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2020年03月26日(木)

3Dモデルで情報共有しよう(morinos建築秘話21)

morinos設計には、多くの人が関わっています。ドイツに森林環境教育施設の取材に行き、学内外から様々な意見を聞き、条件をまとめて設計がスタートしましたが、設計中は、下記にあげる方々との情報共有が必要不可欠でした。

・morinosの意匠原案を担当した、隈研吾特別招聘教授
・森林文化アカデミー涌井学長
・隈研吾事務所スタッフのmorinos担当で非常勤講師の長井先生
・運営ディレクターのナバさん
・morinosを実際に運用する森林総合教育課
・実施設計を担当した県内設計事務所

……6箇所……。普段、僕の慣れ親しんだ住宅設計業務は、クライアントと設計者というシンプルな情報共有の構図なのですが、今回はとても複雑です。しかも、実際に図面を揃えるのは入札で決まった県内の設計事務所。
……これは、かなりきちんと情報が共有されていないと、誤解や間違いが起こります。morinosの設計は、全体を通してこの情報共有が大きな仕事の1つでした。

 

このために我々が使ったのは「3DモデリングソフトSketchUp」と「1:50模型」です。

 

morinos3Dパースについて2

morinos3Dパースについて2

基本設計段階で、17期生の坂田くんが模型を、大上さんがSketchUpで3Dモデルを作成し、学内外にプレゼンを行いました。図面だけの解説だと専門的すぎるので、立体にした方が伝わります。色や光の具合も表現できますから。基本設計講評会では隈研吾先生や涌井学長、ナバさん、ドイツロッテンブルク林業大学のデデリッヒをはじめ、会場全体にわかりやすく共有できたと思います。

そして始まった実施設計。ミリ単位の細かな納まりの検討が始まり、ディティールのデザインも出てきます。この時3Dモデルが大活躍しました。

実施設計図を担当した三宅設計へのイメージ伝達はもちろんですが、隈研吾事務所とのデザイン検討のやりとりは、形状を数パターン作って相談することが多く、図面メモの他にSketchUpの表現力で迅速な共有ができました。

また、ランダム格子の例にあるように、意匠そのものを検討する際にも活躍しました。
いくつか検討事例を見てみましょう。

■屋根ケラバ天井板の見え方

morinos3Dパースについて7

わかりますでしょうか?
morinosの天井板は、断熱材の厚み分を先端に行くにつれて絞っていく形状のため、二回折っているのですが、そのまま建物の端までくると分厚さが表現されてしまいます。「太くみえる」とコメントがありますよね。(1枚目)
ここは外部で断熱材が入っていないので、薄くすることができますが、そうすると先端部分が並行にならない。(2枚目)
折る場所を変えて、先端の勾配も揃えるという案も出ました。(3枚目)
悩ましいところです。
最終的には折る場所は揃えて、並行でない納まり、つまり画像2枚目に落ち着きました。

 

これを図面や言葉で表現するのは……すごく大変です。
3Dなら一目でわかり、視点も変えて印象を見れます。素晴らしい!

 

■登り梁の見え掛りと照明器具の納まり

今度は何を検討しているかわかるでしょうか?なんだか照明器具が見え隠れしているが……。
これ「登り梁の見え方」検討しています。天井板を張る高さによって、見え方が違います。照明器具の寸法も正確に入れ、ここは熟考しました……。
morinosの集成材登り梁、ここは大きすぎず、小さすぎず、スリットから絶妙な見え方にすることで、力の流れの見える安心感と軽快さの両立を目指しています。
三枚の画像のどれがちょうどいいでしょうか?隈研吾事務所の長井先生にもこの三枚を送り、意見をお聞きしながら決めました。
どれに決定したかは……morinosに見に来てくださいね。

 

■土の洞窟

morinos土の洞窟1

土の洞窟は、垂れ壁の長さや、ベンチの厚みが大きく印象を左右するので3Dで検討しました。
特に、ストーブ位置と垂れ壁の検討には大活躍。

ボツ案には上記のような漆喰の垂れ壁もあったのです。白い壁が目立ちすぎることや、天井の勾配に垂れ壁を取り付けると重すぎる、とってつけたような印象になるので、最終的に土の洞窟に。この辺りの話も記事にまとめてあります。洞窟をつくることで、全体がメリハリある空間になりました。

 

■日射の入り方

3月10日15:00のmorinosです。ほぼ日照シミュレーション通りに直射日光が入っています。(ちょっと見えにくいけど3Dの格子にも光があたっています。)
昼光利用の話にもありましたが、昼間は照明が不要です。

また、冬はできるだけ日射を取り込み、夏は遮るのが温熱計画の基本。morinosの8月1日のシミュレーションでは、下の画像のように、少し西日が入ります。この後の連載で温熱計画の話にも出て来ますが、morinosは室内空間を均一な温度環境にはしていません。エアコンに効き方やドアの開くタイミングで、場所ごとに体感が変わります。ですので、季節ごと場所ごとの居場所探しも楽しめると思います。この時期はカウンターがいいなーとか、夜はここがいいとか……。真夏の西側は、植栽などで工夫して日射を遮ってもいいかもしれません。

 

どうですか?3Dモデル、わかりやすいでしょう。かなり正確に描いてるの、わかってもらえたでしょうか(笑)。

建築専門家同士で、簡単な設計なら、電話の会話だけで図面なしの意思疎通ができることもあるのですが、同時に多人数に専門でない人にも正確な情報共有をする時には、3Dモデルは本当に便利です。今後、設計者は2Dと3Dが両方できると、様々な点でいいですね。特に、都会の狭小敷地に設計する時は、隣家が日射をどのくらい遮るのか正確にシミュレーションできますよ。

アカデミーでも学生さんから熱望されて「SketchUp講座」を特別開講し、操作の実習を行いました。受講した学生のみなさん、卒業する頃にはSketchUpマスターになってますよね?

 

木造建築教員:松井匠

 

morinosマニアック———————————————

内部からの眺めや、バックヤードの雰囲気を検討したいので、周辺施設や地形も描いています。
……実は「森の情報センター」の立体樹上トラスを描くのが最も難易度が高かったのですが、あまり検討には使いませんでした。