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2021年01月22日(金)

人がいないときの室温は?非日常のmorinos~冬の実測その3~(morinos建築秘話55)

薪ストーブやエアコンといった暖房設備を使用しないmorinosの建物本来の温熱性能はどの程度なのでしょう。
今回は、人がいないときの室温(自然室温とよびます)の分析をしてみたいと思います。

森林文化アカデミーは、毎年12月29日~1月3日まで冬期休業のため、完全閉鎖で誰も入れません。morinosも例外ではなく、建物には入れない状態でした。

ちょうど建物本来の性能が確認できる良いデータが採れました。

12月28日~1月6日の10日間の気温変化

まずはこの冬休み期間前後の12月28日~1月6日の気象状況を見てみます。
青い実線が、morinos北側で計測した外気温(左のメモリ)。一部データ欠損があります。
そこで、美濃気象観測所のデータ(青い点線)を重ねています。概ね同じ気温を示しています。

オレンジの棒グラフが日照時間(気象観測所のデータ)です。1時間ごとに示していますので、右のメモリで1まで伸びていると、その間はずっと日照があったことを示しています。

この時期の平均気温(1981年~2010年)は、4.6℃(12月下旬)~5.7℃(1月上旬)。
最高気温は9.0℃~10.4℃、最低気温は0.8℃~1.5℃です。(グラフの水平の水色点線)

ここから外気温を眺めると、12/31~1/3は最高気温でも2.6℃とかなり冷え込んでいるのがわかります。(青い矢印期間)
前後の期間は、比較的平年並みという感じです。12/30の朝は、比較的暖かい朝だったようです。

日照時間を見てみると、これも1/1~1/3は、ほとんど日照時間がありません。(薄オレンジの矢印期間)
1/4~1/6はほどほどに日照時間が出てきています。

 

次に電力消費量の実測値(緑の面グラフ)を重ねてみます。(右のメモリで読みます。単位はkWh)

冬期休業の予定通り12/28までは、エアコンや照明などで日中に電力消費量が2kWh程度ありますが、冬期休業期間中の12/29~1/3はセキュリティ等の最低限の電力消費量(0.14kWh)となっています。
1/4は開館日なので、通常通り2kWh程度発生しますが、1/5、1/6はmorinosの休館日のため最低の電力消費量だけしかありません。

では、この外気状況の上に、室温を重ねてみます。

上下の変化が緩やか濃い茶の線が床下の室温、黄色い線が足元、オレンジが腰高、赤が頭の高さの室温を示しています。
4か所で測定している室温の変化は様々なことがわかります。
そこで、特徴的な2つの期間を取り上げて分析してみます。

分析1として、平年に比べても非常に寒く、日射がなかった1/1~1/3の期間。(利用者もなく、建物本来の性能が見れます。)
分析2として、平年並みの気温で、日射も概ね平年並みの1/4~1/6の期間。(1日目は通常利用、残り2日は建物本来の性能が見れます。)

 

分析1:日射がなく寒い日の温度変化

まずは、最も厳しい条件の1/1~1/3のデータです。さすがに寒くて日射が無いと全体的に寒いですね。
この3日間を通して平均外気温は、1.0℃。(かなり寒い)
腰高の平均室温は、8.3℃、床下の平均室温は、10.4℃となっています。

 

外気から遠く影響を受けにくい床下の室温が最も暖かく、最低と最高室温の変位差も小さく安定しているのがわかります。

一方、室温(足元、腰高、頭の高さ)はほぼ同じような動きです。日射があった初日の昼間に腰高と頭の高さが少し高くなっているくらいです。
morinosはガラス面(主にトリプルガラス)が多く、日射があれば熱が供給されますが、この期間は直射日光(直達日射)による熱供給がほとんどありません。

実際は、曇っていても空が明るい日中では、雲や大気中の浮遊粒子で散乱されやってくる日射エネルギー(天空日射)があります。美濃市の1月は、晴れていれば、直達日射と天空日射の量は概ね同じくらいです。
この期間は、雲が厚めでしたので、天空日射もそれほど多くなかったと推測されます。(実測はしていません)

