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2020年04月02日(木)

薪ストーブとエアコンの空調設備計画(morinos建築秘話29)

今回は、空調設備について。

morinos全体のエネルギー予測の8割を占める空調エネルギー。この空調エネルギーを削減するには、3つの方法があります。
1.暖冷房負荷を削減する。
2.建物や設備の使い方を工夫する。
3.高性能な暖冷房機器を効果的に運用する。
です。

1番目の暖冷房負荷を削減するには、断熱性能や日射熱制御性能など温熱性能のバランスが不可欠です。morinosでは、温熱性能の向上によって暖冷房負荷PAL*をおよそ半分まで削減しています。

2番目の建物の使い方を工夫することは、今後の活動プログラムとも連携しながら考えていきたいですが、春や秋は開口部を開け放つことで、外の心地いい空気をを取り込んだり、外構計画の植栽などで、日射をコントロールしたりと、その時々に合わせて空調を使わないように工夫します。
間違っても寒さや暑さを「我慢」することではありません。健康を害するリスクを極力減らしつつ、心地よさを確保する必要があります。

この建物の使い方の工夫で対処できない場合、3番目の方法、高性能な空調機器を使用します。(2番目の設備の使い方は後述します。)

morinosでは、2種類の設備が導入されています。

薪ストーブ

一つ目はすでに紹介のあった薪ストーブです。冬期の暖房のみに使用します。
バイオマスを利用した設備で、敷地内で取れる針葉樹にも対応したものです。

morinosで試し焚きした時の様子

最大で、10,000Wくらいの出力がありますので、熱量だけで行くと1台で十分な能力です。
(外気温が0℃の時、換気を含めて7,400W程度の熱損失の建物性能)

ただ注意点としては、広いガラス面からの熱取得である日射熱と違って、薪ストーブは本体が300℃近い高温で、しかも一か所からの放熱ですので空間に温度ムラができます。
考えればわかりますが、薪ストーブ近くは暖かく(暑く)、離れると寒くなります。ストーブをつけっぱなしで長時間運転すると、この温度ムラは多少はましになります。

この温度ムラの発生を弱点ととらえるか、自分のちょうどいい居場所を見つけるちょうどいいムラと考えるかは利用者の判断です。
morinosは室内でもヨガや工作など、いろいろな活動を行う予定で、利用者の年齢や性別もバラバラですので、個々の発熱量が異なります。
平穏な住宅と違って20℃前後が心地いいとは限らず、少し運動すると15℃くらいが心地いいいとか、もっと涼しい方が良いとか人それぞれです。

薪ストーブは熱以外にも炎の揺らぎも心地よさアップです。
利用者がどのように薪ストーブを評価するか、楽しみなところです。

エアコン

もう一つの設備が、エアコンです。夏期の冷房と冬期の暖房に利用します。
morinosのエアコンは2種類あり、一つは一般的な壁掛けエアコン1台と床に半分埋め込んだ床置きエアコン2台です。

壁掛けエアコンは、一般に表示されている18畳用の能力で、部屋と一体になった見せる収納庫内にあります。

morinosは概ね78畳ワンルーム(129㎡)の大きさがありますが、実は能力的にはほぼ1台で足ります。
18畳用のエアコンなのに、どうして???となると思いますが、一般的な表記(この場合18畳用)はほぼ無断熱の場合の畳数がかかれているためです。
morinosのようにしっかり断熱された建物とは異なるのです。(詳しくは下のmorinosマニアック参照)

ただし、これも一か所からの暖気供給ではムラができてきますので、薪ストーブや床置きエアコンと併用で、適切な温度域を作る必要があります。

もう一種類の床置きエアコン2台は、収納下部の扉の奥で床に半分埋め込まれています。
冬は、床下空間と、床上に暖気を出し、夏は床上のみに冷気を出します。

床下に半分埋め込まれた床置きエアコン。背面の銀色の放熱板は調光照明用のパワーモジュールです。

morinosの床下は、750mm高の空間があいています。
ここに暖かい空気を送り込み、地中に熱が逃げないように基礎断熱で防ぎ、暖かい熱はフローリングを通して室内に戻します。
また、窓際には、暖かい空気の吹き出し口が各所に開いています。

