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2026年05月18日(月)

【アニュアルレポート2025】非定常計算を用いた夏型内部結露対策の整理

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告より

非定常計算を用いた夏型内部結露対策の整理

教授 辻充孝

目的

 近年、気候変動の影響により夏期の高温多湿化が進む一方、住宅の高断熱化と連続冷房の普及が加速している。これらの要因が重なることで、従来は限定的とされてきた「夏型内部結露」の発生リスクが急速に高まっている。
 本研究では、将来気候を反映した拡張アメダスデータ(2086年)を用いて温湿度条件の変化を把握するとともに、非定常熱湿気同時計算ツール(WUFI)により複数の対策案を比較検証し、夏型内部結露対策を体系的に整理した。
 最終的には、気候変動下においても木造建築の耐久性を確保するため、実務者が採用しやすい設計指針を提示し、地域材を活かした建築の長寿命化に寄与することを目的とする。

概要

将来気候の変化
 まず、拡張アメダスデータ(表1)を用いて代表都市の将来気候を分析した。その結果、夏期の外気温は全国的に現在より約1.5~2.0℃上昇すると予測され(表2)、加えて絶対湿度の高い時間帯が増加することが確認された。
 美濃気象観測所のデータ(図1)でも、特に夏期における絶対湿度の上昇が顕著である。今回使用した2086年版標準年拡張アメダスデータ(2077~2099年)はIPCC A1Bシナリオを基に作成されており※、A2シナリオではさらに厳しい条件となる可能性がある。

表1 分析に用いた標準年拡張アメダスデータ

表2 代表都市の2020年と2086年の夏季の温湿度変化

図1 美濃気象観測所(5地域)の気象データ分析(気温[℃]、絶対湿度[g/kg(DA)])

夏型内部結露リスクの高まり
 外気側の高温多湿化に加え、高断熱化による冷房負荷の低減と連続冷房の一般化により、壁体室内側の温度はこれまで以上に低く保たれる傾向が強まる。外側の高温多湿と内側の低温化が重なることで、夏型内部結露の発生条件は今後さらに整いやすくなると考えられる。

非定常計算の必要性
 建築実務の防露設計では、室内外の温湿度を一定と仮定する「定常計算」が一般的である。しかし、夏期は昼夜の温湿度変動が大きく、定常計算では安全性を十分に評価できない。
 そこで本研究では、時間変化に伴う温湿度や日射の影響を考慮できる「非定常計算」を採用し、夏型内部結露対策の有効性を検証した。使用したWUFIは、フラウンホーファー建築物理研究所が開発した信頼性の高い国際的ツールである。

夏型内部結露対策の整理
 夏型内部結露を抑制するための基本的な考え方は以下の4点に整理できる。
・絶対湿度の高い外気を躯体内に侵入させないこと
・躯体内の水蒸気移動を遅らせ、外気変動に対して内部環境を安定化させること
・冷房により防湿層面の温度を過度に下げないこと
・躯体内に侵入した水蒸気を室内側へ透過させること
 これらの観点から、札幌(2地域)、美濃(5地域)、東京(6地域)において、ケース0の夏型結露発生に対する17パターンの対策案(表3左、図2、図3)を非定常計算により比較検証(図4、図5)した。

表3 WUFIシミュレーションによる比較検討内容と結果概要(温暖地の場合)

図2 ケース0比較用標準壁体

図3 ケース9-2セルロース+中間防湿層

図4 ケース0比較用標準壁体のWUFIシミュレーション結果

図5 ケース9-2セルロース+中間防湿層のWUFIシミュレーション結果

非定常計算による主な知見

 17パターンの計算結果は表3右に示すが、主な知見として下記の6項目が得られた。
① 室温を下げ過ぎない
 一定の効果はあるものの、住まい手の行動に依存するため、将来の高温化を踏まえると対策としての限界がある。
② 日射遮蔽による蒸し返し現象の抑制
 外装材の加熱による水蒸気圧上昇(蒸し返し)を抑制する効果が確認された。ただし、汚れや経年劣化による遮熱性能低下のリスクを考慮する必要がある。
③ 調湿性能のある断熱材の使用
 断熱材の吸放湿により昼夜の温湿度変動を平準化し、結露リスクを低減できる。ただし、防湿層の適切な設置や非定常計算による事前検証が不可欠である。
④ 防湿層を断熱層の中間に配置
 夏冬ともに安定した性能を示し、将来気候に対しても高い有効性が確認された。
⑤ 発泡系外張り断熱材の施工
 外部からの水蒸気流入を抑制し、躯体内の温度を安定化させることで高い有効性が得られた。
⑥ 防湿層をなくし室内側への水蒸気透過を促す
 夏型内部結露に関しては有効だが、断熱材の種類や躯体構成によっては冬型内部結露のリスクが増加するため、夏冬双方の検討が不可欠である。
 今回の検討から、夏型内部結露は単一の要因ではなく、温湿度変動・断面構成・住まい方が複合的に影響する現象であることが改めて確認された。

まとめ
 本研究で得られた知見を組み合わせることで、夏型・冬型の双方の結露リスクを低減する断面構成を検討できる。今回の検討結果は、各対策の温湿度挙動を示すグラフとして整理可能であり、実務者が将来の気候条件を見据えた設計判断を行うための基礎資料となる。
 気候変動・高断熱化・連続冷房という複合的な要因がもたらす新たな結露リスクに対し、本研究は木造建築の耐久性を確保するための実践的知見を提供するものである。

教員からのメッセージ

 心地よい温熱環境は暮らしの質を高めますが、その性能を長く維持するには、内部結露への配慮が欠かせません。気候変動が進むこれからの時代、心地よさと耐久性を両立させる設計がますます重要になります。地域の木造建築を未来へつなぐために、知恵を共有し、実践を重ねながら、より明るく持続可能な社会を一緒につくっていきましょう。

 

活動期間

 2024年~

連携団体

・(一社)(一社)日本バウビオロギー研究会

関連授業・課題研究&関連研修

・木造建築の環境性能設計(Cr)
・建築計画・環境工学(En)

※ 空気調和・衛生工学会大会2022年「2086年版将来標準年拡張アメダス気象データの作成」赤坂らより

 

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