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2018年10月22日(月)

ドイツ・サマーセミナー2018報告5

9月20日の報告はBW州有林での高性能林業機械による搬出です

 

サマーセミナー4日目。Bグループは、シュヴァルツヴァルト(黒い森)北部のバーデン=ヴュルテンベルク州(BW州)州有林で、高性能林業機械を使っての伐採・造材・搬出作業を行なっている現場を見学しました。

最初の現場では、ハーベスタでの伐倒・造材作業が行われていました。この州有林は、上側に自然公園、下側に民有林があり、間に挟まれた州有林で、自然公園で発生したキクイムシの被害が、民有林に広がらないようにするための緩衝帯(バッファゾーン)として管理されているそうです。自然公園の木を伐採することはできないので、州有林の被害木を伐ることで被害の拡大を防いでいるとのこと。現在、200本くらいの被害木があるそうです。

 

自然公園

BW州有林

 

この現場で作業していた機械は、フィンランドのPONSE社の8輪ホイールのハーベスタでした。

 

ハーベスタ(ERGO)

 

ブームがテレスコになっている(伸縮する)こと以外は一般的な斜面地仕様の機械で、姿勢を保持するためのウィンチはだいたい標準でついており、ウィンチ自体にもエンジンがついていて、本体のエンジンとシンクロして動くそうです。

 

運転席内の様子。木材の市場価格等のデータが直接送られ、それに基づいて造材が行われる

 

機械の価格は、約55万ユーロ(約7000万円)と高額なため、無駄なく稼働させるために、1日あたり10時間、週6日を月〜水と木〜土のオペレーター2人交代体制で作業を行い、年間1700時間稼働させているそうです。生産性については、この程度の胸高直径の太さの現場であれば、1時間に30m3くらい処理可能。木の直径が細い現場でも、5m3/h生産可能で、多ければ1時間に40m3できる現場もあるとのこと!もちろん現場の条件やオペレーターの腕次第で数字は左右するとのことですが、日本の一般的な林業の生産性と比較すると非常に高い数字で、改めて驚かされました。チェーンソーを振り下ろす幅も、鋸断できる幅のギリギリに設定してあり、バーが戻る1秒の時間も短縮して生産性を上げているとの話も聞きました。

また、生産性を向上させるためにも重要な路網についてですが、基本的に路網は、40tトラックも通れる丈夫で安全な道(日本の林道に相当)と、林業機械(ハーベスタやフォワーダ等)が通れる程度の道、機械や人が森林に入って作業をするための作業道の3つに分けて作られており、作業道は基本的には40m間隔で、林内に真っ直ぐに入って行くように設計されているそうです。BW州の森林の路網密度は他の州と比べても高く、林道が50m/ha程度開設されているとのこと。広い路面に砕石がひかれ、大きな凹凸もなく平らに作られており、大型トラックの走行も容易な林道が作られていました。

 

林道の様子。道上の木をハーベスタの姿勢保持のためのアンカーツリーとして使用している

作業道の様子。横たわっているのは造材後の丸太(15~20mくらいに造材してそのまま製材所に運ばれる)

 

見学した現場は、それほど急斜面ではありませんでしたが、作業に使う機械を斜面の斜度によって変えているとのことで、斜度0〜30%(0~約16.7度)まではハーベスタ・フォワーダを使用。斜度30〜60%(約16.7度~約30.9度)までは、トラクションウィンチ(姿勢保持用ウィンチ)付きのハーベスタを使用。斜度60%(約30.9度)以上の急斜面では、ワイヤー等を使用した架線集材を行っているそうです。

午後は、次の現場に移動して、フォワーダなど集材・搬出の作業を中心に見学しました。この現場は、20年前に大嵐で大きな風倒被害を受けた後、ドイツトウヒとモミの林から、この地の潜在植生であるブナに遷移をした州有林で、あまり質の良くない20年生くらいのブナの木が中心の林になっているため、一度皆伐してダグラスファーの単一林にすることが予定されているそうです。ハーベスタで処理できない木もあり、チェーンソー伐採が必要なため、費用が多くかかっているとのこと。この日も、チェーンソーでの伐採作業を行いながら、フォワーダとスキッダの2つの集材機械での集材・搬出作業が行われていました。フォワーダは、ハーベスタが作業した道と同じ道を走りながら多くの材を集積・運搬・整理を行うために使われ、スキッダは、40m間隔の作業道間にあるフォワーダで集積できない、20m先の材を集材するのに使用されているそうです。

 

フォワーダ(画面手前の2輪を上昇させて走行中)

 

フォワーダは、Komatsu Forestの12t級、8輪ホイールの機械で、基本的に標準仕様ですが、不整地走行性を高めるためにタイヤの動きを調整できる機能がついているとのこと。グラップルの最大到達半径は10mあるので、作業道から10mの範囲の材を集めることが可能です。

そして、スキッダとして使われていたのは、日本ではあまり見たことのない、姿勢保持用のウィンチと牽引用のウィンチが前後についている小さい集材機械でした。

 

ウィンチ集材機。リモコン付きで、機械から離れての操作も可能

 

不整地での現場作業に適しており、車体重量も3.5tと中型トラックでも運べる重さで、価格も約8万ユーロ(約1000万円)と安く買えるため、便利に使えるとのこと。ウィンチは5~6tくらいの牽引力があり、枝払い後の木であれば、直径50cmくらいの木も引けるそうです。50~60m先にある材を引いてくることも可能ですが、作業道が40m間隔に入っているので通常は遠くても20~30m程度しか牽引しないとのことです。

また、重機が動く際に林床を痛めることがないように作業道に枝葉が敷き詰めてありました。

2つの現場作業の様子を見学し、高い生産性の背景には、路網計画を含めた生産システムがしっかり考えられ、構築されていることもあるのだと感じました。加えて、林床を痛めない工夫など森林生態系のことも考慮した施業も行われており、作業環境は違ってもドイツの林業から学べる点は多くあると思った1日でした。

 

見学終了間際、突然現れた大量の羊!! 立派な林道は羊飼いにも利用されていました

 

クリエーター科1年 林業専攻:森泉 周平