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2022年05月16日(月)

「環境保全」の「ソーシャルデザイン」?

<2022.5.16> 森林環境専攻の2年選択授業「環境教育のソーシャルデザイン」の第1回目を開催しました。

前任の嵯峨先生から引き継いだこの科目。参考図書と紹介いただいた「なぜ環境保全はうまくいかないのか」(宮内泰介・編/新泉社)から私が読み取った内容は・・・

・科学的、統計的に「正しい」、地域住民のために「よかれ」とされていることで、行政主導ですすめる「環境保全」がなかなかうまくいなかい。
・そこには「環境」に関わる様々なステークホルダーと、それぞれの事情、視点があり、そこには幅広いズレがあり、関わる人々、特に行政には深い「ジレンマ」がある。

そこで「正しい」「よかれ」から正論で進むのではなく、様々なズレの存在を認め、すすめながら、ときには当初計画を柔軟に変えながら、「ズレ」と「ずらし」を使いながら「順応的なガバナンス(統治)」を行うのが良いのではないか・・・

というものです。

難しいお題でしたが、実際の現場に当てはめると、なるほど!と思うことばかり。では現場の人にお話を聞くのがもっとも良い学びになると、クリエーター科2年生の学生7名と岐阜県郡上市に出向き、お二人の最高の講師から現場でお話をうかがいました。

 


 

一人目は、郡上市明宝の置田優一(おきだ・ゆういち)さん。元郡上市役所職員で様々な地域振興を手がけられています。2007年には、私が郡上に移住するきっかけとなった「郡上市交流・移住推進協議会」を立ち上げた方です。そして現在私は同じ組(地域自治会の中の班のようなもの)なので、以下、普段から呼び慣れている「優一さん」とさせていただきます。

置田優一さんは定年退職後、現在は地元の企業(明宝特産物加工)に務められています。

 

優一さんからはまず、一住民として地域住民のみなさんと立ち上げた「ふるさと栃尾里山倶楽部」の活動について、活動拠点となっている「古民家 源右衛門(げんねもん)」でお聞きしました。

優一さんたちは、2009年に里山倶楽部を立ち上げ。源右衛門の整備、短期滞在の受け入れからスタートし、2010年から「森・農・自然エネルギー」をテーマにした「栃尾里人塾」をスタートします。活動を通して参加者が自発的に、足繁く地域に通うようになるなど、今でいう「関係人口」の先駆けになった活動になりました。

優一さんがこうした活動をする背景には、郡上市合併前は明宝村の役場職員として。その後は郡上市の市職員として、住民の意識と基礎自治体である市、県や国との「ズレ」や「ギャップ」を感じる場面場多かったから、とのこと。

今回の講師をこころよく引き受けていただいた優一さん。「お題が難しすぎるわ!」と言いながらも、この授業のためにすばらしいスライドも用意くださいました。(ありがとうございます!)

「地域振興のモヤモヤ」と題したスライドでは、今だから言える行政職員、地域住民、企業、国・・・など、地域振興に関わる様々なステークホルダーの認識、意識、視点のズレがうまく噛み合わないことが、ご自身の実体験から語られました。

その上で、ではどうするのか・・・ということについて、優一さん流の打開策は2つ。
あたって砕けろパターン」と「行政関与なしパターン

学生は刺激を受けたのか、様々な質問が飛び交いあいました。
優一さんも学生の質問に熱心に応えていただき、時間も予定時間を大幅に超過。名残惜しいいですが、第1セッションはここまで。明宝を後にして、郡上市大和町へ移動します。

 


 

お昼を、大和町の「道の駅 古今伝授の里やまと」で各々いただいた後、「古今伝授の里フィールドミュージアム」へ。この両施設ほか、様々な事業を手がける郡上大和総合開発株式会社の代表取締役、水野正文(みずの・まさふみ)さんにお話を伺います。

新緑まぶしい大和で、まずはかつてこの地を治めた東氏が住んでいた跡地の庭園へ。約30年前、史跡の発見から「古今伝授」をテーマにした大和町のまちづくりを行った、当時30代だった水野さんからは、当時周りの全員に反対されながらも、自分の直感を信じて事業を進めていくエネルギッシュな人生が熱く語られました。

