活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2020年04月03日(金)

あたらしい働き方をmorinosから(morinos建築秘話30)

morinosは日本で最初の「森の入り口」施設です。毎日いろんな人が、ここから森とつながっていきます。
ここで働くスタッフはいつも多くの人たちと接し、その時その季節に合ったプログラムを実施しながら、森への案内人を努めます。建物の中と周辺で子どもたちの様子を見て何かあればパッと駆けつけたり、拾ってきた葉っぱから樹木の名前を質問されたらiPadや図鑑を持ってきて一緒に調べたり。

こうしたmorinosの働き方を実現するために、その機能が建築にも求められます。これは設計の一番初めから最重要条件になっていました。運用ディレクターのナバさんからは以下の2つの要望をもらいました。

「スタッフと来館者を、分け隔てない」
「スタッフと来館者が”同じ目線”でいる」

ところでオフィスというと、よく見るデスク配置といえばこれ。

よくありますよねこの配置。

「侵入禁止」「上下関係」を体現した配置ですね。morinosの設計条件としては、これはダメ。

ですのでmorinosは、設計のスタート時点、つまり最初の学生提案&隈研吾先生の原案段階で、「あたらしい働き方」が提唱されました。

隈研吾先生の原案スケッチの時点で、morinosは「あたらしい働き方」がメインテーマに位置付けられています。

 

それは、
「固定した受付カウンターはつくらないこと」
「通信手段は無線LAN。ノートPCを持ってどこでも仕事ができるようにすること(フリーアドレス)」
「周辺現場にすぐ駆けつけることができ、来館者の質問にすぐ答えられるように働くこと」

できた間取りがこちらです。

着彩してある場所のどこに座っても仕事ができます。天気がいい日は外のデッキでも。

 

「フリーアドレス」なので常駐スタッフは決まった場所にデスクを持たず、普段は中央の豆型テーブル付近に居ます。
気が向いたらコーヒーを持って日当たりのいい南側カウンターに行ってもいいし、膝にノートPCを置いてソファで仕事をしてもいい。無線LANで通信できるし、コンセントはどこにでもあります。
ストーブ横のベンチに腰掛けてもいいかも。

スタッフと来館者を隔てるカウンターも無いので気軽に声をかけやすいし、自然とコミュニケーションが生まれます。
morinosは光環境も温熱環境も良く、場所によって違った居心地があるので、毎日居場所を変えてもいいですね。
ほら、考えただけで楽しく健全に働けると思いませんか?……僕もmorinosで仕事をしようかな……。

■中央の豆型テーブル

県産材ミズナラで出来た豆型テーブルです

 

なかなか良いフォルムですよね。角がなくて、どこにでも椅子をつけて座れる。くぼんでいる部分に座りたくなりませんか?ここの曲線はウェルカム感があります。


このテーブルは、小さい円と大きい円が内包された形になっていて、大きい円の方は模造紙を広げて会議できるようにしてあります。模造紙は四六判(1091mm×788mm)ですので広げるとこんな感じ。スタッフのミーティングに使います。

普段は真ん中の穴からコンセントを引き出します。蓋は岐阜県木「イチイ」。なくならないように革紐が付いています。コンセントが落ちないように工夫されたギミックが。

席をはずす時は、引き出しにPCをしまって鍵をかければOK。ちなみに幕板を曲線にして、引き出しの前板は直線になるように工夫されています。

■南側のカウンター


10席あります。外の様子が見えるので、屋外プログラムを見ながら仕事ができます。天板にコンセントあり。コンセントの下の配線はちゃんと隠しています。シンクもあるので手洗いや水筒への水分補給もここで。(美濃は水がほんとに美味しい!)

■ソファ


ソファで足を伸ばして仕事をしてもいいですね。スタッフもここでお弁当を食べてもいいかもしれません。来館者と一緒にすごせる憩いの場です。

■ベンチ

洞窟のベンチに座ると、こもった雰囲気で集中できるかも。その日のプログラムによっては、真冬なのに全部の出入り口が開けっ放し!寒い!ということもあるかもしれないので、そんな時はストーブにあたりながら仕事をしては?

■1人用のテーブルをくっつけて

県産材のヒノキ、カツラ、クリ、ホオノキを使って制作した「耳付きテーブル」。プログラム用ですが、これをくっつけると数人でミーティング出来ます。このテーブル、1人用にちょうどいい大きさで、スタッフみんなのお気に入り。

(家具についても記事にする予定なので、乞うご期待です)

資料やコピー機や無線LANルーターなどは収納庫に設置しています。また、来賓の方と静かに打ち合わせする必要がある場合は、morinosの北側にある「森の情報センター」を改修してつくった応接室が準備されています。

物入も大きめにとってあるので、ここに資料を置きます。運用しながら可動棚を設置する予定です。
でもここに役所っぽく大量の紙ファイルを並べては、いくら棚があってもキリがありません。
出力のいらないものはデータで保存する、書類決裁の方法を電子署名にするなど、これまでの行政の働き方を変えていく必要があります。
無駄を省き、合理的で、活き活きとした、あたらしい働き方を発信するのも、森の入り口の役割ということですね。

 

「なんだか自由すぎるオフィスじゃない?大丈夫?」と思います?
同じ姿勢でずっとデスクワークをすることで健康を著しく害することが研究によって明らかになり(まあ、あたり前ですよね……)世界的に問題になっています。
クリエイティブで健康的なオフィスの実践としてGoogleやfacebookなどのテーマパークようなオフィスは有名ですが、日本のIT系企業でもフリーアドレスのオフィスはスタンダードになってきています。
ドイツに取材に行ったときは「昇降式のスタンディングデスク」を多く見かけました。

シュトゥットガルト教区の財団カトリック自由学校のオフィス。数時間毎にデスクが昇降し、PCを打ちながら立ったり座ったりすることで健康を害さないように配慮されている。

 

何より、スタッフと来県者の分け隔てがないことが大切です。
岐阜県でも、morinosが先駆けてこうした「あたらしい働き方」を提案していきます。
いやあ、僕も本当にmorinosで仕事しよう!

 

 

木造建築教員:松井匠