地域の森に必要な「ビジョン」を描くには?(ソーシャルデザイン)
<2026.1.29-30> 森林環境教育1年の「ソーシャルデザイン」を実施しました。
歴史や風土、文化、コミュニティなど、様々な視点で地域を捉えるのが、この授業の目的です。
最終回は「課題の構造図を描く」。座学ではなく、実践を通してリアルに学ぶため、全国で活躍する、issue+designのデザインナー、白木彩智(しらき・さち)さんを特別講師にお招きしました。
今年のテーマは「美濃市の森林ビジョンとは?」。クリエーター科24期卒業生で、美濃市の地域おこし協力隊として活動する後藤里花(ごとう・りか)さんに協力いただきました。後藤さん取り組むリアルな課題について、その構造を探っていきます。

issue+designの白木彩智さん(写真左)と美濃市の地域おこし協力隊の後藤里花さん
後藤さんは昨年4月に協力隊に就任して、美濃市の「森林づくりビジョン」の作成に取り組んでいます。
美濃市は、産業としての林業は小規模ですが、森林面積は実に市の約8割を占める山と森のまちです。
森林は現在、炭素固定や生物多様性など、産業面以外の機能も求められています。今ある市の森林整備計画だけではなく、環境や防災など多様な観点から森林をつくっていく指針が必要なのではないか? ーー そのために後藤さんがビジョンづくりを進めています。
しかし、その中で後藤さんがぶつかった壁は、どうやってビジョンをつくるのか?でした。
作業をしていく中で、様々な課題があるとのこと。後藤さんの課感を、今回の実習テーマとして取り上げさせていただきました。
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課題の構造図を説明する白木さん
いよいよ1日目がスタート。
森林環境教育専攻1年生4名の他、森林環境教育専攻のごろー先生、そして林業専攻の塩田先生も参加してくれました。
事前に後藤さんのヒアリングした白木さんから提示された今回のお題は・・・
『みんなが一体となれる森づくりの未来像と計画』
そこに、どんなことが障壁となっているのかを、参加者全員で探っていきます。

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まずは、後藤さんから、美濃市と森林の現状、そして後藤さんが抱える課題について。

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続いて、美濃市で森林を担当する産業課の山岡さん、佐藤さんにお話を伺いました。
白木さんの促しで、参加者全員の自己紹介からスタート。和やかな場がつくられていきました。
山岡さん、佐藤さんは、子供の頃に遊んでいた、薪をとっていたと、山とのつながりについてお話しくださいました。

美濃市産業振興部・産業課の山岡さん(左)と佐藤さん
しかし、人々が山に行かなくなった今、未整備林や倒木、災害などの課題が山には残りました。
行政は災害に強い山づくりを目指しているが、職員も予算も限られる市では、まずは市民の生活に影響が出ないようにするのが精一杯とのこと。そのうえで、山林に関わる事業者は役割を、山の所有者は山を管理する責任があることを自覚してほしい ・・・ 担当者の立場としての願いを語られました。
「美濃市の山をどうしたら良いか・・・。市民のみなさんが「これがいい」と思えるものはまだありません」

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続いては、アカデミーを出て美濃市の片知地区へ。
お話を伺ったのは、「森林ビジョンづくり」を提案している、鈴木章(すずき・あきら)さん。森林文化アカデミーの1期生です。

杣の杜学舎の鈴木章さん
鈴木さんはアカデミー生のとき、2002年に森林づくりに関わるNPO法人「杣の杜学舎」を立ち上げました。以来、美濃市で森林づくりに関わり、現在は市の林政アドバイザーも務めています。
およそ四半世紀にわたり、美濃市の森に関わってきた鈴木さんですが、これからについて不安があるといいます。
「森づくりは100年、200年と続きます。自分が関われなくなった後も、美濃市でよい森づくりが続いていく、そんな道筋をつくりたい」
時代が移り、関わる人が変わっていっても、美濃市の森林づくりが正しい方向で続くために、その方向性を示すビジョンが必要だと、鈴木さんは熱く語っていました。

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アカデミーに戻り、白木さんから課題の抽出方法についてレクチャーを受けました。
ヒアリングがまだ記憶に残っているうちに、キーワードを書き出していきます。
翌日は朝から構造図をつくります。

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そして、2日目がスタート。
前日に書き出したキーワードを貼り、課題のつながりをつくっていきますが、これがなかなか難しい。
課題がどうつながるのか、どの課題が大事だと考えるのか、人によって視点が異なるので、うまくまとまりません。

