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2020年03月10日(火)

表層圧縮・ACQ・圧密 3種類の床材(morinos建築秘話5)

morinosの丸太樹皮付き方立に続き、今回は床の木材について解説します。当然、morinosの床もこだわりだらけで、3種類の床材を使用しました。

 

一種類目として、まず目に付くのは、大きな屋根の下の外部デッキです。

このデッキは岐阜県産スギ材で構成されていますが、製材したままの杉を土足外部デッキに使用すると材質が柔らかいため傷がつきやすかったり、表面が擦り減ってしまいます。

そこで、「表層圧縮」という特殊な加工を施し、耐摩耗性を高めて土足で歩いても傷がつきにくく、擦り減りにくい性質を持たせました。杉板の表層部をプレスでギュッと圧縮して硬度を高めたものになります。

天然素材である杉の一枚一枚異なる個性豊かな木目はそのままに、表面だけ加工されています。これを無塗装で使用しています。

デッキとして張られても見た目の違いは判りませんが、デッキの小口を見ると、表面だけギュッと圧縮されている様子が見れますので、これはぜひ立ち寄っていただいて見てください。

さらに、屋根がかかっているとはいえ半屋外、腐朽やシロアリの心配もあります。このデッキ材には、表層圧縮前にAZN乾式注入防腐・防蟻処理を施しています。

従来の防腐・防蟻材で使用されていた毒性の高いヒ素やクロムを用いず、毒性の極めて低い(食塩より毒性が低い)薬剤ですので安心です。色の変化もほとんどありませんので、薬剤が注入されているか見た目にはわからなくなっています。

※AZNは、防腐薬剤であるシプロコナゾールと防蟻薬剤であるイミダクロプリドを調合した薬剤

 

 

二種類目の木材利用として、morinosと既存の森の情報センターを繋ぐ接続部分のデッキ補修部です。

下の写真の右側の建物がmorinos、左側が情報センターで、黒い柱(実は雨樋ですがこれはまた別の機会に・・)を境に少しデッキの色が違って見えます。

この左側のデッキが二つ目の床仕様です。こちらも半屋外のため、岐阜県産ヒノキに防腐防蟻薬剤であるACQを注入した材になります。(圧縮加工はしていません)

使用したACQ薬剤もAZNと同様に食塩より毒性が低く、国内で使える防蟻工法として最も信頼性が高いとされていますが、難点があります。注入直後は、銅特有の緑色を帯びています。(下の写真:納品時)

時間経過とともに、次第に茶色、グレーと変化していきますが、先ほどの表層圧縮スギ材と並べて張ると違和感が出てきます。そこで、アカデミー本校舎でも使用している自然系塗料の一つドイツ製のオスモカラーを調合して色合わせを行いました。

※ACQは、銅・アルキルアンモニウム化合物系薬剤

 

三種類目の床材は、室内の床です。

美しい木目が出ていますが、こちらも岐阜県産スギ材です。室内なので、腐朽やシロアリの心配はいりませんが、屋外デッキと同様に土足での利用を考えていますので、やはり表面の傷や擦り減りが気になります。

外部デッキと異なり、こちらは、内部までギューと圧縮した杉圧密フローリングになります。30mmの杉板を15mmまで圧縮しナラ材(アカデミー本校舎の床)と同等の硬さに高めたものです。

板の断面は表層圧密と比べて繊維がつぶれていますがその分硬度が出ています。さらに表面にUVセラミックコーティングを施し、耐摩耗性を向上させつつ、さっと拭き掃除のしやすい仕上げとなっています。

圧縮したとはいえ、スギ本来の美しい木目(しかも無節)が来場者を迎えてくれます。

 

morinosでは、床材だけで3種類の木材利用を試みましたが、摩耗や腐朽、色の変化など、これから10年、20年と経る中でどのように変化していくのか、楽しみなところです。

 

さて、今回はスギ材の持つ個性:柔らかさにについて、土足利用時には弱点としてとらえ、圧縮技術を活用しながら用いていますが、スギの柔らかさは単純な弱点ではなく長所もたくさんあります。

スギの良さの一端は私が岐阜県山林協会発行の森林のたより2020年1月号に寄稿した「スギのフローリングは暖かい?」にも書いていますので、ぜひ合わせてご覧ください。

准教授 辻充孝