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2026年07月14日(火)

森林文化を「生き方」から学ぶ(クリエーター科共通「森林文化」第1回)

<2026.6.29> クリエーター科共通授業「森林文化」の今年度第1回を開催しました。

この授業は、クリエーター科1・2年生、そしてエンジニア科2年生が合同で学ぶ、年間4回の共通授業です。各専攻が持ち回りで担当し、ゲストをお招きしてお話を伺いながら、それぞれの視点から「森林文化とは何か」を学生と教員が一緒に考える機会となっています。

今年度第1回は森林環境教育専攻が担当。「つなぐ」をテーマに掲げる専攻として、林業と森林環境教育、その両方を実践する方からお話を伺いたいと考えました。

そこでお招きしたのが、三重県で林業を営む叶林業合名会社堀内楓子(ほりうち・ふうこ)さんです。

叶林業合名会社の堀内楓子(ほりうち・ふうこ)さん

堀内家は約300年の歴史を持ち、地域に根ざしながら様々な事業を手がけてきました。現在は林業を家業として営むと同時に、堀内さんは三重県の森林環境教育指導者「森のせんせい」としても活動されています。

授業に先立ち、林業専攻の塩田先生と一緒に叶林業を訪問し、実際の山を歩きながら現地で堀内さんのお話を伺いました。

現場で感じたのは、堀内さんにとって「林業」と「森林環境教育」は別々のものではなく、「地域」という大切な存在を通して一つにつながっているということでした。

叶林業さんの林業現場(三重県松阪市)を塩田先生と視察(2025.3.20)

そんな堀内さんの世界観を、ぜひアカデミー生にも感じてもらいたい。そう考え、何度も打ち合わせを重ねながら、この日を迎えました。


会場入口ではまず、全員に堀内さんが用意した木の枝を一本ずつ選んでもらいました。

数十種類の樹種の枝を持参くださった堀内さん(写真右)

「まず触ってみてください。直感で、今日の気分の枝を選びましょう!」

堀内さんは木の違いを言葉で説明するのではなく、触ってみる、叩いてみる、他の人と比べてみてくださいと語りかけました。保育園での活動でも、木や葉っぱを子どもたちのそばにそっと置いておくと、叩いたり、握ったり、匂いを嗅いだりするそうです。

枝1本でも、自然と森とのつながりが生まれていくと堀内さん。
言葉で説明するより、五感で感じてもらう ー そんな森林環境教育らしい導入から、講義が始まりました。

棒を持つ人同士で自然とコミュニケーションが生まれる


今回の講義タイトルは、

「森と私の現在地 ー 何の続きを生き、どこへ向かうのか」

講義は、「林業」と「森林環境教育」の二つの要素を行き来しながら進みます。堀内さんが実践されてきたこと、考えていることを通して、私たちは「森と人のつながり」そして「森とつながる自分たちは、これからどう生きていくのか」を考える時間となりました。


林業から見る森林文化

堀内さんが最初に語ったのは、「風景を見る視点」でした。

地元・飯高町の山を例に、約60〜80年前、この地域の山々は今のようなスギ・ヒノキ林ではなく、落葉広葉樹が広がる山だったと紹介します。

エネルギー革命によって薪や炭の利用が減り、戦後の建築需要の高まりとともに、未来の暮らしを支える資源としてスギやヒノキが植えられていったそうです。

「今ある風景は、その時代の人たちが、将来どんな暮らしをしたいか、どんな資源と生きたいかという意思の表れだと思います」

だからこそ、堀内さんは林業について、次のように語りました。

林業は木を植えたり伐ったりする仕事であると同時に、風景をつくり、暮らしをデザインする仕事でもあります」

約300年にわたり地域の山とともに歩んできた堀内家。その家業である叶林業が大切にしているのは、木材を生産することだけではありません。植林や育林、素材生産といった林業を丁寧に積み重ねながら、広葉樹の苗木づくりや、在来の樹木を活かす新たな取り組みにも挑戦し、山の未来を育てる仕事として林業を実践しています。

