活動報告
2020年03月25日(水)

昼光利用のねらいと効果:日中は照明いらず(morinos建築秘話19)

morinosのエネルギー消費は空調と照明がほとんど。照明エネルギー削減のためには、昼光をうまく活用するに限ります。

今回はその昼光利用のねらいと効果について。

光を考えるうえで、まず優先すべきは太陽光(昼光)を活かすことです。なぜなら、光環境で求められる①時間のリズム、②強度・明るさ、③質(スペクトル)が優秀だからです。

下の図がmorinos内部で測定した朝の光のスペクトルです。鮮やかな色が合わさって空間が照らされています。

この太陽の光は、昼には全体の強度が強くなり、曇ると全体が弱く、夕暮れ時は明るさが少し落ち着きながら色合いは赤みが強くなったりと変化します。同時に東から差し込む朝日から夕方の西日まで、時間とともに光源が移動します。

この時間のリズムは人工照明ではなかなか実現できません。また、ほぼ無限のエネルギー源である太陽ということも省エネの観点から重要です。

照明計画と光の質(morinos建築秘話9)」で光の考え方と大切さの話をしていますので参考にしてください。

では、この昼光を効果的に利用するにはどうすればよいでしょうか。

光環境が対照的なアカデミー本校舎とmorinosを比較してみましょう。
下の写真は同じくらいの大空間の森林文化アカデミー学生ホールとmorinosホールをほぼ同じ時間に撮影したものです。
カメラの設定はどちらも同じ設定です。(ISO感度100、シャッタースピード:1/15、絞りF7.1、画角24mm、白飛び黒つぶれしすぎないあたりを狙いました)

morinos ISO100 1/15 F7.1 24mm

学生ホール ISO100 1/15 F7.1 24mm

外の光は、ほぼ同じはずなのに、明るさ感が全く異なります。実際の体感はもう少しましです(学生ホールがもう少し明るく感じる)が、それは目の瞳孔の調整によるものです。
人の目は、非常に優秀な調整機能を持っており、月明かりの1 lx(ルクス)から日中の10万 lxまでうまく瞳孔を絞って調整しています。10万倍の調整機能があります。

昼光利用のポイントは、昼光を取り入れる開口部の大きさや室内の反射率、室形状です。
アカデミーの学生ホールは、空間に対して開口部が小さく、床や天井が黒く塗られて光を反射しません。
一方でmorinosは、大きな開口部があり、床や天井も明るめの杉板が使われています。

17期生の学生が、照明の課題研究を行った際に、反射率を測定する方法をまとめています。
精度よく反射率を得るには色差計(XYZ色表系におけるY視感反射率)を用いるのですが、専門家へのインタビューより人の目の感度もなかなかということで、簡易法を提案しています。

色見本帳のグレーのマンセル値より、人の目で近い明るさを選ぶと概ね正しい反射率を得るというものです。

下の写真はmorinos室内の圧密フローリングです。どのグレーが近いでしょう。んん、意外と難しいですね。

カラー写真だとわかりにくいので、カメラ設定のグレースケールで撮影してみました。(下の写真)

左から3番目(KN-60)くらいでしょうか。マンセル値から反射率は概ね30%となりました。

ではアカデミー本校舎の床はというと、カラー写真ですがいかがでしょう。(下の写真)
一番右(KN-10)くらいでしょうか。反射率は1%。

それは、暗いはずです。室内に入ってきた光がほとんど反射しません。

 

ではmorinosではどのくらいの明るさが確保できるか、隣等距離、ガラスの透過率、室内の反射率、室形状から室内の予測照度を計算してみました。

下の表は照度(lx:ルクス)を表し、季節、時刻ごとの全天空照度から求めた目安です。

各セルに3つの数値がありますが、真ん中の値が50パーセンタイル値(中央値)です。
この値を基準に考えて、天候の影響で曇ったり、快晴になったりと値の幅が振れることになります。
下のmorinosの計算結果を見てみると、濃いオレンジに塗られている時間帯が200lx以上確保できており、照明がなくても一般的な活動であればこなせる状況です。
どの季節も、概ね夜明けから夕暮れまで照明ナシで過ごせそうです。(演出照明を除く)

morinos昼光利用計算結果

15時前(天気晴れ)の室内中央あたりの床面照度です。
ちょうど春分を過ぎたところですので、上の表の春の14時~15時を読み取ると、中央値で1406lx、天気がいいと1824lxあたりと読み取れますので、概ねあってますね。

一方、アカデミーの学生ホールはというと、下の表になります。
日中は、かろうじて100lxを確保できていますが、照明ナシでは一般的な活動はしにくい明るさとなっています。
講義などでプロジェクターを使用する場合は逆にいい感じです。

アカデミー学生ホール 昼光利用計算結果

マニアックにもう一段階、光環境を考えてみます。

上の表で示したのは照度です。
照度とは、ある点に届く光の量です。

例えばノートに届いている光の量のことで、照度が不足すると暗くて文字が読めません。一般的にJIS規格で、各種作業の照度基準が定められています。(勉強する時には750lxとか、団らんは200lx)

暗いと感じる先ほどのアカデミー学生ホールの窓際の床を想像してください。しっかり窓から日光が入ってきていますので照度はしっかり確保されています。
実際に計測すると750lxくらいありそこまで光の量が少ないわけではありません。

ですが、なんか暗い・・・。
これは床が黒く光をほとんど反射しないためです。目に入ってくる光は反射光ですので、せっかく窓際に入った光が目には届かず、暗く感じてしまうのです。

これを評価するのは、輝度(cd/㎡:カンデラ パー ヘイホウメートル)といわれるもので明るさ感を表します。

実際に輝度カメラで撮影してみると、学生ホール(下の写真)は水色に染まっています。
概ね1~2 cd/㎡と明るさ感はほぼ感じられません。一方窓の外はオレンジ色に染まり200~500 cd/㎡とかなり明るく見えます。(左の色バーは対数目盛のため、少し読みにくいです)

学生ホール 輝度分布

一方morinos(下の写真)では、全体が黒っぽい赤に染まっています。
輝度が1000 cd/㎡を超える勢いです。全体が明るく見えていることを示しています。暗いところ(黄色)でも50 cd/㎡程度です。

morinos 輝度分布

前半で述べたように、人の目は非常に高性能なセンサーで、自動調整してくれるのですが、窓の外が明るかったりすると、そちらの明るさをベースに調整してしまい、空間が薄暗く感じてしまいます。

昼間の活動が中心となるmorinosでは、この輝度差をなくしつつ、全体の明るさ感を得ることが重要と考え、全体的に開口部を大きく、光の反射によって明るい空間づくりを目指しました。

最後に、、、アカデミー本校舎の暗さが悪いわけではありません。
アカデミーを設計した建築家の言葉から狙いを読み解くと、意図的に暗がりを残すことで、その先へのイマジネーションを働かせることにあるようです。確かに天井面が昼間でも黒く、見上げてもどのような構造か見えてきません。
どうなっているのだろうと、関心が高まり、暗順応で目が慣れてくると、ようやく全貌が見えてきます。平面計画でも先が見通せない場所がいたるところにあり、日常的にその先まで想像力を働かせる仕掛けです。
そのうえで、教室は照明計画によって、机上面で適切な明るさ(750 lx以上)が確保されています。

建築計画においては、空間の目的に合わせて、昼光利用と照明とがうまく計画されているべきなのです。
その意味では、昼光環境としては対象的なアカデミー本校舎とmorinos、ぜひ体験してみてください。

準教授 辻充孝


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