加えて休館日なので、人体やOA機器からの発熱もほとんどなく、基本的に外部に熱が逃げ続けるだけの状態です。

トリプルガラス開口部は、しっかり断熱された壁に比べて約5倍程度、熱が逃げやすいため、直達日射の無い日は、室温がどんどん外気に近づいていきます。
右下に向かって下がっていく勾配を緩くするのが断熱です。断熱が弱いと、夜間から明け方にかけて1日で外気温近くまで下がってしまいますが、morinosは断熱性能の効果で、日射が少なくなった12月30日から5日経った1月3日の時点でも、明け方の外気温と室温差が6℃近くあります。

分析2:平年並みの温度変化

次は、平年並みの1/4~1/6のデータです。分析1のデータよりかなり暖かいことがわかります。
この3日間を通して平均外気温は3.9℃。(平年値5.7℃より寒いですが分析1より2.9℃も高い)
腰高の平均室温は、14.2℃、床下の平均室温は、12.8℃となっています。

初日はスタッフの方がいてエアコンと薪ストーブが稼働していますが、2日目以降は人がいなくて暖房が動いていないため、日射が適度にある場合の自然室温が確認できます。

まずは明け方の室温を見てみます。
初日は前日までが冷え切っていたため、6℃とかなり寒いです。
2日目は初日(1月4日)の暖房と日射熱の持ち越しがあり10℃まで持ち直しています。
3日目も同様の10℃以上をキープしています。前日(1月5日)は休館日のため暖房はなく日射熱だけで、同じくらいの明け方の室温を維持しています。
つまり、平年通りに日射があれば、無暖房でも冬期に10℃を下回ることは少ないことが読み取れます。

次に、日射+暖房をつけている場合(初日)と日射だけの場合(2日目)の室温を見てみます。
1月4日(初日)の最高室温が13時に28.0℃とかなり暖かくなっています。
これは「冬の日常?~冬の実測その1~(morinos建築秘話49)」でも分析した通り、明け方の室温が6℃と低かったため、エアコンと薪ストーブで朝から暖房をつけている状態で10時頃から多量の日射が入ったために、オーバーヒート近い室温まで上がってしまったためです。エアコンはすぐにオフにできて熱供給を断てますが、薪ストーブはオンオフの切り替えのタイムラグがあるためこうはいかず、室温が上がってしまいます。

1月5日(2日目)は、暖房が無い状態ですが、13時に室温は26.2℃まで暖まっています。やはり南開口部からの日射熱の影響が大きいことがわかります。
ですが、室内が暖かいということは外気温との差が大きいということです。温度差が大きいため逃げる熱も大きくなります。そのため、2日目は最高室温からの温度低下が早くなっています。(傾きは急勾配)初日は薪ストーブの影響もあってか、夕方近くまで暖かい状態を維持しています。
ある程度室温が下がって外気温との温度差がなくなってくると、熱流出が緩やかになるため、暖房設備のオンオフの違いによる翌日の明け方の温度(両日とも10℃くらい)への影響は少ないようです。

床下は分析1と同様に外気の影響を受けにくいため、最低と最高室温の変位差は小さく安定していますが、日射や暖房設備が加わっても、それらの熱が行き届きにくく平均的室温は最も低温になります。

以上が自然室温の分析になりますが、建物性能が同じでも、気温や日射量といった外部条件次第で、無暖房時の室温は大きく影響を受けることがわかります。

これらの動きを整理すると、
建物の熱損失量は270W/K程度(建築秘話28参照)なので、明け方の室温との温度差は2日目で8℃程度、つまり、270W/K×8K=2,160Wの熱が逃げています。そこに、太陽からの日射熱が概ね10,000W入ってくるのですから室温が大きく上昇します。
エアコンや薪ストーブも概ね10,000Wの発熱が見込める(建築秘話29参照)ので曇っていれば、設備が有効ですが、晴れる日は過剰に熱供給がされてしまうことになります。運用方法が大切になってきます。

