活動報告
2020年04月21日(火)

環境性能を総合的に評価するCASBEE ~環境負荷低減の取り組み~(morinos建築秘話43)

CASBEEという言葉を聞いたことはあるでしょうか。

Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiencyの頭文字です。

???

日本語に訳すと「建築環境総合性能評価システム」。

・・・・!

やっぱりよくわかりません。
ですが、日本らしい非常にユニークは評価システムで、簡単に言うと、建築物の「エコ度」を総合的に評価する仕組みです。

建築の専門家でも、CASBEEをしっかり評価できる人は少ないと思います。
(森林文化アカデミー木造建築専攻では「環境性能設計2」の授業で、住宅版CASBEE評価を学びます。)

 

このCASBEE評価の何がユニークかというと、単純に性能をあげれば良い評価になるわけではなく、性能を向上しつつ、同時に環境負荷を減らさないといけません。

 

つまり下の計算式で求められる環境性能効率BEEで評価するのです。

分子の環境性能(Quality)を向上しつつ、分母の環境負荷(Loading)を減らさないと、環境性能効率BEEが向上しません。

環境性能Qは100点満点で考え、50点が普通の建物です。環境負荷Lも非常に多いと100点満点で50点が普通の建物です。(環境負荷は0に近づくほど性能が良いです)

ですので、何も工夫していない一般的な建物は環境性能効率BEEは1.0になります。(下の計算式)

一方で、超高断熱にして、高効率設備も導入して、免震装置も入れて、敷地内の緑化もどんどんやって・・・と、非常に高性能な建物を設計したとしましょう。

環境性能Qは100点満点です。

ですが、建設時や運用時、解体時にエネルギーをたっぷり使ったり、敷地周辺に排熱や騒音をまき散らして環境負荷もたっぷり100点だとすると、環境性能効率BEEは1.0と普通の建物と同じになります。(下の計算式)

また、段ボールハウスのように、非常に寒く環境性能が低くてQは25点、ですが建設・運用・廃棄のエネルギーも少ないので環境負荷Lも25点だと、環境性能効率BEEは1.0と、これも普通の建物と同じです。(下の計算式)

では、どうすればいいかというと、環境性能Qを高くしながら、環境負荷Lを減らしていけばいいのです。

極端な例だと、環境性能Qが100点、環境負荷Lが25点で、BEEが4.0と、実に4倍もの性能になります。

morinosがどんな評価になるのか、ちょっと面白そうでしょう。

では、どのような項目で評価するか見てみましょう。

総合的な環境評価ツールなので、非常にたくさんの項目で評価していきます。

 

具体的には、

環境品質Qにも3つの大項目がありさらに中項目、小項目と細分化されていきます。

Q1:室内環境で、23項目
Q2:サービス性能で、30項目
Q3:室外環境(敷地内)で、4項目

の環境性能Qだけで、57項目

環境負荷低減性LR(Load Reduction)にも3つの大項目があり、

LR1:エネルギーで、7項目
LR2:資源・マテリアルで、13項目
LR3:敷地外環境で、15項目

の環境負荷低減性LRだけで、35項目

建物全体で考えるとなんと合計92項目も評価する必要があるのです。

 

非常に大変ですが、CASBEEで評価することによって、幅広い視点で建物を考えることができるようになります。

では、morinosのCASBEE評価はどのくらいでしょうか。
CASBEE建築(新築)で評価してみました。

 

CASBEEでは、それぞれの項目を5段階レベルで評価しますが、レベル3が一般的な建物性能、レベル5高い性能、レベル1が低い性能を示します。

 

今回のブログでは分母側の環境負荷低減性LR項目について、主要な項目を見てみましょう。
(分子側の環境品質Qは別の機会に紹介します。)

非常に専門的で長くなりますが、環境性能に少しでも関心のある方は、ぜひお読みください。

 