午前中の中間報告では、
・テーマにある”一丸となる”ひとは誰?
・誰の課題? 市民、専門家、行政、山主・・・?
・課題には、時間の変化や、暮らしの変化もあるのでは?
・山の”無関心”が原因?
など、様々な疑問が生まれる中、「ビジョンを誰がつくるのものなのか?」という”そもそも”に戻りそうな問いも。
これ、実はとても本質的な良い問いです。
とことで、今回ピックアップしたたくさんの課題には、森林の施業や管理、国や自治体による行政施策など、林業に関わる専門的な要素が多く含まれます。その多数で複雑な課題について、専門からは少し遠い森林環境教育専攻の学生のために、一緒に参加してくれている林業専攻の塩田先生が解説してくれます。
そんな塩田先生から、「(山の問題はたくさんあることを)解説してると、寂しくなってくる・・・」というため息が。
山間地域に共通してある複雑な現状を、環境教育の学生がリアルに学ぶ機会にもなりました。

こうして作業が進む中で出た、学生の一言が印象的でした。
「アカデミーにいると、山には価値があると思ってしまうが、現実は違うということに驚いた」
人は誰しも自身の「価値観」があり、それを通してものごとを見てしまいます。
だから「みんなが一丸となれる」というビジョンづくりがいかに困難なものか、ようやく私たちは気づき始めていました。

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午後、前日にお話を伺った鈴木さんが、アカデミーに来てくださいました。
2つのグループが、それぞれの「課題の構造図」を説明していきます。

学生の説明を聞く鈴木章さん(写真左)
何が見えていていて、何が見えていないのか・・・
「課題の構造図」を描くことで、そこから対話が生まれます。
それぞれの発表を聞いた鈴木さんからは、こう指摘しました。
「災害や獣害など、”山は課題”という意識が強い。ビジョンができることで、行政の悩みを救いたい。”みんなで”は素晴らしいが、科学的に正確な予測をすることが必要なので、ビジョンは専門家が書くべきだと思う」
山の問題に関わる行政、事業者、山主、市民 ーー その中で、「みんなで」の範囲を明確にすることが、ビジョン作成には必要だということが示されました。
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こうして、美濃市の森林をテーマにした今回の授業は終了しました。
参加した学生からは、
・いつもは自分がまとめていくが、今回は意見を混ぜようとしてアイデアが逃げた感じ。意見を一つにすることが難しい。
・課題をつなげるのに、それぞれの方針の違いがある。まだつながっていない課題もあって、そちらが気になってしまった。
・それぞれの思考のスピードが違うのに戸惑った。自分の先入観に縛られ、思考がストップすることもあった。
・作業に入りきれなかった。しかし、外から色々な人の考えを聞く中で、自分の考えるに気づくことが起きていた。
学生といっしょにゴロー先生からは、
「毎年、メンバーによって違うのが面白い。『課題の構造図』は、一人でやるのが効率がいいとは思うが、2人でやると対話しながら進められる。一方で、3人以上だと発生する複雑な気持ちもある。多様な議論をながめるうちに、自分の考えが整理されるときもあり、それもまた面白いです」
そして、白木さんからは次のようなコメントがありました。
「『課題の構造図』をつくるということは、何か?を考えます。やってみて、一人で仕上げたほうが良かったと思う人もいるかもせん。でも、それはそれで寂しいのではないでしょうか?」

社会課題はどんどん複雑になっています。普段我々は、課題があっても他人事ととらえていたり、観客となって傍観しているのではないでしょうか。
しかし、一見自分には関係ないと思う課題も、実はつながっています。だからこそ、「自分は課題の一員」という認識を得ることが大事だと、白木さんは言います。
「システミックデザインという考えで捉えます。大事なのは課題の構造を明らかにする精度ではありません。みんなで取り組むということが、ますます大切になっていきます」

最後に、今回のテーマを示してくれた後藤さんは、こうふり返っていました。
「外の視点が入ることで、市のみなさんの”山とのつながり”や、鈴木さんの想いの根っこの部分を聞くことができた。対話の場面に、いろいろな目があることはいいな、と思いました」
後日、白木さんは今後のビジョンづくりのためのヒントを、後藤さんに送っていました。この授業をきっかけに、美濃市で未来をみすえた森林づくり、そのきっかけが生まれることを願っています。
後藤さん、美濃市のみなさま、そして白木さん、ありがとうございました。
<森林環境教育専攻 こばけん>