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2016年11月14日(月)

日独木造建築シンポジウム

11月13日「日独木造建築シンポジウム」が開催されました。

定員を上回る60名程度の方が、全国から参加されました。

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第一部はルートガー・デデリッヒ教授による特別講演「ドイツにおける木造建築のこれから」です。

初日の学生向けのレクチャーでは、ブナ材を使った木材の特性を活かした効率的利用がテーマでしたが、今回は、土地の効率的利用がテーマの様子。日本の国土を鑑みての内容だと感じました。

ドイツでの木造建築は大きく3つの構造形態があり、①在来軸組み工法、②ラーメン工法、③CLT工法です。そのなかで、最近注目を集めているのがCLTやラーメン工法(複合も含む)です。これによって木造高層建築が可能になっています。ただし、過去の歴史からEUの中ではドイツはまだまだ遅れていて基本的に5階建てまでしかつくれません。(日本はもっと遅れていて、ようやく木造3階建ての学校ができるようになったばかり)州によっては、もう少し緩和されている地域もあり、緑の党が進めるBW州(ロッテンブルク大のある州)では10層まで可能。

ドイツでの高層建築の課題は、防火が一番大きなものですが、有害な煙を漏らさない様にするために建材の納まりを工夫するなどかなり改善されています。また、木材の弱点である性能、品質のばらつきを抑えるために機械化やプレファブ化などの技術も進歩しています。この知見の集積によって、EU全体では、高層木造が建てられるように改正され、木造の未来が明るいものになってきています。

さらに、木造の軽い(RC造の1/5の重量)という特徴を活かして、既存のRC造の建物上部に増築(加層)するプロジェクトも多数動いていました。しかもプレファブ化で、精度が向上し、現場では200~300㎡/日という施工スピードで、住みながらの工事も可能になり、経済的にも有利になってきています。

木造建築は、CO2削減としても、資源再生の面からも環境性能として優れており、木造建築を増やさないといけない考えが浸透してきています。

そのためには、木造で作りたいと願うクライアント、きちんと施工できる建設会社が重要で、技術の裏付けを持つ設計者だけではない広い啓蒙が必要だと締めくくられました。

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第二部は、隈研吾建築都市設計事務所の長井宏憲さんによる特別講演「木でつなぐ建築」です。

もともとはコンクリート系の建築材料を専門にされていた経験を活かし、様々な素材を知り尽くした視点から木材の良さを話していただけました。

特に、隈事務所でのたくさんの事例で、どのように特徴を捉え活用してきたのかを美しい写真をもとに話され非常に説得力のある内容でした。

面白かったのは、デデリッヒ教授はCLTやラーメンなどの大断面の木材の活用を主に話されたのに対し、長井さんは、「小さな単位を重ねていくことで大きな建築をつくる」というGCミュージアムの6cm×6cmの断面の材で作られた事例の紹介がありました。そこには、日本人が好む繊細な線が折り重なった空間がありました。

さらに、平行四辺形に組んでいった大宰府のスターバックス。地獄組みのサニーヒルズなど、木材の重なりによる奥行き感の表現が印象的です。

RCや鉄と合わせて、木の特質を表現された建物や、竹を使った繊細な建築など、素材の料理法に日本とドイツのアプローチの仕方の違いが際立ちました。

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第三部は、パネルディスカッションで、木造建築の未来を語りました。

デデリッヒ教授、長井さんに加え、本学教員の木質材料が専門の吉野さん、木質構造が専門の小原さんを加え、コーディネーターは私、辻で進行しました。

ますは、吉野さん、小原さんに講演の感想を交えた自己紹介をいただきました。

吉野さんからは、木材の劣化対策として、診断や持たせる仕組みが重要で、木造建築の未来にとって必要な条件であるという内容。
小原さんからは、今ある技術や地域の技術を活かして現代にアレンジして新しい構造をつくっていくべきであろうという考えが示されました。

デデリッヒ教授に、岐阜ツアーや長井さんの講演を聞いて、感じられたことをお聞きしました。

一昨日からドイツや日本という視点を超えて、自分たちに何が可能かを考えて取り組んでいる地域を見てきた。
資源の限界や可能性をもって新旧の技術を使っていく姿勢が感じられた。この岐阜で見た姿勢はロッテンブルク大の理念と同じくするものである。
木が生えている場所で利用する(利用させて頂く)という感覚が大切で、非日常でなく、日常に溶かし込んでいくことが大切である。
例えば、加子母という地域がコアになって、経済が回っている。ブランディングが出来上がっていて、地域外からお金を持ってくる流れを確立している。このような地域がもっと岐阜に増えるべくだ。

との感想をいただきました。

次に土地の効率的利用について高層木造建築の課題をパネリストの方々に聞くと、5つの視点がみえてきました。
①防火性能のハードル、②防音の課題、③施工者が少ない課題、④法的構造ルートがない課題、⑤点検ができる仕組みの確立です。

それぞれの地域でこれらの課題を考えつつ木造建築の可能性を見出していくことが必要です。
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参加していた学生から、建築を学んでいく際に何を学ぶことが重要であるかという問い掛けがありました。

デデリッヒ教授と長井さんから
・建材としての木を知ること
・木を使う技術や課題をみつけること。
・木以外の材料の特性も知ること。
が投げかけられました。

最後は、パネリストの皆さんが考える木の魅力は何でしょうか。会場の皆さん(ブログを読まれる皆さん)も一緒に考えてくださいという投げかけです。

・大工時代から自然に好きになっていた。特に匂いかな。何か落ち着く要素が感じられる。
・物語性がある.
・光合成の仕組みがあり、葉っぱが自然増殖する太陽光発電パネルに見える。
・地域のつながりを感じられる
・個性があり、それが欠点でもあるが長所でもある。
など、パネリストの中でも千差万別は回答です。おそらく人の数だけ魅力が出てくるのでしょう。

実質50分という短いパネルディカッションでしたが、講演の中ですでに、構造木造や繊細な木の扱いの可能性も示されています。
岐阜県各地ですでに多面的な利用が始まり、会場に集まったおそらく木が好きな参加者がいて、地域の中にも木がたくさんある。
これらをいかに生かしていくかは、私たちにかかっています。

日本とドイツだけではなく、グローバルな視点で考え、地域の特徴を活かした木の扱いができるようになってくると木造建築の未来は非常に明るいと感じられる4時間でした。

准教授 辻充孝