2025年06月27日(金)
赤沼田天保林を見学:日本の森林と林業
先日、クリエーター科の共通授業「日本の森林と林業」で豊田市にお邪魔し、豊田市の行政の取り組みと、豊田森林組合の業務について学んできたのですが、今回は下呂市小坂町にある高齢ヒノキ人工林「赤沼田天保林」を見学してきました。この見学の内容についても学生が記録してくれていますので、ぜひご覧ください。
日本の森林と林業@下呂市・赤沼田天保林
下呂市小坂町赤沼田(あかんた)にある県内で最古級の人工林「赤沼田天保(てんぽ)林」を歩き、植生などを観察しました。とても気持ちの良い森でした。
江戸時代の記録では、天保6(1721)年以降、森林資源の枯渇を受けて、飛騨の天領(幕府直轄地)の林政は、度々植樹令を出し、各地で植樹を奨励しました。天保12年に小坂村周辺も対象となり、赤沼田村では同13年に1890本、翌年に2189本が植栽されたという記録が残っています。ヒノキとサワラの天然稚樹を植え、明治・大正期に枝打ち、間伐がされてからは、100年近く人の手が加えられていない貴重な森です。元々天領だったことから、明治以降は国有林になり、御料林(宮内庁管轄)を経て、戦後に国有林に戻った歴史があります。現在は学術的にも施業的にも貴重なため、「希少個体群保護林」に指定されています。
散策をする前に、大洞先生から
❶高齢林のヒノキはどんなものか感じをつかむ
❷森にあるヒノキの本数、広葉樹の比率、木と木の間隔なども注意してみる
といったどんな点に注意して森を見ると良いかアドバイスを受けました。
雨上がりでしたが、鬱蒼とした感じは全くなく、むしろ林内は終始明るく感じられました。散策路は歩きやすいよう整備されていました。
国が調査をしているため、ヒノキの根元には個体識別するための札もありました。
沢もたくさんあって涼しく、川の水の音にも癒されました。
この人工林のヒノキの樹高は平均で32m、ヒノキとしては高い方だということです。直径は約50㎝で、普段目にしているヒノキよりも太く感じられました。1本1本まっすぐに伸び、間隔も広く、林内を広く見通せました。広葉樹もところどころに見られ、植生の豊かさを実感できました。
しばらく散策すると沢が見え、沢沿いにカツラやサワグルミなどがあるのが分かりました。沢沿いは、水も栄養分も豊富で、木にとって成長できる環境が整う良い場所ですが、ひとたび大雨が降ると土石流に押し流されるなど、環境が劇的に変化する「撹乱(かくらん)」が起きやすい場所でもあります。こうした沢沿いの森を「渓畔林(けいはんりん)」と呼ぶそうです。
散策路の途中に、大きなカツラの木が現れました。幹が複数寄せ集まって伸びているような特徴的な形をしていました。
カツラは成木になると大量の萌芽(ぼうが)を発生させるという特徴があり、複数の幹があるように見えたのは、主幹から出た萌芽由来の木でした。カツラの幹の根元から萌芽して、複数の株が形成され定期、その株も大量の小さな萌芽を持ち、中央の幹が枯死したとしても周辺にできた萌芽由来の株が生きながらえて、その個体は長い寿命を得られるそうです。カツラの生命力の強さの秘密を知ることができました。さらに数分ほど進むと「天保の大ヒノキ」が見えてきました。
樹齢は200年近く、樹高36メートル、幹回り350センチ、胸高直径は109センチ。まっすぐに伸びる姿は堂々としていて、経過した時間の重みを感じられました。直径が大きいので枝をたくさん張っているのも確認できました。隣に人が並ぶと、より幹の太さ、木の高さがより分かります。
林内ではヒノキだけでなく他にもたくさんの樹木も観察しました。スギ、サワラ、アスナロ、モミ、トチノキ、マルバノキ、サワフタギ、ケヤキ、ツタウルシ、イヌザクラ、コシアブラ、タムシバ、リョウブなど。途中、実生もたくさん見つけ、散策中は全く飽きることがありませんでした。
結果として、極端に大きい広葉樹は沢沿いにしかないこと、100年近く人の手が入らず、自然度は上がっているけれど、依然としてヒノキの方が多いことが分かりました。
天保林では、私が知る限りではシカやクマによる樹皮剥ぎの被害は見つけられませんでした。6月上旬に、獣害を学ぶ実習で、本巣市の山中の獣害被害を見学し、樹皮剥ぎのひどさや、シカが下層植生を食べ尽くしたせいで、シダとマツカゼソウしか見られない状況を目の当たりにしたので、今回の天保林の植生の豊かさに触れ、「森といってもこれほど環境に差がある(出る)のか」と、率直に驚きました。人が手を加えなくてもこうした豊かな森になるという実例を見ることで、改めて人工林の施業とは何なのかということを人考えるきっかけになりました。
以上、クリエーター科林業専攻 五十嵐さんの報告でした。
林業専攻教員 大洞