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2019年03月29日(金)

グリーンウッドワーク講座「OneTree」今年も大好評!

3月21〜25日の5日間、アメリカ人木工家、ジャロッド・ダールさんを講師に迎えてグリーンウッドワークの講座「One Tree」を行いました。生木を斧やナイフなどのシンプルな手工具で削ってさまざまな暮らしの道具を作ろうというものです。ジャロッドさんは作品制作・販売のほか世界各地で指導も行う専門家。昨年も実施して大好評だったことから、今年もさらに内容を充実させて実施することになりました。

2倍以上の申込みがあり、参加したのは12人。北は新潟から南は沖縄まで、職種は林業経営、狩猟、森林環境教育のインタープリター、木造建築の講師、木工・木育、家具製作、有機農業や園芸に至るまで、森や木に関わるあらゆる分野の専門家・実践家たちが集まりました。

 

ジャロッド・ダールさんはアメリカ・ウィスコンシン州在住。スウェーデン移民の家系に生まれ、アメリカ先住民族の保護区で働いた経験もあることから、スウェーデンやアメリカ先住民の工芸を深めてきました。去年はじめて来日して以来日本の工芸にも深く関心を持つようになり、サンプルには日本の美を意識した作品を持参してくれました。漆を塗って仕上げたものもあります。

 

材料は森林文化アカデミー構内のヤマザクラと、去年の参加者が持ってきてくれた風倒木のホオノキ。今回の講座で、参加者がいちばん驚いた技術は「斧」です。いま日本の木工の現場で、斧を使うということはまずないのではないでしょうか。しかしスプーンのような小物を作るのに、斧は非常に速く、大まかな形をつくるのに適しており、スプーンづくりの作業の7割を斧で行うと言ってもいいほどです。参加者からは「斧がこんなに使えるなんて」「1本ほしい」という声が上がっていました。

実は私たち主催者側も、去年のジャロッドさんの講座で斧の重要性に気づき、女性でも持ちやすく使いやすい軽量の木工斧の開発を行なってきたのです。何回もの試作を経て、今回市販化した新品の斧を参加者のみなさんに使ってもらうことができました。

 

ナイフワークも重要です。たった1本の両刃ナイフを、10通り以上の使い方で削っていきます。大量に削らなければならない荒削りから、光沢や手触りの良さを出す仕上げ削りまで、1つ1つ理にかなった体の使い方、ナイフの動かし方があるのです。講師のジャロッドさんはそれを理論的に説明するのが上手く、参加者からも「この動作をマネして!ではなく、それぞれの技術とその理由を言語化して説明してくれたのがすごく良かった」という感想が多くありました。

 

指導にはジャロッドさんの妻ジャズミンさんも参加。ヤマザクラの皮を幹からはがし、ナイフのさやづくりを教えてくれました。日本でも海外でも、かつて樹皮は普段使いの日用品の素材でした。こうして身近な木で自ら作ってみると、書籍や博物館で学ぶのと同等以上にその有用性を実感できます。

 

参加者の感想の中には「ジャロッドさんに質問しやすかった」「いつもジャロッドさんが見守っていてくれた」という意見もありました。彼は一般向けに教える講座だけでなく、木工指導者たちを招いて「教え方を学び合う」講座を自ら主催しているのだそうです。教え方の的確さや、教える量、時間配分の巧さなどは、研究に裏打ちされているのです。

5日間いろいろなものを作って、最終日にはミルクペイントとオイル塗装。ミルクペイントとは、顔料・消石灰・カゼイン(牛乳から精製)を混ぜて作る天然由来の塗料です。オイル塗装は亜麻仁油を用いました。今回、私自身も驚いたのは、ジャロッドさんがオイル塗装を素手で行うこと。「エーッ!」という声が上がりましたが、考えてみれば食器にも使える安全な植物油だし、刷毛や布に含ませて塗るより無駄がなく、少ない量でたくさん塗れます。みなさん楽しんでペタペタ塗っていました。

 

そして5日間で本当にたくさんの作品ができあがりました。これ全部、初日の朝は丸太だったなんて、信じられないほどです。

参加者からは、

「5日間と聞いて最初は長すぎると思ったけれど、もっと時間がほしいと思うぐらい楽しかった」
「森や木に関わるさまざまな職業の人とともに合宿することで、よいネットワークづくりができた」
「グリーンウッドワークは森と人をつなぐ力を持つツールだと実感できた」
「これからは森を見る目が変わりそう(ものづくりの素材として見るようになりそう)」

など、とても高い評価をいただきました。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。

グリーンウッドワークは、いまの時代に求められる新しい木工のあり方として、これからもっともっと広がっていきそうです。森林文化アカデミーでは今後もグリーンウッドワークのさまざまな講座を企画していこうと思っています。
2019年度は「グリーンウッドワーク指導者養成講座」はお休みをいただきますが、4/28〜30に「さじフェス〜木の匙と杓子の祭典〜」を実施予定で、いま準備を進めています。
これからもお楽しみに!

 

 

スタッフ
久津輪 雅(森林文化アカデミー木工・准教授)
加藤慎輔(グリーンウッドワーク研究所)
小野敦(NPO法人グリーンウッドワーク協会)
渡辺圭(501furniture)
藤田真弓(森林文化アカデミー学生)
古瀬咲奈(森林文化アカデミー学生)