LR1 エネルギー

LR1は、エネルギー全般に関する取り組みを評価する項目が並びます。

◆LR1.1:建物外皮の熱負荷抑制

環境負荷低減の最も基本的な事項です。建物の断熱や日射遮蔽によって、暖冷房の使用エネルギー削減を評価する項目です。
エネルギー消費量予測 67%削減(morinos建築秘話17)

で紹介した通り

Morinosの暖冷房負荷PAL*は236MJ、省エネ基準(一般的な建物)は470MJですので、概ね半分です。

20%削減以上がレベル5ですので、morinosは余裕でレベル5になります。

 

◆LR1.2:自然エネルギー利用

昼光利用や通風利用など直接自然エネルギーを利用して環境負荷を減らす取り組みを評価する項目です。

昼光利用のねらいと効果:日中は照明いらず(morinos建築秘話19)

で紹介した通り、各方位に大開口を設け、特に南面は吹き抜け上部に壁をランダムに配置したハイサイドライトを設けることで、空間全体に光を取り入れています。

ハイサイドライトから空間の奥まで届く昼光

また、春や秋の気持ちいい季節には建具を開け放つことで通風効果も得られます。
風速1.5m/s(美濃市6月頃)、風圧差係数0.05と想定し、ざっと換気回数を計算してみると、東のエントランスと南の建具1面だけ開けると5回/h程度、南3面の建具を開け放つと8回/h程度の通風が得られます。5回/h以上程度の換気回数で、体感できる程度の通風効果が得られますので、開口部を開け放つと適度な風の心地よさが得られそうです。

オリフェスの式より換気回数を算出した例

東面の大開口はフルオープンで、通風に加え来場者を迎えます

また、昼光利用と通風効果によるエネルギー削減を計算してみると、

 

〇昼光利用で、11.23MJ/㎡年

(ハイサイド分21㎡、床面照度200lx(6W/㎡)、有効時間8時間、有効日数245日、晴天率60%と想定)

 

〇通風利用で、25.45MJ/㎡年

(利用人数20人×顕熱55Wの発熱、照明+家電で15W/㎡、有効時間8時間、有効日数152日、有効期間50%と想定)

 

となり、合計で36.68MJ/㎡年程度の削減を見込めます。

これを入れてレベル判定を行うと、最高レベルのレベル5になります。

 

◆LR1.3:設備システムの高効率化

空調や照明などの高効率化によって、使用するエネルギー削減を評価する項目です。

こちらも

エネルギー消費量予測 67%削減(morinos建築秘話17)

で紹介した通り

Morinosのエネルギー設計値は46.1GJ、省エネ基準(一般的な建物)は143.2GJですので、概ね67%削減です。

40%削減以上がレベル5ですので、morino設計値は余裕でレベル5になります。

 

◆LR1.4.1:モニタリング

エネルギー使用の状況をモニタリングして効率的な運用につなげる取り組みを評価する項目です。

morinosは、アカデミー本校舎との切り分けができず単独のエネルギー使用量も含めて、現状では機器自体もモニタリングできない状況です。
今後、分電盤などに計測器の設置等で、モニタリングできる仕組みを考えていきたいと思います。
ここは、一般的な状況なのでレベル3となります。
こういった、環境への取り組みの不足箇所の気付きもCASBEEの効果です。
今後の設置によって、レベル向上が見込める要素です。

 

◆LR1.4.2:運用管理体制

施設の運用管理体制の状況を評価する項目です。

morinosは施設管理体制が組織化され、責任者が指名されており、一般的な施設運用のレベル3となります。

さらなるレベルアップには、施設のエネルギー消費の目標値の計画や、定期的な設備性能検証などをする必要があります。モニタリングの設置に合わせて検討したい項目です。

 

LR2 資源・マテリアル

LR2は使われた材料やリサイクルのしやすさなどの評価項目が並びます。

◆LR2.1.2:雨水利用システム導入

雨水利用を評価する項目です。

moinosでは、

雨樋のデザインと機能、雨水タンク(morinos建築秘話12)