この吹き出し口も大工さんの手作り。フローリングの圧密材を使って、ぴったりサイズで納まっています。

この床下暖房計画は、morinosの活動スタイルを考慮してのもの。理由は2つです。

1つ目の理由は、morinosの床は土足での活動が中心なので、スギの圧密フローリングで、カチカチになっています。
ですが、こんな気持ちのいい空間では、子どもたちは裸足でも動き回るはず。
その時、空気を多く含んだスギ本来の性質であれば、熱が奪われにくく冷たさを感じにくいですが、圧密フローリングだと、熱伝導が良く冷たく感じかねません。(概ね1~2℃程度は変わってきます)そこで、そもそものフローリングの温度を上げるために床下に暖気を吹き込んでいます。(「スギのフローリングは暖かい?」も参照してください)

2つ目の利用は運用スタイルです。
環境教育施設の性質上、ウェルカム感を出すために冬でも扉を開け放ったり、常に出入りがあることで、開放的に使うことも想定されます。
その時に、床上の空間にいくら暖気を出しても通気によってすぐに霧散してしまいます。
そこで床下空間を暖めることで、床の表面温度を多少なりともあたため、体感温度(特に床に近い子供たち)を確保することを期待しました。

 

一方で冷房です。
良く晴れた日中には10,000W近い熱が室内に入ってきます。(逆に夜間は0W)
この熱を取り除く必要があります。

壁掛けエアコンの最大冷房能力が5,700W、床置きエアコンが5,600W×2台ですので、能力的には十分な性能が確保されています。

また、冷気は、比重が重たいので床付近に溜まりやすく、暖房より効果を実感しやすいです。
壁掛けエアコンと床置きエアコン2台を適切に運転することで効率よく冷やしていきます。
今回選定したエアコンは、ゆるめ運転の方が省エネ性能が高い(下のmorinosマニアック参照)ので、複数台を同時運転することで、省エネ+大きすぎない適度な温度ムラが実現できるでしょう。
吹き抜け上部空間の熱だまりも気になるところですが、天井が高い(距離が離れている)ので表面温度は感じにくく、空気温度は居住域を効果的に冷やすことで気にならないでしょう。
morinosのような容積の大きい空間は、空間全部を空調するというより、居住域を適切に空調するという考え方が合っています。

アカデミー校内で得られるエネルギー源は、薪に代表されるバイオマスと太陽光発電の電力のみ。
これら2つのエネルギー源を活用した薪ストーブとエアコン、2種類の空調機器を、運用状況に合わせて賢く運転できることを期待しています。

morinosマニアック-------------------

壁掛けエアコンの能力をカタログで見ると
暖房能力:4.7kW(0.6~9.2)、消費電力:1770(110~3160)、[COP:2.65(5.45~2.91)]
冷房能力:5.6kW(0.6~5.7)、消費電力:1930(120~2030)、[COP:2.90(5.00~2.81)]
とあります。(COPは書かれていないことが多いですが、単純に能力÷消費電力です。)

見方としては、暖房はカッコ内の能力を出すことが可能で0.6kW(600W)から9.2kW(9,200W)までが出力範囲です。
つまり、このエアコン、カタログ上は最大9200Wの熱を出すことができます。
外気温が下がるとここまで出ないこともありますが、外気温が2℃程度でも6,700Wくらい出ますので、morinosでは概ね1台で行けます。

また消費電力は、600Wの熱を出している時に110Wの電力で賄えるので、1の電気から5.45倍の熱を出す性能(COP5.45)という魔法のようなことが起こっています。これは、空気中の熱をポンプアップするヒートポンプという技術によるものです。
一般的な電気ストーブやコタツは、ほぼ1倍の能力なので、110Wの電力を使うと、110Wの熱を出します。単純な電気ストーブは5.45倍も効率が悪いのです。
電気で熱を作るならヒートポンプ(エアコン)を中心として、電気ストーブやコタツは極力使用しないことが肝要です。

