森林獣害の現実を知る:Cr森林獣害の基礎
先般実施した「森林獣害の基礎」という科目について学生がレポートをしてくれました。現地現物主義で分野横断的な視点を大切にするアカデミーの実習を垣間見ることが出来ると思います。
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皆さんは、「森林獣害」と聞くとどのような状況を想像するでしょうか。風景はどんな感じなのだろう?対策はどうすればいいのだろうか?私たちはそれらのイメージを、なんとなく持ちながら岐阜県の西濃地域を訪れました。そのイメージは、このあと根本から覆されることになるのですが。
この実習の目的は、ニホンジカやツキノワグマを中心とする野生動物の影響が、約20年前に皆伐・再造林されたスギ・ヒノキ人工林の生育状況がどのような影響を与えているかを調査し、今後の森林管理と獣害対策のあり方について考えることです。この土地は水源涵養保安林として管理されていますが、冬には2メートルもの雪が積もる豪雪地帯で、斜面の岩も崩れやすいというなかなか過酷な環境です。当日は、道を塞ぐ落石を人力でどけながら、ゆっくりと山を登っていきました。

そうして分け行った林内では、植栽されたスギ・ヒノキの多くがニホンジカに新芽(成長点)を食べられ続けてしまったことで、大人の腰ほどの高さで丸く盆栽のように固まり、運よく食害を免れた一部の木だけが10〜15mの高さに成長しているという状況でした。食害の影響は林床にも見られ、シカが好まないミツマタ、マツカゼソウばかりが残り、広葉樹林では地上1m前後の高さにディアライン(鹿の口の届く範囲)がはっきりと現れていました。地表面の緑が失われている急傾斜地では、表層崩壊の発生箇所も見られました。

この場所では幼木へのツリーシェルター等の単木保護、成木の幹への紐巻きなどの獣害対策も意味をなさず、積雪と融雪の移動による倒伏・破損や、獣によって紐が切断されるなどして防護機能がなくなっていました。そもそも、皆伐によって生まれた「草原と森林がパッチ状に混在する環境」は、皮肉にもニホンジカにとって最も好ましい生息環境となってしまっている現状があります。途中、見晴らしのいい場所で車を止めて双眼鏡で見える範囲のシカを記録していきましたが、およそ半日で目視で確認できたニホンジカはオスが10頭、メスが38頭(幼獣の判別不明も含む)の計48頭という結果でした。

このようにシカの食害によって下層植生が単調になり、緑が剥ぎ取られた林床が急斜面の崩壊を招いている様子や、本来あるべき豊かな生態系や森林の階層構造が完全に失われている様子は、私たちにとって非常に衝撃的でした。また、その影響によって森林の持つ機能(水源涵養や防災機能)が大きく弱まっていることを肌で感じ、「うつ手がないな」と感じさせる状況でした。

今回の視察を通じて、森林管理(特に皆伐を伴う更新施業)は、単に木材を生産する視点だけで進めるべきではないと思い知らされました。今後は実効性のある狩猟者人材の育成と捕獲圧の維持や、積雪寒冷地に適した防鹿柵の季節的な設置・排除の仕組みなど、森林所有者や地域社会を巻き込んだ総合的な獣害管理・森林管理体制を整備する必要があると強く感じた実習でした。

報告:髙橋啓(林業専攻)福嶋裕貴(森林環境教育専攻)
里山や集落の近くで引き起こされる獣害と異なり、奥山で引き起こされている獣害は人目に付きにくく、この現状を理解している人は案外多くないかもしれません。だからこそ、森林利活用分野の林業と森林環境教育の学生が多様な視点を交わし合いながら山で起きている現実を見ることが大切なのです。森林文化アカデミーでは、今を知りこれから何をすべきなのかを考えられる人材育成を目指しています。
編集:新津裕(YUTA)