で紹介した通り、活動プログラム用に手押しポンプと921ℓの地下雨水タンクが設置されています。

これで、1段階評価があがり、レベル4となります。

さらなるレベルアップには、雨水利用率を求めて20%以上の雨水利用が求められます。

このほか、LR2.1では節水や雑排水利用を評価しますがmorinosは一般的なレベル3です。

 

◆LR2.2.3,LR2.2.4:リサイクル材の使用

構造躯体やそれ以外の部位にリサイクル材を使用しているかを評価する項目です。

断熱材には、新聞紙をリサイクルしたセルロースファイバー断熱材を建物全体に使用しています。

セルロースファイバー 断熱材の選択(morinos建築秘話20)

その他には、特にリサイクル材は使用しておらず、一般的な建築と同等のレベル3となります。

morinosの屋根にセルロースを吹き込んでいる様子

◆LR2.2.5:持続可能な森林から算出された木材

適正な木材の使用率を評価する項目です。

Morinosは当然すべての材が岐阜県産材で、証明書も取得し合法的に伐採された材ばかりです。

ウッドマイルズ算出においても、産地などの確認を行っていきました。

木材の輸送過程を見つめるウッドマイルズ(morinos建築秘話34)

木材全体の50%以上が持続可能な森林からの木材でレベル5ですので、適正木材使用率100%のmorinosは余裕のレベル5です。

◆LR2.2.6:部材の再利用可能性向上への取り組み

まだまだ先の話ですが建物解体時に、リサイクルできる取り組みを評価する項目です。ライフサイクルを考えた際に非常に重要な環境負荷低減の取り組みになります。

morinosは、通気層を介して、構造躯体と仕上げ材が容易に分別可能となっており、内装材と設備が交錯せず改修・解体時も容易にそれぞれ取り外せます。

二層構造の屋根や壁 ~防露・防雨設計~(morinos建築秘話25)

また、木造軸組建築物の優位性として、構造躯体が容易に分解でき再利用が可能です。

当然レベル5になります。

 

◆LR2.3.1:有害物質を含まない材料の使用

シックハウス症候群や環境ホルモンによる内分泌撹乱などの健康影響を及ぼす化学物質(揮発性炭化水素、有機塩素系化合物、農薬、金属化合物など)のきわめて低い材料の使用を評価する項目です。

揮発性有機化合物(VOC)は環境性能Qの項目で評価するため、ここでは対象外としています。

morinosは塗料や接着剤などにこだわり、レベル5となります。

 

◆LR3.2:フロン・ハロンの回避

消火剤や発泡断熱材等で、フロン・ハロンが使用されてきた歴史があり、オゾン層破壊の原因にもなっていました。そこでODP(Ozone Depleting Potential)やGWP(Global Warming Potential)の低い材料を評価する項目です。

Morinosのメインの断熱材セルロースファイバーには当然、ODPもGWPも含まれておりませんが、基礎断熱に用いた発泡断熱材フェノバボードはどうでしょう。

フェノバボードの発泡ガスは非フロン系で、ODPはほぼ0、GWPは11です。(参考として代替フロンのHFC134aで1430なので今回の断熱材は極めて小さいです。)

床下の基礎断熱はフェノールフォームの一種、フェノバボード

LR3 敷地外環境

敷地の外に対する負荷を評価する項目です。敷地内の評価は環境性能Qで評価しますので建物周辺の緑化などはここでは対象外です。

◆LR3.1:地球温暖化への配慮

地球温暖化対策の取り組み具合をライフサイクルCO2で評価する項目です。

建物の一生涯を考えた際に、建設段階、運用段階、修繕・更新・解体の3つの段階でそれぞれ評価していきます。

今回は60年間、建物を使用する想定で計算してみました。

morinosは34.90kg-CO2/年㎡となり、一般的な木造建築66.38 kg-CO2/年㎡と比べて47%のCO2排出量を削減したということがわかります。(建設や修繕などは、総量を使用期間の60年で割った値)