ちなみに中間くらいの運転状況では、4700Wの暖房時に1770Wの電力消費なので2.6倍の性能、最大時は9200Wの暖房時に3160Wの電力消費なので2.9倍と落ちてきます。メーカーによって特徴が違いますが、今回のエアコンは、ゆるい運転状況を得意としています。

冷房は、0.6kW(600W)から5.7kW(5,700W)までと最大能力が劣ります。
効率も、低負荷運転の5.0倍から中間では2.9倍、高負荷運転の2.8倍と、暖房と同様にゆるい運転がよさそうです。

つまり、部屋が冷え切った状態から一気に高負荷運転で暖房するより、一度暖めてしまってゆるく暖房を掛けている方が2倍程度効率がいいということ。
薪ストーブや他のエアコンと併用しながらゆるい運転をする工夫が省エネに効きそうです。

床置きエアコンの能力は、
暖房能力:6.7kW(0.5~8.8)、消費電力:2280(120~3220)、[COP:2.94(4.16~2.73)]
冷房能力:5.6kW(0.6~5.7)、消費電力:1780(130~1850)、[COP:3.15(4.62~3.08)]
となっており、壁掛けエアコンと同様程度の性能です。

最後に、通風や空調を見込んだ室温シミュレーションも見てみます。
学生と、いろいろなパターンで見ていきましたが、平均的な気温と日射量の結果だけ見てみます。

まずは、冬の想定です。(下のグラフ)
青いラインが美濃市あたりの外気温が3日続いた場合を示しています。明け方に氷点下になり、日中8℃程度まで上がってます。これを3日繰り返しています。
薄オレンジの棒グラフが日射量(日中で400W/㎡程度)を示しています。毎日ほどほどの日射がある日が続いた想定です。

閉め切って無暖房の場合がオリーブ色の線になります。(24時間換気は運転)
明け方は5℃近くまで下がってしまいます。日中はたっぷり日射を取り込むため23℃近くになる予測です。
夜間は日射熱取得がゼロで、断熱性能の劣るガラスから熱が逃げるため、明け方の冷え込みがあります。
明け方、スタッフの方がやってきた時が最も冷え込んでいます。
ではどんな暖房運転が良いか学生も考えました。
例えばエアコンは日中使わず、夕方から明け方までゆるく5000W程度で運転するとオレンジ色のラインです。朝の段階で17℃程度、晴れていれば出勤後は暖房を切っても日射で室温は上昇します。
これはエアコン以外でもよくて、薪ストーブに大きめの薪(表面積に対して体積が大きいもの)を入れて、空気量の調整で、夕方から翌朝までゆるく焚いて上げることでも同様の状態が出来上がります。

では夏はどうでしょう。(下のグラフ)
同様に青いラインが外気温、薄オレンジの棒グラフが日射量(日中は650W/㎡程度)の3日間の変化です。
窓を閉め切って、ほったらかしが濃い赤ラインです。日中は温室のように40℃まで上がっています。
では、通風(2.5回/h)をしたらどうでしょう。室温よりは涼しい外気が取り込まれますので、緑のラインの状態。ましになりましたが、外気温より下がることはありません。日中は35℃近くまで暑くなっています。しかも、風は気まぐれなので、常に通風が得られるわけではありません。
では、暑い夏は窓を閉めて冷房を9時から17時までゆるめに7000W程度かけているとどうでしょう。(夜間は冷房をオフ)オレンジ色のラインです。概ね27℃程度で安定しています。

実際の運用では、日によって外気温や日照状況など異なります。
運用者が状況に合わせて適切に調整をすることで、morinosにとってちょうどいい室内気候を見つけてもらえれば幸いです。

実際の運用が始まったら、学生といろいろ実測して、計算結果と比較したいですね。いい教材になりそうです。

准教授 辻充孝