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2020年05月07日(木)

アカデミーの土やヒノキ樹皮の左官壁(morinos建築秘話45)

東のメインエントランスを入ると、真っ先に目に飛び込んでくる十二単のような色鮮やかな左官壁。

自然の色が織りなす美しい仕上がりです。今回はこの左官壁についてのお話です。

この左官壁は、計画初期からmorinosで唯一の間仕切り壁として、シンボル的に何か面白いテーマで仕上げられないかとの考えがありました。
工事途中までは、アカデミーで採掘した土で、学生のワークショップもまじえて土地の色に染めようと計画していました。

ある時、涌井学長より森林文化アカデミー客員教授の挾土秀平さんに塗っていただいてはという提案から、急遽、挾土秀平さん率いる職人社秀平組にお願いすることに。

結果は見ての通りmorinosにふさわしい素晴らしい出来栄えです。
それもそのはず、この重層的な色合いは自然の土の色です。

十二単のような重層的な左官壁

ヒノキ樹皮仕上げの左官壁0層目から12層目まで合計13回も塗り重ねて地層にようにに表現しています。(この経緯は下のmorinosマニアックを参照)

0層目:シージングボードにラス+モルタル下地
1層目:演習林の山土と森のようちえんの子どもたちが作った藁
2層目:中塗土とスサ
3層目:高山市松之木町の赤い土(学生を交えたWS施工)
4層目:アカデミー演習林の山土と松之木町の土の混合(学生を交えたWS施工)
5層目:アカデミーの山土(学生を交えたWS施工)
6層目:本庄の土
7層目:黒泥
8層目:亜炭
9層目:アカデミーのヒノキ樹皮(細かく裁断したもの)+海藻糊+砂
10層目(9層目に重ねて):アカデミーのヒノキ樹皮(荒い裁断と細かい裁断のミックス)+海藻糊+ほんの少し砂
11層目(9層目に重ねて):アカデミーのヒノキ樹皮(細かく裁断したもの)+海藻糊
12層目(9層目に重ねて):アカデミーのヒノキ樹皮(荒い裁断と細かい裁断のミックス)+海藻糊

さすがにこれだけ塗り重ねるには時間がかかりました。実に2か月以上の大作です。

このうち、3層目から5層目までは、アカデミー学生も挾土秀平さん指導の元参加して塗っています。卒業式直前の非常に貴重な体験でした。

挟土秀平さんによるmorinosの壁塗り体験指導

また、最終の9層目、10層目(塗り重ね)はアカデミーのヒノキ樹皮仕上げです。

9層目の細かいヒノキ樹皮に海藻糊

最終仕上げに使った荒めのヒノキ樹皮

樹皮を塗るという誰もやったことがない仕上げに挑戦していただきましたが、アカデミーや地域の土の上に樹皮があるというmorinosを象徴するような壁に仕上がりました。

 

挾土秀平さんの左官壁というと、芸術的で、簡単に触れることができない、傷を付けたら大変と考えてしまいそうですが、今回の壁は表面が多少削れても地層のように下の層が出てきて、それも建物の歴史になっていくことをテーマに仕上げていただいています。(morinosマニアック参照)

自然の素材感だけがもつ、年月とともに美しく変化していく過程が楽しんで下さい。

 

morinosマニアック 左官扉はどこにいった???-------------------

この左官壁が出来上がるまでに、実はたくさんの物語がありました。

計画当初は工務店の左官職人に土の洞窟と同じように塗っていただく予定でした。


ですが、学長から本学の客員教授に就任され、岐阜県が誇る職人社秀平組の挾土秀平さんに塗ってもらってはとのことで、無理を承知でお願いしていただき承諾を頂きました。
工事も中盤を過ぎた時期です。

ただそうなると、挾土さんの芸術作品ともいえる左官壁をどのように運用するかは大きな課題でした。
というのも、施設の活用想定から、子どもから大人まで多世代の来場者を見込むことから、壁にどうしても傷がつくことも考えないといけません。その際、メンテナンスに手間とお金がかかっては運営を圧迫してしまいます。

そこで挾土さんには、事前に施設運用や建物のコンセプトをお伝えして、2019年12月初めに副学長、川尻さん、現場監督さん、私の4人で秀平組に伺い、どのような壁にするかを相談しに行きました。

