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2018年09月13日(木)

教員お気に入りのアイテム5:「斧」久津輪 雅

お気に入りアイテムのリレーエッセイ、いよいよ木工専攻の出番です。
第1〜4回のメンバー(松井匠新津杉本柳沢)はみんな単価100円以内なんだって。チープだなあ・・・。
私はちょっと高級路線で行きたいと思います。

教員お気に入りのアイテム5:「斧」

アイテムのデータ
素材:鉄、木(トネリコ、シラカシ、ヒッコリー、アッシュなど)
販売元:イチオシの品は現在試作開発中
紹介している教員:久津輪 雅


グリーンウッドワークを始めて12年になる私は、実は最近まで斧を重視していなかったんです。これまで椅子づくりを中心に行ってきたこともあり、どちらかと言うと銑(ドローナイフ)とか南京鉋(スポークシェイブ)などの、丸い棒を削る道具を重視してきました。

しかしこの2〜3年、生木のスプーンづくりが世界的ブームになっていて、私もスウェーデン、アメリカ、イギリスなどのスプーンを削る木工家との交流が増えました。2017年には「さじフェス」でスウェーデンのヨゲ・スンクヴィストさん、2018年には「One Tree〜1本の木から」でアメリカのジャロッド・ダールさんがアカデミーで講座を開いてくれました。そこで彼らがいかに斧のデザイン、研ぎ角度、性能などを重視しているか、目の当たりにすることになったのです。

こちら、斧でスプーンを加工中のヨゲさんです。斧1本でだいたいの形を削り出してしまうのです。ヨゲさんの父親ヴィレ・スンクヴィストさんは、スウェーデンのメーカーと木工用斧を共同開発した人であり、ヨゲさん自身もそのメーカーのカタログを執筆するほど深く関わっています。

“SLIPBOKEN” by Gräns​​fors Bruk

さらにこの夏、スプーンづくりブームの震源地、イギリスの「スプーンフェス」を訪ねてきました。そこでびっくり。なんと斧1本だけでスプーンを仕上げてしまうという実演をする木工家がいました。
斧にこんなに多様な使い方があったなんて!
※9/29(土)17:00〜 森林文化アカデミーで「スプーンフェス報告会」実施します!詳しくは後日!

ノミのように・・・

「押し切り」のように・・・

小刀のように・・・チェコのカレル・ヒークルさんによる実演

グリーンウッドワーク・ブームによって、使いやすい鍛冶職人やメーカーの斧は供給が需要に追いつかず、半年待ち、1年待ちになっているという話も聞きました。
これはその中の一つ、私がスプーンフェス会場で購入することができたスウェーデンのハンス・カールソン製のもの。工場を訪問したことがありますが、家族5〜6人で経営している小さな、しかし極めて優れた製品を作る鍛冶屋さんです。

柄のいちばん下にHK(ハンス・カールソン)の焼印。その上の「雅」の焼印は私が押しました。

 

日本の刃物も、ノコギリやノミなどは世界的に有名です。ならば斧も日本製の優れたものを開発できないか。日本の、そして世界のグリーンウッドワーカーのために。そんな思いで斧の開発を始めることにしました。刃物商の方に相談して、ベースとする斧の有力候補が見つかりました。吉野の枝打斧(写真右)です。

写真左はスプーンなどの小物制作に使いやすいと評判の、スウェーデンのグレンスフォシュ・ワイルドライフ。右が吉野の枝打斧。刃の薄さや形状などがよく似ています。しかし使ってみると、わずかに形状を変更したいところがありました。重さはスウェーデン製が618グラム、日本製が727グラム。もう少し軽くしたいところです。

ちなみに林業現場において、枝打作業は1980年代?頃から斧に代わってノコギリの使用が推奨されるようになり、枝打斧の出番は減ってしまったと聞きました。ならば木工用として新しく命を吹き込みたいものです。

そこで今年5月頃から試作をお願いして、いま試作第2号までたどり着いたところです。左の市販品と比べると、刃の形が代わっているのがお分かりでしょうか。重さも市販品より50グラム軽くしてもらいました。また、柄は直線では使いづらいので、海外のものを参考に自ら削って作りました。材は、木工の細かい作業をするには斧の柄に定番のシラカシでは硬すぎると感じており、バットにも用いられるトネリコを使ってみました。柄も含めた重さはトータルで580グラムです。

使ってみると、何と!使いやすいのです。ただ、姿かたちは何だか侍がジーンズを履いているような違和感が(笑)。もう少し日本らしい斧の形になるよう、工夫を重ねるつもりです。

左が市販品(柄は少し短く切りました)、右が試作第2号。

柄を量産できる工場を探さなければなりませんが、いずれ市販化にこぎつけるつもりです。
まずは斧頭を数十個注文して、柄を自分で削ってマイ斧を作るワークショップを企画しようと思っています(楽しそうでしょう?)。

さらに、声を大にして叫びたいのが、このようなグリーンウッドワークの道具開発を担ってくれる人材を育てたいということです。森林文化アカデミーに入学してグリーンウッドワークを学び、課題研究で鍛冶屋さんを訪ね歩き、優れた道具をどんどん開発してほしいのです。きっと世界がマーケットになります。私も全面的に協力します。興味のある方、ぜひご連絡ください。

てなわけで、数ある道具の中でもいま一番気になっているアイテムが、「斧」なのです。まだまだ発展途上、これからもっとお気に入りになるはずです。

久津輪 雅

久津輪 雅・准教授

専門分野 木工
最終学歴 筑波大学第3学群 国際関係学類
研究テーマ ・木のものづくりの新しい可能性の開拓
・古くからのものづくり文化や技術の継承
・グリーンウッドワーク

 

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