ドイツ木工視察報告⑦ ビーベラッハ木造建築教育センター
ロッテンブルク林業大学のバスチャン・カイザー学長とともに、ビーベラッハにある木造建築教育センター(Bildungszentrum Holzbau Biberach、以下BHB)を訪問しました。案内してくれたのはヴォルフガング・シャフィテル先生です。広大な敷地にいくつもの木造(CLT)のビルが建っています。この施設がユニークなのは、州立ではなく、バーデン=ヴュルテンベルク州木造建築業組合が設置し運営していること。予算は、業界団体1100社の会費・拠出金、州や連邦政府からの公的補助金、そして建築労働者の社会保障基金(後述)が組み合わせられています。

ドイツの職業教育は、職業学校と受け入れ企業を行き来しながら学ぶ「デュアルシステム」と呼ばれる仕組みであることはこの連載記事でも説明しました。BHBはそれぞれの職業学校では提供できない専門的な研修を提供しています。バーデン・ビュルテンベルグ州(以下BW州)全域から学生がやってくるため、20人のマイスター資格を持つ指導者がいて、2年生は約720人、3年生は約650人がここを利用し、18もの実習工房、170床以上の宿泊施設などがあります。
最も若い学生は中等学校を卒業してから職業学校に通う16歳〜で全体の30〜40%、普通高校を卒業してから職業学校に通い始める19歳〜が約30%、他の職業からの転職組が20%ほど。女性の割合は8%だそうです。

これは2〜3年生の年間時間割ですが、白=企業、緑=職業学校、赤=BHBです。数週間ずつのブロックになっていて、行き来しながら学ぶことが分かります。

これが建築労働者の社会保障基金、SOKA-BAU。すべての建築業者は従業員の賃金の2.2%をこの基金に入れなければならないという仕組みです。デュアルシステムで研修生を受け入れると基金から会社が50-60%の費用を受け取ることができます。また、BHBも研修費用の一部を受け取ります。

概要を学んだ後、工房を見学しました。このような広い工房がいくつも並んでいます。私が日本から来たと知ると、女子学生(写真中央)が「日本に行きたいです!」と話しかけてくれました。若者の間では、建築業はエコロジカルであり、伝統建築の修復から現代建築までバラエティも豊かなため、人気があるそうです。




こちらは左官・土壁の実習棟。環境意識の高まりから、近年左官の学科は人気とのこと。



こちらは15世紀に建てられた旧市庁舎の模型。現在も市役所の様々な部署が入り、利用されています。


こちらは屋根加工の実習。断熱材の組み込み、防湿シートの施工、気密性能の確保、外装材の取り付けなど、現代のエネルギー効率の高い木造住宅に必要な要素技術を、一連のプロセスとして学びます。チームワークによる生産効率の向上、品質管理の重要性なども合わせて学ぶ内容となっており、将来的に現場監督・職長的な役割を担うことを視野に入れた教育設計がなされています。


屋根の内側と外側の両面から作業ができる仕組み。

天井クレーンを備えた大型実習ホールでの、等倍スケールでの建築実習。数名でチームを組んで建てていくため、同じ建物が何棟も建っていました。大型のCNC加工機もありました。仕口加工では解体のしやすさを考慮して、木製の釘を打ち込むのだそうです。




BHBは更にマイスター(起業できる)になるためのコース、既にマイスターの資格を持つ人や設計士などが更に高い知識や技術を学ぶ100以上のコースも提供しています(木造建築のプレファブリケーション(木造パネル・ユニット工法の設計・施工技術)、パッシブハウス・高断熱建築の施工技術、CLTを用いた中・大規模建築への木造適用、文化財建造物の修復・保存技術、木造建築のデジタル設計・製造(BIM連携、CNC加工)、作業安全・労働衛生管理など)。ロッテンブルク林業大学のカイザー学長も、実はここで経営学を教えているのです。
また、EU各国や域外の大学等からの2〜3週間程度の研修を多数受け入れているそうです。

日本にもポリテクカレッジ(職業能力開発大学校)が全国に10校あり「日本版デュアルシステム」を実践していますが、ドイツに比べると職種は少なく、産学の連携も限定的な印象です。ドイツを視察して、質の高い職人を育てるための官民連携の仕組みが非常に充実していることが強く印象に残りました。

左からロッテンブルク林業大学のバスチャン・カイザー学長、ヴォルフガング・シャフィテル先生、私、ロッテンブルク林業大学留学生の小原光力(おはらありちか)さん。
続きます。
久津輪 雅(木工・教授)