千数百年前の歴史、和歌の奥義の古今伝授、まちづくり、事業をすすめるための戦略、全国でまちづくりをどう指導しているか・・・など、時間も空間もジャンルも広大な水野さんの深すぎるお話に、私がすでにインプット過多、脳内メモリーの容量がいっぱいになってきたので、失礼ながら一度中断させていただいて、庭園を散策。

「30年前、僕が植えた木が大きくなった」という水野さんのお話に、ちょっと私が付け足し。

小林「水野さんの「僕が」というのは、水野さん自ら植えられた、ということですよね?」

水野さん「そう。バックホーを持ってきて、穴開けて、自分で植えた。」「役場職員だから、昼間は役場の仕事して、終わってからと、休みの日に作業した」

・・・え、水野さん自分でやったんですか!という驚きから、野山での実践第一主義であるアカデミー生の目の色が変わります。

今回は、林業、建築、木工、森林環境教育と、全専攻の学生が参加したので、フィールドミュージアムをめぐるのも、それぞれの場所で、学生がそれぞれ違う視点で興味を持つのが楽しかったです。多様な人々がいっしょに学び合う、これがアカデミーの授業の楽しいところ!

神社、ウエディング、レストラン、景観設計、古今伝授、映画美術、茅葺きと失われる伝統技術、そして関わる様々なステークホルダーとのコンセンサス・・・など、膨大な内容を一気に伺いながら、あっというまに過ぎる2時間余り。なんとも贅沢な内容です。

新しくできた交流館でコーヒーいただきながら、水野さんといっしょにふりかえり。<「環境保全」と「ソーシャルデザイン」を、自分の言葉で定義してください」> というお題で、学生のみなさんに1日をふりかえってもらいました。

さて、学生の皆さんから出た言葉は・・・:

  • 人がつくってきた生活、文化を守ることが「環境保全」ではないか
  • 「環境保全」とは「今の人が、後継者がこの地域で生きていけるように整えること」ではないか

・・・いや、すごいです。この科目が掲げたお題に対する答えを、学生から教えてもらえました!
そしてそのアプローチとしては:

  • 自然と人と地域は、切っても切り離せないものだ
  • 自然と人の間にある「境」を壊したら、そのつながりはあたり前になるのではないか

・・・という意見が。いや、そのとおり!
そのために、自分たちの在り方についは:

  • お二人のお話で共通しているたのは、「生きる」ということだった
  • 課題にどう取り組むかというのは、「自分たちはどうしていきたいのか」ということではないか

・・・素晴らしすぎます。そして最後に:

  • まずは自分の手でできることをやる
  • 課題から入らない。楽しくやっていく

ということを、短い時間から感じ取った学生のみなさん。2年生だからかもしれませんが、自分たちの将来を見据え、先人のメッセージをしっかりと受け止めて自分たちの大きな学びにしていた姿勢がとても素敵でした。

 


 

授業が終わって、「講演で全国に言って話しているけど、ここで話すのは本当に久しぶりだ」、と水野さんがおっしゃっていました。そしてアカデミー生の真剣さに感心されてきました。

真摯に実践されてきた地域の方のお話を、その人が築いてきたフィールドで伺えるのは、五感をフルに活用できる、本物で最高の学び。現地に勝るものなし。そして学び合う「共育」の場をつくるためには、こちらも自ずと真剣にならざるを得ません。

最高の学びの場をいただき、優一さん、水野さん、本当にありがとうございました。そしてやはり郡上はすごい!!

水野さんと別れた後、フィールドミュージアムのすぐ近くに事務所を構えた、(一社)長良川カンパニーの改装現場を突撃訪問。郡上のレジェンドの一人唄い人の井上博斗くん、事務局長の下田知幸くん、そして超多忙だけどたまたまいた代表の岡野春樹くんとも会えました。

彼らがここに集うようになったのも、間違いなく30年前に水野さんの懸命な努力でフィールドミュージアムを実現したから。お金で計算しきれない、「未来の投資」の歴史とその成果の今を見た1日でした。

置田優一さん、水野正文さんの思いから今につながった結果、明宝に戻ってきた下田知幸くんには、後日「ローカルビジネスの担い手に学ぶ」で講師を努めていただきます。よろしくおねがいします!!

准教授 小林謙一(こばけん)