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2016年06月19日(日)

ドイツ報告-05 ルーベンシュタイン林業拠点で学ぶ

20160607(013) 第一回独日林業シンポジウムの前日、ロッテンブルク大学を出発してエクスカーションのため、ルーベンシュタイン林業拠点に向かいました。

ロッテンブルク大学のHein教授からは、「日本と関係をもって約10年経緯するが、日本は急傾斜地に植林しており、間伐方法もドイツとは異なることも興味深い」

「そこで本日は北米産のダグラスファーの植林・間伐地を見ていただき、日本の方々に参考として頂きたい」と話されました。

バーデン・ヴュルテンベルク州には1200カ所の間伐試験地があり、本日はドイツでの試験内容から学んで欲しいとのこと。

そうお聞きして到着した事務所は木造建築で、イノシシやシカ、キツネがお迎えする研修所でした。

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イノシシなどを見上げながら通路を進む途中、研修室入り口手前にはこの研修所の指導員の面々が飾られています。

こういうの、森林文化アカデミーにもあるべきだね。最近は病院などでもありますので。

20160607(002)ルーベンシュタインの林業拠点

ドイツでは18世紀から「持続可能性」を考えて林業を始め、300年を経過している。

1713年にハンス・カール・フォン・カルロビッツ(Hans Carl von Carlowitz)が持続可能性の原典(Urbuch)とみなされる林業経済学(Sylvicultura oeconomica)を提唱して以来、ドイツの目指す林業は常に「持続可能性」がキーワードです。

ドイツ林業はブナを中心とした混交林で、そこにトウヒなどの針葉樹が入っていれば、人が介在した証拠である。

今回見る現場は、標高400m、年平均気温8~9℃、年降水量1000mmの場所である。

ここでは低質な薪材を生産しても60ユーロ/mで、トウヒの丸太(長さ5m、直径30~35cm)で90ユーロ/mです。しかし北米産とはいえダグラスファーは100~250ユーロ/mにもなる。

儲ける林業にはこうした考えも必要だと感じました。

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コーンレ教授、ウーリッヒ所長、通訳のショイアさん、ハイン教授、フェルトマン・フォレスター私たちを前に説明してくださいました。

試験地は研究所の研究員でもあるコーンレ教授、コーンレさんは森林保護も担当されているがバーデン・ヴュルテンベルク州の1200カ所の試験地担当者でもある。

ここHeilbronn(ハイルブロン)郡は15000人が勤める自動車のアウディの拠点であり、ドイツ屈指の赤ワインの産地でもある。

ハイルブロン郡には20の森林区があり、1森林区の大きさは1200~1300haあり、郡全体で60人の担当員が公有林と私有林を管理している。ここでは年間収穫量は15万mあり、狩猟や環境教育、フォレスター教育、森林所有者向け継続研修を実施している。

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この周辺は標高560m、土壌は粘土と砂というやせた立地で、トウヒの成長に適していた。しかし直近の25年間で気温が1℃上昇したためトウヒを育てる環境というより、むしろダグラスファーに適してきている。

この周辺の天然性混交林は広葉樹が72%、針葉樹28%であるが、トウヒは暴風や害虫、乾燥害などで年々減少している。広葉樹はブナが30%、ナラ類が25%を占めている。

林業的にはブナが多過ぎると考えており、理想的にはナラ類が25%、針葉樹が25%になるように管理することが重要である。

ところで、北米産のダグラスファーは150年前に公園木としてドイツに導入され、成長量に優れ、木材としても価値が高いことが分かっている。ダグラスファーを植えるにしても、混交林であれば20%を越えてはならない。

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上の写真は、岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアムメンバーの丸光イトウの伊藤社長さんで、その後ろが2007年に植栽されたダグラスファーです。

ここは標高560m、平均気温9℃、年降水量700~1000mmで、2003年には65年生混交林(トウヒ60%、カラマツ10%、マツやブナが30%)であった。しかし2006年に気温が高くなると被害が拡大するバークビートル(キクイムシ)が大発生してきたため、トウヒを伐採した。

そこで2007年4月にダグラスファーを1200/ha植栽し、2007年には枯損木を捕植した。

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ここより先に、1973年~74年に8カ所で試験地を設定し、育てた苗木のうち小さい方35%と、成長し過ぎた(徒長した)15%は廃棄し、中間の苗木を使って、500本/ha、1000本/ha、2000本/ha、4000本/haの植栽試験区を設定した。

ダグラスファーの枯死率は試験区によって1~60%の大きな差があり、トウヒとは違い、寒さと乾燥に弱いが、うまく活着すればよく成長する。

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1973~74年に植栽された林分は植栽密度によって、間伐時期が異なります。

①4000本/ha区は樹高12mになった時点で間伐し、この時点で将来木を選木する。

②2000本/ha区は樹高15mになった時点で間伐し、この時点で将来木を選木する。

③1000本/ha区は樹高21mになった時点で間伐し、この時点で将来木を選木する。

④500本/ha区は樹高27mになった時点で間伐し、この時点で将来木を選木する。

毎回、150本/ha間伐し、最終成立本数も150本/haにする。

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現在、樹高32~34m、白帯ペンキがつけてある将来木を見ると、何が重要なのかよくわかる。成長を促進された将来木の直径成長と枝直径に注目せよ。

2012年の43年生時点で、4区の本数材積を比較すると、

①4000本区は320本(770m)、②2000本区は312本(796m)、③1000本区は292本(770m)、④500本区は288本(703m)となっています。2000本と1000本区が良いようですね。

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しかし、5m高における枝の太さを比較すると、枝の太さが4cm以上になると品質劣化になる。

だから500本区では質的に良いものができない。

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120カ所の試験地データで比較すると、立木密度が高ければ相対的に収穫材積が増加するが、樹高30mに達すると、1000本~4000本は同じ材積に近似する。ダグラスファーについては1000本/haが良さそうです。

直径成長についてみると、植栽密度が高いと間伐しても太らない傾向がある。

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最終的には、「収入が最もあるのはどれか」である。材積が重要ではなく、収入が重要なのだ。日本はこの点が、不十分な傾向にある。

その収入で見ると、1000本/haが最も採算性が良い。間伐収入も含めて生産性向上を考えることが重要である。

ここは将来的には混交林を考えており、直径60cmまではハーベスタでの収穫を考えている。搬出は40m間隔とし、勾配45%くらいまではハーベスタ作業を導入する。

伐採コストは20ユーロ/m(急傾斜地では25ユーロ) で、道路端販売で90ユーロ/mとなり、トウヒよりも良い値段で取引される。

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最終段階で訪れたのは1900年に植栽された116年生のダグラスファーの林、下の写真の林分は7000本/haの高密度で植栽され、1927年と1929年に9m高まで枝打ちされています。

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これまで367mが収穫され、現在の材積は900m/ha、立木密度95~104本/ha、胸高直径78cm~76cm、樹高47~49mとなっています。

80cmになれば択伐されますが、特に枝打ちされたダグラスファーは価値が高い。

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一本の立木のうち、枝打ちされた部分は収穫材積の1/2ですが、販売価格の2/3を占めており、1ha当たり7万ユーロの価値となる。

現在、ダグラスファーはバーデン・ヴュルテンベルク州の森林の1%しか占めていないが、将来的には有効な樹種と考えている。

以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。