そこにあるのは、「木を育てること」と「人と森との関係を育てること」を切り離さない考え方です。山を次の世代へ受け継ぐこと、そして地域の暮らしを未来へつないでいくこと。その両方を見据えながら山に向き合っていることが、叶林業の大きな特徴なのだと感じました。

「森林文化」はクリエーター科、エンジニア科が一同に集まるアカデミー最大規模の共通講義

そんな堀内さんのお話を聞いていると、「森林で働く人」というより、「森の中で生きている人」という印象を受けます。

例えば、広葉樹の苗木をつくろうと、トチノミを拾いに沢へ入ったときのお話です。夢中になって実を探していて、ふと顔を上げると、すぐ近くで鹿も同じようにトチノミを探していたそうです。

鹿と同じ格好でトチノミを探していました。あ、私、鹿と同じだ、と思いました

人と動物を分けて考えるのではなく、自分も森を生きる一員として自然の中にいる ── そんな堀内さんらしい森の世界の見え方が、この一言に表れていました。

また、山を年配の方と歩く時間も好きだと言います。

「昔はここに畑があった」
「あそこには炭焼き小屋があった」

そんな話を聞きながら歩いていると、自分が見ている風景と、その人の記憶の中の風景が重なる瞬間があるそうです。

五十歳以上年齢が離れている人とも、時間を超えて、同じ景色を共有できるんです

そこには、かつて山で働いてきた人たちの気配が立ち上がり、時代を超えて仲間になれるような喜びがあると語ってくださいました。

森林文化とは、森林そのものだけではなく、人が積み重ねてきた時間や営みも含めて受け継がれていくものなのだと感じました。

叶林業さん(三重県松阪市)視察で見た苔むしたシシ垣。山の先人達が築いたもの(2025.3.20)


森に関わり続けるために、森を伝える

堀内さんは、林業を始めてから、森で働くことがどんどん好きになったと話します。そんな日々を重ねる中で、森は「仕事場」というより、自分にとって心地よく、生きる喜びを感じられる場所になっていきました。

その一方で、その豊かさに触れることができる人は限られています。
現代では、こどもも大人も、身近な山に行く人もほとんどいなくなり、人と森の距離は離れていっています。

講義の中で、堀内さんはこんな言葉を話してくださいました。

「フユイチゴを食べて『おいしいね』と言える仲間が、いなくなってしまう」

森には、季節ごとに実がなり、花が咲きます。その変化に気づき、「おいしいね」「きれいだね」と誰かと喜びを分かち合えることも、森が与えてくれる豊かさの一つです。

だからこそ、堀内さんの中には、こんな思いが芽生えたそうです。

私はこのまま毎日、山に行っていていいのか?

自分は森の良さを知っている。毎日こんなに豊かな時間を過ごしている。でも、それを自分だけのものにしてしまうのではなく、もっと多くの人と分かち合いたい。森を歩きながら、一緒に「おいしいね」と言える仲間が増えたら、こんなに嬉しいことはない。

自身が山に行くという営みを続けるために、林業の仕事と並行して山のことを伝える、三重県での「森林教育」にも取り組むようになりました。

現在は県の森林教育指導者「森のせんせい」として、学校での出前授業を多数行っています。さらに森を歩きながら五感をひらく森林散歩や、企業や学生向けの山の見学ツアーなどを精力的に実施しています。

地元の小学校では、オリジナル楽曲「木のうた」を制作し、こどもたちが歌い継いでいます。この歌は。世代や地域を超えてつながりを生み出す「木のうたプロジェクト」へと発展しました。

こうした堀内さんの森林環境教育は、「森を守りましょう」と訴えるものではありません。まずは森を好きになってもらうこと。森の中で感じた喜びを、分かち合える「仲間」を一人ずつ増やしていく、堀内さんの「生き方」である ーー そう感じられました。

当日配られた資料。森の楽しさを伝える様々な活動が紹介されている


自分は「つなぎ目」であればいい

堀内家は約300年続く家業です。その歴史を受け継ぐことに、大きなプレッシャーがあるのではないか —― そんな問いに対し、堀内さんは木の年輪を例に話してくださいました。

