活動報告
2020年03月16日(月)

破風板のこだわり(morinos建築秘話11)

一般の来場者はまず目をやらない部分に、設計者はとてもこだわることがあります。
普通は意識して見ないけど建物の印象が大きく異なる場合もあるのです。
出来上がったものを両方並べてみると、「なるほど!!これしかないね」となるはず(というかなってほしい)です。

morinos建築秘話4で書いた「ガラスコーナー」もその一つでしょう。

今日はそんな話題の一つ「破風板(はふいた)」
しかも施工のやり直しが入った唯一の部分なので、前後を見比べられます。

ところで、破風板って聞いたことはありますか?
建築用語なので聞いたことが無い方もいると思いますが、屋根の勾配なりに屋根の厚み部分に張られた板のことです。morinosでいえば下の写真の垂直部分の木のこと。

破風板の役割は、文字通り「風を打ち負かす板」のことで、強い風の時に横から吹いてくる風雨を屋根内部に浸入するのを防ぎます。
加えて、化粧材としての役割もあります。

実はこの化粧材として役割が建物の外観の印象を決定する大きな要因になるのです。morinosも東側のメインエントランスに山からアプローチするときに見えてくるデザインの重要ポイントです。

このmorinosの破風板になるまでに、いろいろ物語がありました。

昨年末、現場に寄ったときのこと、屋根を見上げると何か違和感が・・・。検討していた3Dパースや図面と違う。図面の伝達がうまくいってませんでした。

上の完成写真と見比べていただくと屋根の先端が台形状に大きく下がってきて何か野暮ったい。。。と思いませんか?思いますよね!!

計画段階の3Dパースはどうなっていたかというと、下のCGです。

どうでしょう。先端の斜めに下がってくる部分のシャープさが違いますね。

職人さんが丁寧に作った部分ですので、このままでも仕方ないかと思いかけていた時に、現場監督さんも台形になってしまったことを気にしているようで、このあと板金屋さんが入って修正する予定とのこと。

これはチャンスとばかりに、ちょっと待ってと・・・。ここは外観デザインのキモ。
丁寧に修正をかけたいところです。
破風板はmorinosの現場で唯一、一度作った部位をやり直していただいた部分です。

まずは、先端の板金を取り外し、下地の木材も当初計画通り修正します。そのうえで、屋根の断面構成を再確認。

この状態で、隈事務所と方向性の検討を行いました。下のような写真にスケッチを描いたものを何度も送って、ああだこうだとやり取りを繰り返します。
やはり隈事務所もここが外観デザインに大きく影響する重要ポイントとの認識のようです。さすが設計者は考えるポイントが同じです。

現場でも試作品の板金(色は違いますが)を取り付けて確認しています。
ちょうどこの時に、隈事務所の長井さんが「建築材料」の講義で非常勤講師で来られるタイミング。一緒に現場で打ち合わせをしました。

雨仕舞も考えて、破風板を含めて黒い板金で巻く当初計画(上の3Dパース)。黒い部分が分厚く見えますが、段差の陰影によって、厚みを感じさせないようにとデザインしていました。

ですが、やはり黒い屋根の厚みが200mm以上も見えてくると、屋根が重たく見え、せっかく先端を細くすっきり見せる形状なのに、屋根の軽快さが失われるのではとの危惧も・・・。

最終的に、ほぼ無節の破風板を取り付けて、薄い板金部分(「登り淀」といいます)と、木の破風板で仕上げを変えて、屋根の長いラインを強調することで、屋根の軽快さを実現しました。

耐久性を考慮して当初計画通り、板金で巻きこむかどうかもいろいろ議論し、最終的に木部アラワシの無塗装で落ち着きました。

昔から残る民家や寺院も木の破風。紫外線によってシルバーグレーに表面は変化しますが、内部は健全。この木の変化もmorinosにとっては、時間の流れを感じられいいものです。

アラワシということで、耐久性が心配ですが、腐朽菌は生物です。人間と同じく4つの条件が整うと生育しやすい環境になります。
つまり、適度な温度、水分、酸素(空気)、エサ(今回は木材)です。

この中で、温度や空気はさすがにコントロールできません。残り2つの部分の対策で対応します。

まずエサですが、防腐剤などを用いて毒エサに変えてしまう手法が一般的です。morinosでも水が溜まりやすい水平面となるデッキ部分はかなり安全な防腐剤を用いています。(morinos建築秘話5を参照)

今回は、垂直面ということもあり、もう一つの対策:水分コントロールによって対応を考えました。

morinosの周辺環境は開けており、屋根という高さのため風が通り抜けます。夜露に濡れたり、雨に打たれても天気の良い日にすぐに乾燥します。これで、中長期的に湿潤状態が続くことを防いでいるわけです。
また、木部アラワシのため劣化具合を日常的に見ることができ、メンテナンス計画を立てる参考にもできます。

当初計画通り板金で巻きこむと確かに雨に濡れなくなります。
ですが、もし板金内部に水分が入ってしまうと、透湿性の無い板金では乾燥できなく、蒸れた状態を維持し、腐朽菌の温床になりかねません。しかも表面から見えないため、気がつたときには屋根内部までダメージを負うことにもなりかねません。まさに諸刃の剣です。

ではもう一度、完成した破風板を見てみましょう。

どうでしょうか。シャープに見え、屋根の厚みを感じさせない納まりになっているでしょうか。

今回の工事で一番、現場や、隈事務所とも打ち合わせした設計者のこだわりポイントです。一般の方はまず目がいかないと思いますが・・・この記事を見られた方はぜひ破風板も見てくださいね。

准教授 辻充孝


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