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2020年08月19日(水)

続・建築秘話 近江八幡の家(基本設計から実施設計)

「建築秘話 近江八幡の家(木造建築病理学に基づく調査・プレゼン)」では、調査・プレゼンまでのお話でした。

プレゼンの方向性は概ね好感触で古民家改修と新築棟の基本設計に移ることになります。

ただ、母屋の古民家改修に関しては、住まい手のご両親との調整もありすぐには進みません。そこで新築棟を中心に、母屋の改修方針も合わせて検討していきます。

当時の担当学生が2名。主に構造担当と意匠・性能担当に分かれてそれぞれ検討を進めました。

実施設計段階に入ると、プロの建築士の方にも入っていただき、実務的な作業に加え、実務者視点での細やかな図面や模型などの学生指導、予算・スケジュールコントロールを学びました。
私を含めた4名を中心としたチームで実施設計に当たりました。
(構造の実施設計は、アカデミー卒業生が担当したりと、他にもたくさんの方が関わっています。)

■構造検討

まずは、基本となる計画は概ね決まってきているので、学生T君が構造模型を作って架構の検討です。

今回のような真壁工法(柱や梁が見える構造)の場合、構造がそのまま意匠となってインテリアに現れるため、無理なく、きれいな軸組みで組み上げられるかが非常に重要です。

学生が伏図(構造の組み方)を考えて、それを立体的に組み上げてくれました。
アカデミーで初めて建築を学び、2年目になったところ(当然建築模型も2年目)ですが、どうですかこの精度。
材料はリユースなので裏紙部分などありますが検討には十分な精度です。

プレゼン時の模型と比べてみましょう。(こちらも、いい感じですよね。)
割とそのままの形状が組まれている感じです。

いかにも実現できそうな構造模型ですが、この段階でいろいろ課題が見えてきます。実はよくわからないところは模型ではごまかして省略しています。ですが隅々まで検討しないと模型にできないため、どこが納まっていないかも学生は認識しています。

例えば、
・模型手前の低いところは2台分の車庫ですが、6m以上の柱の無い空間にするために、大きなスパンを飛ばさないといけません。模型だと案外簡単に飛ばせてしまいますが、これをどのように飛ばすかは実はいろいろ工夫がいるのです。
・また、リビングの大きな吹き抜けで開放感と上部から光を取り込もうとしていますが、その分横からの風の影響をどのように受け止めるかも要検討です。
このように、軸組模型つくって、組みにくいところを確認したり、模型自体を上からや横からぐりぐり押して、弱くないかの実際の強度イメージも確かめていきます。

■温熱検討

一方で、意匠的な納まりや温熱性能も同時に検討します。

例えば温熱の設計ですが、住まい手の暮らし方に合わせて検討します。

その手掛かりとなるのは、環境家計簿です。
環境家計簿ツールと使い方は動画でもアップしてますので、参考にしてください。)

住まい手が住まわれているマンションでの暮らしを1年間分、環境家計簿で分析しました。
上段が9000世帯分の統計データからみた一般的な暮らしのエネルギー、下段が今回の住まい手です。
1割程度多く使用していることがわかります。

グラフを見ると、暖房エネルギーが一般的な住まいと比較して2倍以上という結果となりました。
これはマンションで使用している床暖房(あるいはエアコン)の使用による増加が考えられますが、その分室内環境は、安定した暖かい状況を維持できていると考えられます。

また、家電エネルギーも通常より大きいです。これは、家電を丁寧に使われているため古い機種の影響もあり機器の省エネ性能が劣っていることが考えられます。
家電機器の中でも一般的に消費量の大きな冷蔵庫、テレビ、暖房便座の選定に注意する必要があります。同時に、使用機器の数を減らす見直しも同時に行いたいところです。
一方、給湯や照明、冷房は通常より少なくなっています。

この結果も踏まえて、建物全体の温熱目標を定め、断熱材の種類や厚みを考慮して性能計算を行います。

まずは現状の暮らしにおける暖房エネルギーの多さから、断熱性能と日射熱取得性能向上は必須項目です。
そこで、今回の断熱性能目標は、コストバランスも考えて、無理なく暖房ができる断熱性能を目標に、UA値0.4W/㎡Kを切る程度を目標に仕様を決めていきました。国の目標値:省エネ基準(最低レベルの基準)がUA値0.87W/㎡Kですので、半分以下程度の熱の逃げる量に抑えられるはずです。これにより、床や壁面の温度も室温に近づき不快な温度ムラも解消できます。

屋根や壁にウッドファイバー断熱材を入れて、補助的に外張り断熱なんかも入れて・・・と検討しながら仕様のあたりをつけていきます。

加えて、冬期の日射取得もたっぷり入れたいところです。そのための日影の検討も行っています。
日照が十分に入る部分に、高断熱の大きな窓を取ることで、日射取得を考えます。

このあたりは、「環境性能設計」の授業でみっちり学んでいますので難なくこなします。

■照明検討

さらに照明設計です。戸建て住宅で照明や設備を検討している設計者はまだまだ少ないです。

照明やその他設備設計に関しては、「建築設備」の授業で「自立循環型住宅への設計ガイドライン」で学びますので、当然これらの検討を行っていきます。

こちらも、暮らし方が影響しますので、まずは住まい手がお住まいのマンションで、実際の照明を点けたときの明るさと感じ方を計測いただきました。
(下の表は実測いただいた結果の一部です。)

この住まい手の感覚をもとに照明を計画していきます。

求めたい明るさや部屋の広さ、反射率から必要な光束を求めます。

ここで、まとめた光束をもとに、照明器具を選定していきます。ここでは奥様が大活躍でした。
丁寧に照明のデザインや機能、明るさを確認しながら配置していきました。

 

温熱設計や照明計画にしても、大切なのは単純な机上の計算だけではなく、基本となるのは、住まい手の暮らし方がベースになっていること。

■実施設計図書

このような様々なことを、検討しながら、実施設計図書にまとめ上げていきます。図面枚数にして100枚以上。よく描きました。

「木造建築計画の応用」の授業の一環で、設計打ち合わせにも同席させて頂いたりと、学生の間に貴重な経験をさせていただきました。

学生が参加して、説明する場面もあります。

下の写真は、打ち合わせ準備で、室内の各種仕上げ材の素材や色合い、質感を検討している様子です。

実施設計がまとまると、いよいよ着工して工事が始まります。

つづく

准教授 辻充孝