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2026年06月29日(月)

【アニュアルレポート2025】感性的な指導手法を用いた木彫ナイフワーク体験プログラム

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告より

感性的な指導手法を用いた木彫ナイフワーク体験プログラム

木工専攻准教授 前野 健

目的

 令和7年で8回目を迎えた「アートラボぎふ」は岐阜県全域をアートの実験場(ラボ)に見立て、大人も子どもも県民の誰もがアートに出会い、触れて、知り、発信できる体験プログラムを提供するプログラムである。

 このたび、県とイベントを共催する公益財団法人岐阜県教育文化財団の文化芸術アドバイザー古田菜穂子氏より依頼を受け、アートラボぎふで、彫刻ワークショップを企画、実施することになった。
 プログラムの企画にあたってはラボ(実験場)の言葉が示すように、実験的なアプローチでアートに触れる本物の体験を考えてほしいという要望を頂いた。

感性からアプローチするクラフトとアートのプログラム

 アートラボぎふのプログラムコンセプトは、アートの活動の中に「場(フィールド)の力」を活かすこと。そして、想像することの楽しさや、手仕事の奥深さを感じてもらうというものである。

 事前の打合せと下見を経て、今回のプログラムを行う場(フィールド)は、岐阜県立森林文化アカデミーとその周囲の森林と決まった。これらの条件を踏まえ、子どもから大人までを対象に、アートに触れる入口となる体験プログラムの企画と実践を行うことになった。

概要

 本体験プログラムの企画にあたり古田氏からは、キット化された教材をポンッと組み立てて終わりというような、中身の薄い受動的な体験では無く、例えば、参加者自ら山に入って、木を切るところから始まるもの作りや、森の中に入り、山や森の自然や里山に直接触れながら学ぶワークショップなど、参加者の主体的な体験を通じてアートに触れる内容であってほしいという要望を頂いた。

 普段、自身が開催しているナイフクラフトの体験ワークショップでは、荒廃した里山林の手入れ(間伐作業)を兼ねて、材料となる木の枝を採取してもの作りを行っている。アートラボぎふでも同様の形で開催することも考えられた。一方で、普段どおりのプログラムでは「ラボ(実験場)」の趣旨に合致しない。
 普段行う活動は「里山づくりの知識」「ナイフワークの技術」といった、極めてロジカルな構成で組み立てられている。そこで、今回のプログラムの構成は「感性的なアプローチ」から、もの作りにつなげる流れを検討することにした。

森の中でネイチャージャーナリングの説明をする石岡さん

 まず最初にフィールドである森林空間を理屈や知識では無く、感覚的に受け止め、自身の中に落とし込むためのアクティビティを検討した。これには森林文化アカデミークリエーター科森林環境教育専攻(当時2年生)の石岡美優さんに協力を仰いだ。

 彼女が取り組んでいるネイチャージャーナリングという自然観察の手法は、段階的なステップを経ながら自然の対象物を描くことで、自然の見方や自身の感受性をひろげることができる側面がある。また、絵を描くプロセスの中に得手、不得手に捕らわれず、表現を楽しむステップが含まれているのが特徴であり、同じ場にいる参加者どうしが、お互いの視点や表現を共有することで、自然に表現や感性の交流を楽しむ雰囲気を作ることができる。
 今回の企画では、まず、感性的なマインドと場を作り出すために、プログラムの冒頭に森の中に入り、このネイチャージャーナリングを行うことにした。

ジャーナリングの中でそれぞれが得た視点を共有する参加者

 木を削る彫刻のプログラムは場所を森から移動して、アカデミーのウッドデッキで行うことにした。怪我を防ぐための最低限のルールとナイフワークを伝えた後「木と対話をしながら削ってみましょう」という言葉を伝え、皆で森から伐り出した木の枝を削って作品作りを進めることにした。木には生物としての組成(繊維の方向性)があり、それに反した加工をした場合、繊維がむしれたり、ナイフが引っかかって動かなくなるなど、作業面の不具合だけでなく仕上がりの不出来にもつながる。

 普段の活動では、これらを避けるために刃の当て方や向きを変えるなど技術的なアドバイスで対応するが、本プログラムでは「木の声を聞く」「木の嫌がることをしない」という言葉がけを通じて、木の組成に反したナイフワークを避けるよう促すことにした。同時に、ナイフワークにおける感性的な心地よさに導かれる形で、参加者各自の心の向くままに作品を作り上げるよう促すことにした。

木と対話しながらナイフワークに取り組む小学生の作品

 プログラムは「私を見つける森のナイフワーク ~静と生の1日~」と題して10/18(土)9:00~16:00の枠で開催し、小学生3名を含む12名(7歳~60代まで)の参加者で行われた。
 プログラムは前半(午前中)のネイチャージャーナリングと後半(午後)のナイフワークという分け方で進められたが、森の中で醸成した感性の広がりと安心して自己表現や互いの視点の共有ができる場作りは活動全体を通して維持することを意識した。

 この実験的な試みはおおむね期待の通りの成果を見ることができた。参加者たちは視点の持ち方や技術の巧緻に捕らわれることなく、自身のもの作りに没入し、様々な場面において、お互いの作品を見て・感じる感性的な活動を楽しむ姿を見ることができた。

参加者の作った作品とネイチャージャーナリング

教員からのメッセージ

 もの作りを楽しむためのアプローチは、様々な正解の形があります。
 指導を受けながら技術や知識を積み上げていくやり方もあれば、感性的な観察や内省を手段として、自身の中の発見を積み上げながら、ものを作り上げていく方法もあります。そのどちらも間違いでは無く、表現や技術を深める手段となり得ます。

 今回は、石岡さんの関心分野であるネイチャージャーナリングをナイフワークの導入に取り入れることで、参加者は慣れないナイフワークや自己表現を、とても自然に楽しみながら深めることができていました。
 このような感性的な体験プログラムを今後も少しずつ深めていきたいと思います。

活動期間

2025年5月~10月

連携団体

公益財団法人 岐阜県教育文化財団
アートラボぎふ事務局
日本イベント企画株式会社

活動成果発表

2025年10月18日開催
第8回 アートラボぎふ アート体験プログラム 
私を見つける森のナイフワーク ~静と生の1日~
アートラボぎふONLINE
(プログラム動画の公開)
https://artlabgifu-online.jp/program/post-12609/