といっても、こちらも腹案がなければ何も進まないかもしれません。
アカデミー側の案は、手で触れる下の方はWSでラフに仕上げ傷ついても参加者がまた修繕できるもの、上部行くほど上品に秀平組の技術が活かされた芸術的な壁にシームレスにつながるというものです。

ですが伺った際、すでに挾土さんの頭の中には壁のイメージが描かれていたようでした。

片流れの建物にそって、十二単のように、いろいろな産地の土を塗り重ねて地層を描くというものです。
自然な色合いが折り重なって空間に彩りを与えてくれます。
また、一番下の地層はアカデミーの土を使って、学生ワークショップで塗っていきましょうと。表面が多少削られても下の地層が見えてきて、それが建物の歴史になるというものです。

こちらが想定していたよりも、建物コンセプトに合った素晴らしい提案でした。
さらに、この壁に取り付く収納庫入口への扉も、当初は木製建具の想定でしたが、建具に締め藁を取り付けて土で塗り込み「動く土の建具」にしてはとの提案。これも素晴らしい。

これらのアイデアに興奮しながらアカデミーに戻り、早速図面に起こしてみました。
隈事務所にも確認をとり、非常にいいですねとの返答。

この図面と完成した土壁と比べてみると、あれっ!明らかに違う!!となりますよね。

挾土さんからも提案のあった「動く土の建具」がなくなっています。

この計画変更にも大きな転機がありました。

12月末に現場を見に来られた隈さんとの一コマです。
この日は忙しく、まず現場を見ていただき、埋木の納め方や、丸太の塗装、樋の色合い、左官壁の仕上げ方など、細かな相談から、丁寧な指導まで充実の時間。
学生も背後から聞き耳を立ててました。

その後、7人の建築学生とゼミ形式で、お互いに木の建築の魅力を語り合いました。
隈さん「カッコつけないで馬鹿になって尋ねることが大事。それに、何かを思いつくときというのは、1人じゃない。3、4人で気楽にミーティングしている特に生まれる。いつでも対話の中からアイデアの種が出てくる」

さらに、後半の隈さんと涌井学長との特別対談のさなか、お二人が座っているクマヒダ家具(デザイン:隈さん、製作:飛騨産業)に携わられた飛騨産業の岡田社長とのやりとりで、
岡田社長「隈さんがもう少しこうした方がいいよねと言って、修正して現物を見てもらったら、やっぱり前の方がよかったねと。」
隈さん「せっかくやってもらって、前に戻すのは、先が読めていない馬鹿みたいに見えるのが怖くて、本来言いにくいけど、そんなことは恐れずきちんと言わないといけないと。」

隈研吾先生と語ろう。木造建築の魅力
隈研吾先生と涌井史郎学長による特別対談

これらの隈さんの言葉からこの後現場で一波乱。

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ゼミ、対談を経て帰る直前、再度現場を見られていました。

帰りの新幹線の時間もあるなか、現場を見られているのを不思議に思い近寄ってみると、

隈さんから「いつ切り出そうかと考えていたんだけど・・・」と、少し言いにくそうに、
「シンボル的な左官壁として、開口部の位置を変更した方がいいと思うんだが・・・。」(午前中の現場のあと、対談中に考えてた??)

現場監督さんはじめ、関係者の皆さん、少し凍り付きました。工事終盤で、まさかの大変更??
ちょうど挾土さんから提案のあった「動く土の建具」。
確かにここに開口部があるのと無いのとで、空間の印象がガラッと変わります。
初期からの動線計画だったため建具の有無など考えたこともありませんでしたが、ここにメスを入れるとは。確かに建具が無い方が空間全体が引き締まって、自然な土の色合いのシンボリックな壁として映えます。
主要利用者のナバさんも、当初は嫌がっていましたが、隈さんとも対話を繰り返すことで、利用状況を想定しても実はアリかもと・・。
隈さんに乗ってみるかということに。
変更動線とランダム格子の一角に移動した建具スケッチを書いて確認し、変更案を隈事務所に送付。夕方には、隈事務所からOKの返答メール。対話を重ねて順次詰めていきました。
飛騨産業の岡田社長との対談にあったように、言いにくいこともしっかり伝える隈さん。

挾土さんにもデザイン変更に納得いただき、気持ちよく仕上げていただきました。

建物もより良くなってますよね。