自分は年輪の一目盛りであればいい

年輪は、一年ごとに少しずつ、少しずつ外側へ重なって、大きくなっていきます。内側から積み重ねられてきた時間と、これから外側へ伸びていく未来 —― その間にある「つなぎ目」が、自分の役割なのだと堀内さんは言います。

「だから一番大切なのは、大きな成果を残すことではなく、心身ともに元気でいることです」

過去から受け継いだものを未来へ渡す。

「雨が降ると、水はほとんど蒸発するけど、一滴でも地面に染み込めば、何十年後かに地上にでてきます。その水は、植物を育くみます。それが自然の営みです。自分がどんなに頑張っても、林業が明るくなるわけでもない。こどもが森をすぐに好きになるわけでもない。それでも、「一滴でも」と思い、続けています。「一滴」に希望を持っているんです

その穏やかで力強い考え方に、会場全体が静かに耳を傾けていました。


「PKT」で言語化する

今回の授業では、講義の途中に何度か「PKT(ぺちゃくちゃタイム)」を設けました。近くの学生や教員同士で、今聞いた話について自由に話してみる時間です。

随所で行われたPKT(ぺちゃくちゃタイム)

時には、席を立って身体を動かしながら考えてみる時間も。

「”今”が、卒業後のしごとや暮らしに、どうつながる?」

広い森の情報センターを活用して、堀内さんが用意してくださった9つの入口を体感的に探すワークも

仲間と一緒に言葉にしてみることで、この日の講義が自分自身の体験として少しずつ染み込んでいきます。教員も学生も混ざっての対話は、「現在地」について、それぞれが意識し合う時間となっていました。

自分の今の入口に立ってみる ー 身体感覚を通して考え、対話する時間も設けられた

 


何の続きを生き、どこへ向かうのか

3時間にわたる「森林文化」も、あっという間に終了の時間です。会場からは、

「林業と森林環境教育が、自分の中で一つにつながった」
「林業は木を生産する仕事ではなく、人や地域ともつながる仕事だと感じた」

など、多くの気づきが共有されました。

さらに、質疑応答では、堀内さんから「森に浅瀬をつくる」「皆伐跡地は夢の塊」といった、私たちの固定観念を揺さぶる言葉が次々と語られました。課題を課題として受け止めるだけではなく、「どうすれば面白くなるか」「どうすれば未来につながるか」という視点で森を見つめ直す。その姿勢そのものが、学生たちへの大きなメッセージになっていたように感じます。

最後に、林業専攻の塩田先生からも、印象的なコメントがありました。

「山で働く人は、木だけを見ているのではありません。地域の暮らし、人とのつながり、森林環境教育など、多様な視点を行き来しながら仕事をしています。林業という仕事は、多様な人や分野とつながることで、さらに豊かになっていく可能性を持っていると感じました」

堀内さんの話を受けて「多様な視点を持つことが林業に関わる人を豊かにする」と語る塩田先生

講義タイトルは、「森と私の現在地 ー 何の続きを生き、どこへ向かうのか」でした。堀内さんは、その答えを直接示したわけではありません。しかし、自らの暮らしや仕事を通して、「森とともに生きる」という一つのあり方を、静かに、そして力強く示してくださいました。

今回、私たちが堀内さんと時間を共にする中で受け取ったのは、林業や森林環境教育という分野ごとの技術や知識だけではありません。森とのつながりを見つめ直すことで、自分自身の立ち位置が変わり、これからの生き方やあり方を考え始める —— そんな「入口」に立つことができた時間だったように思います。

学生たちもまた、この授業をきっかけに、自分はいまどこに立ち、何を受け継ぎ、これからどこへ向かっていきたいのか ・・・ そんな問いを、それぞれの胸に持ち帰ったのではないでしょうか。

「森林文化」とは、森と人との関係の中で育まれ、世代を超えて受け継がれてきた営みです。そして私たちもまた、その続きを生き、次の世代へとつないでいく存在です。今回の講義は、そのことを森林文化に関わる私たち全員に、静かに問いかけてくれる、とても豊かな時間となりました。

堀内さん、貴重なお話と学びの機会をいただき、本当にありがとうございました。

<森林環境教育専攻 教員 小林(こばけん)>