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2018年08月30日(木)

教員お気に入りのアイテム4:「新聞紙」柳沢直

柳沢が紹介するアイテムは、どこでも手に入れることのできる「新聞紙」です。

教員お気に入りのアイテム4:「新聞紙」

アイテムのデータ

素材     :パルプ(故紙由来を含む)

特徴     :適度な吸湿性

販売元    :世界各地の新聞社

紹介する教員 :柳沢直

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新聞紙を何に使うのか? ズバリ植物の標本を作製するためです。ある一定の年代以上の方であれば、小学生時代に夏休みの宿題に押し葉や押し花を持っていった方も多いと思います。アレです。専門用語で「腊葉標本」といいます。

腊葉標本の作製に欠かせないのが新聞紙です。採集した植物を挟んでおくと、紙が適度にサンプルの植物の水分を吸ってくれるので、綺麗に標本が仕上がります。ちなみに折り込み広告は大概NGです。色のノリをよくするために紙の表面に使っている成分が水の吸収を妨げてしまいます。新聞紙が入手できないシチュエーションではジャ○プなどのマンガ週刊誌なども利用可能です。よく水分を吸ってくれます。もちろん週刊誌で無く月刊誌でも構いません。ただし月刊誌は植物を挟みすぎると巨大になるので取り扱いはしにくいです。この場合は標本が世界標準のサイズに比べて小さくなってしまうため、植物学の専門家は使いません。たぶん。

植物を何のために採集して標本を作製するのか。色々な意味はあるのですが、一番浪漫のある回答は、「未来へのタイムカプセル」でしょうか。小田和正のあの曲の歌詞ではありませんが、「あの日あのときあの場所で」その植物が確かに存在していた証拠として植物標本は大きな意味を持ちます。

写真を撮っておけばよいではないか、と思われるかもしれません。確かに写真はその植物について様々な情報を与えてくれますが、実物に勝るものはありません。手にとって見ることはもちろん、拡大して細部をチェックすることも可能です。さらに最近は植物標本からDNAを採集することも可能になったため、更に詳細な情報を得ることが可能になったのです。

例をあげれば、過去に外国から日本に入ってきて定着した植物について、多くの植物標本が残されていれば、国内で分布を拡大していった経路を知ることができます。いつ頃爆発的に増えたか、などの情報も得られるかも知れません。さらにDNAを調べれば、原産国のどの地方の個体が入り込んだのかも知ることができるのです。しかし最近は本職の植物学者であっても標本を採ることが少なくなってきたと聞きます。

標本の作製には別の意味もあります。森林文化アカデミーでは、樹木同定実習で学生に必ず標本の作製を課しています。それは樹木の名前を覚えるためです。樹木を覚えるのに王道はなし。ただ繰り返し「見る」だけです。標本の採集と作成は同じ植物に何度も「触れ合う」よい機会を提供してくれます。

実習中に樹木を新聞にはさむ学生。やり続けていると手つきがこなれてくる。

しかし標本づくりに際して若干困ったことも起きます。毎年エンジニア科とクリエーター科合わせて40人ほどの1年生が樹木の標本を作製すると膨大な数の新聞紙が必要になるのです。1種の樹木を標本にするには、枝をはさむための新聞紙が最低1枚必要になります。エンジニア科約20名×100種プラス、クリエーター科約20名×70種、合計すれば 3,400 枚です。再利用すればある程度は節約できますが、今年は図書室で購入している新聞の古新聞を数多く消費してしまいました。

標本の鮮度を優先する場合には採集後野外ですぐに新聞紙に挟むのがよい

 

実習では樹木の枝を野外で採集し、大きめのビニール袋に入れて持ち帰って屋内で標本を作製しています。しかし、鮮度良く綺麗な標本を作製するなら現場で採集した枝をその場で新聞紙に挟むのが一番です。そのためにあるのが「野冊」と呼ばれる道具です。簡単にいえば2枚の板で、間に新聞紙に挟んだ標本を挟みます。通気性がよければある程度歩いている間に標本が乾くので、とても便利です。昔は風通しのよい竹で編んだ板が使われていましたが、今は専用の軽量なプラスチック製品も入手可能です。

プラスチック製は軽量なのが最大の利点。持ち歩いても苦にならない。かなり目立つが・・。

 

本題ではありませんが、昔の植物標本を整理しているときに、ついつい時間をとられてしまうことがあります。それは挟んでいる新聞紙の記事内容そのものです。「あぁ、この頃に消費税が導入されたのか」とか「O157で大騒ぎしていたなぁ」とか、読み出すととまらなくなることも。また、海外で採集しているときには新聞紙も現地調達しますから、外国語の新聞が混ざることになります。記事の中身までは読めないまでも、こういった新聞を眺めるのは楽しいものです。

さて、ひと昔前ですと、八百屋や魚屋で商品を買うと新聞紙に包んでくれたものです。今はスーパーで購入すればプラスチックのトレイに載っているものがほとんどです。ちなみに新聞がなかった頃には、その役割は竹の皮や樹木の樹皮、またはホオノキなどの葉っぱが担っていたことでしょう。時代と共にものの使われ方は変わっていくのですね。大量消費社会に生きる身としては色々と考えさせられます。皆さんも身近な新聞紙の使い道、見直してみてはいかがですか? そのうち新聞もすべてペーパーレス化するかもしれませんが・・・。

 

柳沢 直
・里山の利活用
・植物生態学
・森林環境教育
研究テーマ ・里山の自然と人との関わりについて
・地質と土壌・植生の関係について
・萱場をはじめとする草地の自然について

 

 

 

 

 

 

 

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