洞窟のベンチに座って、南を見てください。きっと違った景色が見えますよ。

morinos建築秘話シリーズはこちらから

准教授 辻充孝