暖房設備を賢く運用することで、心地よく健康的に活動できる術を考えていければと思います。

 

 

morinosマニアック-------------------

すでに本文からマニアックすぎますが、morinosマニアックでは、さらに計算結果との比較を行ってみました。

設計段階で私の作成したシミュレーションツールで室温予測を行っていました。(このツールはアカデミーの環境工学の授業でしっかり学びます。)
薪ストーブとエアコンの空調設備計画(morinos建築秘話29)

このツールで実際の状況が再現できるのかを試してみます。ある程度の再現性があれば、設計段階でのシミュレーションツールの有用性が確認できます。

建物の温熱性能(断熱や日射熱制御など)、気象庁の外気温(実測はデータ欠損があったため気象庁データ)、初日の室温、日射量(日照時間を反映させて直達日射と天空放射の割合で換算)の目安、蓄熱量(100kJ/㎡K)、電力消費分の140Wを入力して計算してみました。幾重にも塗り重ねたシンボル壁(建築秘話45を参照)も蓄熱量に考慮(+30kJ/㎡K)しています。

分析1のシミュレーション値と実測値の比較

分析1で想定した1月1日~3日のシミュレーション結果は以下の通りです。なんとなく、実測値と同じような結果になっています。

この室温予測データを実測グラフに重ねてみます。

赤い点線が上で計算したシミュレーションの値です。実測値よりも低めの値が出ました。

見るべきポイントは2つです。

1つ目は、夕方から夜間にかけての温度低下の傾きです。実践と点線を比べてみると、ほぼ平行になっています。点線の方が温度が低い分、外気温との温度差が少なく微妙に緩やかになっています。
概ねシミュレーション通りではないでしょうか。

2つ目は、日中の室温です。これはそれなりの開きがあります。
この開きの原因として、熱の供給が不足していることが思われるため、日射量の想定が異なっていると考えられます。
気象庁のデータは、日照時間(h)しか測定していませんので日射量(W/㎡)が不明です。
そこで、日射量の想定は、美濃市の平年日射量(1990~2009年)の最も少ない日を天空日射のみと想定し、日照時間から天空日射と直達日射が同じ日射量と想定して追加しています。(例えば1時間当たりの日照時間が1時間の時間帯は、その時間の日射量を2倍にしています)
もう少し詳しい計測ができていれば、精度が上がってくると考えられます

 

分析2のシミュレーション値と実測値の比較

次に分析2の期間、1月4日~6日のシミュレーション結果を見てみます。
分析1と同様に、気象庁の外気温データと初期室温を設定して計算しています。

このシミュレーション結果を実測グラフに重ねてみます。

赤い点線がシミュレーションの値です。こちらも実測値よりも低めの値になりましたが、概ね近い傾向が確認できます。

注目すべきは温度低下の傾きと、日中の室温、明け方の室温です。

まずは温度低下の傾きですが、実測値とかなり近い傾きを示しています。建物性能の入力が適正で、施工が丁寧に行われていることがうかがえます。

最高室温は、初日と2日目が4℃程度低く、3日目は2℃程高くなっています。これも分析1と同様に、影響の大きな日射量の計測ができていないために発生している差異と考えられます。
分析2の日射量の想定は、美濃市の平均日射量(1990~2009年)をベースに、日照時間から天空日射と直達日射が同じ日射量と想定して減らしています。(例えば1時間当たりの日照時間が0時間の時間帯は、その時間の平均日射量を半分にしています。)

明け方の室温は、日中ほどの差はなく、昼の温度上昇が少ない分、低めに計算されています。

分析1,2を概括すると、日射量の影響で日中の室温の差はありますが、建物性能を示しやすい温度低下の傾きは概ねそろっていました。
設計段階で、温熱性能を検討する重要性が確認できたのではないでしょうか。

准教授 辻充孝

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。
morinos建築秘話シリーズ

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