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2020年03月31日(火)

日射熱は屋根からもやってくる(morinos建築秘話27)

今回は、「日射熱の話(その2)」です。

皆さんは日射の熱は建物内にどこから入ってくると思いますか。
当然、ガラス面からと考えますよね。もちろん正解です。

日射熱の話(建築秘話24)でもガラスを中心に話してきました。

ですが、日射「熱」の侵入は、ガラス面だけではありません。

実は、屋根や壁からも熱が入ってくるのです。

夏の照り付けるような強烈な日差しが当たると、屋根面は何度くらいになると思いますか?

良く晴れた日の屋根はどうなっているのでしょう。

アカデミーのデザインコードに合わせて、morinosは黒い屋根ですので、もう少し目線の近い黒い車のボンネットをイメージして考えてみてください。

美濃市は、山間部への入り口ですが、最高気温も記録するような酷暑があります。
昨年も40℃近い気温が記録されました。
ボンネットや屋根は40℃以下でしょうか、もっと高いでしょうか?

正解はもっと高いです。
理由は、建築秘話22の焚火の話でも書きましたが、太陽の放射エネルギーによって気温以上に高くなるからです。

具体的な屋根の表面温度は計算によって求めることができます。

日射強度900W/㎡(よく晴れた日)、屋根の日射吸収率90%(黒い屋根)、風速1 m/s(扇風機弱程度の風)と仮定すると、
屋根表面温度は90℃くらいまで上がります。(無風だと110℃まで上がります)

赤い実線が良く晴れた日の屋根の表面温度、青い実線が平均的な日射量の時の屋根表面温度

ずっと触っていると火傷する熱さです。
ちなみに、白い屋根だと、日射の反射が大きいので、60℃くらいになります。
色を変えるだけで30℃も異なるのです。白い車と黒い車のイメージに近いでしょうか。

これほど屋根表面が高温になるので、当然、熱が室内に入ろうとしてきます。
それを防ぐのが外部の温度を伝えにくくする性能、断熱性能(熱貫流率U値)というわけです。

morinosでは、セルロースファイバーをたっぷり240mm使っています。
この性能によって、室内に到達する熱は1.2%だけ。(上記条件:日射吸収率90%、風速1 m/sの場合)
屋根表面が90℃になっていても、1㎡当たり10Wくらい(小さ目のLED照明をつけているくらい)の熱流入です。

無断熱の場合は、屋根表面の熱が勢いよく25.7%も入ってきます。
ここまでくると1㎡あたり230Wくらい(小型の電気ストーブくらい)の熱流入ですので、天井面に数十個のストーブをつけている状態です。
無断熱の家の二階が異常に暑くなる大きな理由です。

つまり、光が入らないので忘れがちですが、屋根や壁からも熱が入ってきます。

表面の色によっても違いが出ますが、なにより、表面温度が上がっても、しっかり断熱することで熱流入はかなり抑えられるということです。

では、ガラス面はどんな性能でしょうか。
日射熱の話(その1)でも数値を出しましたが、morinosのトリプルガラスで58%の熱が入ってきます。
やはり日射取得性能は大きいです。
ただ、屋根と異なり、庇や植栽の影響を受けやすく、そもそも部位面積が小さいです。
軒の出や植栽、方位による設計の工夫は、日射熱の話(その1)を参照してください。
また、カーテンやすだれなどで夏と冬、時間に合わせてモードチェンジすることもできます。

今回の結論、日射の熱は、冬は取り込みたいですが、夏は遮蔽したいという相反する設計。屋根や壁はどう考えるべきでしょうか。
夏冬でモードチェンジができない屋根や壁は、夏冬の両立は難しいため、冬の日射取り込みはガラスに任せて、夏を旨として断熱強化で遮蔽をしっかりすることです。
断熱を強化すると、冬はプラスにこそなりませんが、熱が逃げていくことが抑えられるため、熱損失量も減らせます。

忘れがちな屋根面の日射熱の遮蔽。熱くなっても熱を伝えない断熱強化が基本です。

morinosマニアック---------------

屋根に使っているセルロースファイバー断熱材。

一般によく使用されている安価なグラスウール(右)と、新聞紙の再利用のmorinosセルロースファイバー(左)の比較。建築秘話25でも紹介した非定常計算で検証。
下の図は、夏のある一日の状況です。
赤が温度変化、黄緑が湿度変化を表していますが、蓄熱や蓄湿の高いセルロースは屋根内部の動きが穏やかです。

特に、短時間で外部変化を受ける場合に、内部に熱や湿気が侵入しようとする流れを緩やかにして、外部が穏やかになると再度外部に放出する性質があります。
これを、位相のずれと呼んだりします。

特に夏の屋根は熱が顕著。昼は90℃近くまで高温になりますが、夜は30℃くらい。実に数時間で60℃近い温度変化がある場合もあります。
こんな時、昼間の高温の熱が屋根内部に侵入しつつ、中央部あたりで夕方を迎えて再度屋根外部に逃げていくこともあります。
(下の図を拡大すると、内部温度が2~3℃程度違ってきています)

また、セルロースの蓄湿(調湿)の効果は夏型内部結露に関して非常に優秀です。
湿気も夏に内外の変化が大きく、昼間は外部の絶対湿度が高く外から室内に湿気が流入しようとしつつ、夜は逆転して内部から外部に移動しようとする場面が多いです。
その場合もグラスウール(右)は湿気を吸収する性質は皆無なので、一気に貫通してきます。セルロース(左)は湿気を吸い取りながらゆっくり浸透してきます。
そこで、内外の湿気移動が逆転すると、躯体内の水蒸気が安定するのです。緑の軌跡が明らかに左のセルロースが安定しています。

准教授 辻充孝