一般的な木造建築で見てみると、運用時が最も多く全体の66%を占めます。

建設時に製造エネルギーの少ない自然素材で造る「材料のエコ建築」も大切ですが、いかに運用時の電力やガスなどの運用CO2(エネルギーも同様)を減らす「運用のエコ建築」が重要かがわかります。

この話は建築秘話17でも書いているので参考にしてください。

エネルギー消費量予測 67%削減(morinos建築秘話17)

さて、CASBEE評価は、50%削減以上がレベル5ですので、惜しくも届かずレベル4.8になりました。

 

◆LR3.2.1:地域への大気汚染の防止

燃焼機器のNOx、SOx、ばいじんなどの大気汚染物質を評価する項目です。

Morinosは燃焼機器である薪ストーブを設置しています。

「土の洞窟」と針葉樹を燃やせる薪ストーブ(morinos建築秘話18)

薪ストーブAGNI-CCは、一次燃焼で燃え残った微粒子やガスにもう一度新しい空気を噴射させ、二次燃焼するクリーンな排気を実現したシステムで、さらに2つの触媒によって、低温から高温までフルレンジで、クリーン燃焼を実現している点が特徴になり、今回はレベル4と想定しました。

二次燃焼+触媒を利用した薪ストーブ

◆LR3.2.2:地域の温熱環境悪化の改善

地域環境に対して、温熱環境の悪化に対して行っている対策を評価する項目です。

Morinoでは事前調査として、美濃気象観測所のデータを分析しました。

また、建物形状を抑え、敷地内の風通しやに配慮しています。
同時に、日射反射率40%以上の屋根の板金によって、敷地外への熱的な影響を低減しています。

また67%の省エネ化によって建築設備からの排熱も抑えられます。

これらを総合して判断してレベル5となります。

 

◆LR3.2.3.1:雨水排水負荷低減

地域への雨水排水の負荷を評価する項目です。

Morinosの外構は舗装せず、基本的に自然浸透としています。
屋根への雨水は一部を雨水タンクへ蓄える計画です。

この対策によりレベル4となります。

 

◆LR3.2.3.3:交通負荷抑制

適切な駐車台数の確保、周辺の渋滞の緩和策についての取り組み評価の項目です。

また、自転車の利用(代替交通手段の利用)や循環バスルートを推進することで、評価が上がります。

morinosには屋根付きの駐輪場がまだなく、その分評価が下がりますが、今後の整備によって向上する可能性のある項目です。

 

その他、ゴミの抑制への取り組みや、汚水処理などの取り組みを評価しました。

 

また、騒音、振動、悪臭、風害、砂塵、日照障害についても規制地域であれば評価を行いますがmorinosは評価対象外です。

 

◆LR3.3:光害の抑制

適切な明るさが得られているか、動植物に影響を与える過剰な明るさになっていないか、室内のグレア対策がなされているかなどの適切な光への取り組みを評価する項目です。

 

以上がCASBEE評価の分母側、環境負荷低減性LRの35項目です。

 

まとめてみると平均レベル4.2です。(一般的な新築木造建築がレベル3)

なかなかいい数値になったのではないでしょうか。

スコアも出ました。

環境負荷Lは19点です。(100点が環境負荷が最大になるので、なるべく少ない方が良い。)

つまり、環境品質Qはまだ不明ですので現状は下記の通りです。

あとは、環境品質Qをいかに高くできるかで、morinosの環境性能効率BEE(エコ度)が決まってきます。

今回のブログでは、これまでの建築秘話の話題もいたるところで引用されています。
環境の総合評価という意味合いが感じられたでしょうか。そんなことまで考えるの?という項目もあったのではと思います。

ですが、まだ下半分だけの評価です。もっとボリュームのある上半分が残っています。

上半分の分子側の環境品質Qの57項目についてはまた別の機会に紹介します。楽しみにしてください。

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。

morinos建築秘話シリーズ

准教授 辻充孝


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