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2020年10月09日(金)

パーマカルチャーの現場から学ぶ

絶景を背景に野外授業

 

森林文化アカデミーでは「パーマカルチャー」を体験的に学べる実習授業を10年近く前から開講しています。普通の大学や大学院ではまずあり得ない科目ですが、おそらくこれからの時代はどんどん増えていくのではないでしょうか。

そんなパーマカルチャーの実習を、10月5日から7日にかけて、2泊3日で岡山県の久米南町にあるパーマカルチャーセンター上籾(通称:パミモミ)を舞台に開講しました。

パーマカルチャーとは、日本の里山文化をはじめ世界各地に残る持続可能な農業や暮らしをヒントに、オーストラリアのビル・モリソンとデイビッド・ホルムグレンが、1970年代に体系化した持続可能な暮らしのための考え方&デザイン手法&実践スキルです。

すでに多くの書籍でも知られていますが、ベランダやキッチン、畑、建築、そしてコミュニティや社会づくりにまで広がるパーマカルチャーの世界を知るには、書籍やネットではなく、まずは現場を訪れ空間丸ごと体験することが何よりも大切です。

そこで今回は、アカデミーに何度も非常勤講師として来ていただいているカイル・ホルツヒューターさんが始めたパーマカルチャーセンター上籾にお邪魔して、2泊3日とは思えないくらいの充実した実習を体験して来ました。

さて、アカデミーの学生さんは一体どんなことを学んだんでしょうか。森林環境教育専攻1年生、げんちゃんこと早矢仕玄さんのリポートを紹介します。

<以下 げんちゃんのレポート>

 濃密な3日間を過ごしました。初日。パミモミに着くと、カイルがフィールドを案内してくれました。敷地面積は約4ha、12,000坪ほど。その敷地内に、製材スペース、多種多様な植物が植えられている畑と果樹エリア、ほぼ全ての材が自然に還る素材、またはリサイクルできる素材で建てられた自然建築と屋上の緑化ゾーン、水をろ過するタンクシステム、急斜面に建てられたツリーハウス、裏山、母屋などがあり、それぞれに工夫が凝らされていました。

フィールドの高低差が100mほどありそうな山の斜面に位置するパミモミ。その高低差のある地形や土地の気候、人の生活動線や使用頻度などを考慮して配置・デザインされていて、パーマカルチャーの一端を感じることができました。この場所でカイルが活動をはじめて4年。その期間に色んな人が色んな形でエネルギーを注いできたことが伝わってきて、生活を通じて人が自然と適切な共生関係を築くことで、人の暮らしも自然も整ってどんどん豊かにできそうだと感じました。

ヒューゲルカルチャー作り

 

2日目は、製材とヒューゲルカルチャー作り。午前中は移動式の製材機を使って、裏山から切り出してきた木を製材しました。製材は初めての経験。ワクワクする高揚感とドキドキの緊張感が入り混じりつつ、台の上に材を載せ、芯を中心に製材できるよう高さを調整し固定。墨をつけてから刃の高さや横の位置を調整してエンジンスタート。レール沿いに製材機をゆっくりとスライドさせて材を切っていきます。作業手順を覚えれば、一人でも十分に作業を進められると感じました。

製材後の板

「製材機は毎日使わないから共有すれば経済的。レールを久米南町のいろんなところに設置して、必要なときに使用する人が製材機を移動させて製材する。将来的にはそんな使い方ができたらいいなと思っている。」と言っていたことも印象的でした。製材をする隣で、丸太はつり機を使ったはつりも体験しました。

午後からはメンバー全員でヒューゲルカルチャー作り。雑草が生えてこないようにマルチ替わりに段ボールを底に敷き、その上に丸太や枯れた竹を重ねて大きめの畝を作ります。そこに堆肥と微生物を含んだ籾殻土をかけて隙間を埋めて、ワラで上から再びマルチ。一人でやっていたら単調&時間がかかり、心が折れてしまいそうに思える作業もみんなで声を掛け合い、時には奇声も混じりつつ?進めると、楽しくてあっという間にできて驚きました。

鹿肉を解体する

 

3日目は、昨日の製材の続きとシカの解体作業。ほかにも屋上緑化を進めるチーム、ソーラーフードドライヤーの製作チーム、レイズドベッドの畑を作るチームなどに分かれて作業しました。シカは前日の午後に地元の猟師さんが持ってきてくれて下処理がされていました。解体も初体験でしたが見よう見まねで挑戦。決して上手な解体ができたわけではないと思うのですが、命を頂いている感覚や自分も生態系の一部であることを直接的、直感的に感じる体験でした。

 

3日間を通じて印象的だったことは、自分の暮らしと自然が密接に繋がっていることを感じながら生活できたことです。パミモミの生活に必要な水は全て山の湧き水から来ていて、その水を使って野菜や果樹を育てたり、煮炊きをしたりしています。建築で使われる木材は裏山から切り出して製材。製材の過程で出る端材はロケットストーブやアースオーブンなど生活で使う燃料へ。灰は再び畑に戻ったり、油ものを食べた皿を洗うのに使ったり。自然との繋がりを挙げだしたらキリがありません。パミモミでの暮らしでは、自然からの恵みを余すことなく享受していて、その暮らしを支えてくれている自然に対して感謝の気持ちが文字通り自然と湧いてくる。そんな生活でした。

美しい屋根裏

 

感じられた繋がりは、自然との繋がりだけではありません。人との繋がり、地域との繋がりも強く感じました。パミモミには、長期的に滞在して暮らしている方やシカを持ってきてくれた地元の猟師さん、車で1時間以上かけてピザを作りにきてくれた方もいれば、田んぼの研修で定期的に通っている方など、色んな方が色んな関わり方をしています。岐阜からお邪魔した自分たちだけではなく、コミュニティに違う形で関わっている方との繋がりも感じながらの3日間になりました。

屋上緑化

 

都市や科学技術が発達した現代社会では、自然との繋がりや人との繋がりを意識せずとも日常生活を不自由なく送ることができます。でも、その現代社会の根底にもそれを支えている自然は存在しています。また個人の生活もたくさんの人の営みが繋がりあって成立しています。それらの繋がりを意識しない暮らしは、もしかしたら「ラクで便利な暮らし」かもしれません。しかし、その暮らしの裏で、失われている繋がりや文化があったり、その暮らしが社会問題や環境問題に繋がっていたりします。そんな繋がりが見えづらい現代社会において、自然との繋がりを感じ、暮らしを支える自然への感謝や配慮とともに営む暮らしを私は豊かな暮らしの一つだと感じました。そして、その暮らしは何も新しい暮らしではなく、日本人が古くから受け継いで発展させてきた里山の暮らしであることも滞在を通じて感じられました。

瓦をリサイクル

 

最後のそれぞれの体験のシェアリングでは、カイルが「これまでの里山文化+αの文化、場をつくりたい」というメッセージを伝えてくれました。失われつつある昔の里山文化を復活させるだけではない。現代の科学技術や新しい文化も積極的に取り入れつつ、現代に即した新しい里山文化を育む。その文化を次の世代へ繋げていく。連綿と続いてきた人の営みの歴史に、自分はどんな立場でどんなふうに関わっていくのか。そんな問いを持ち帰ることになった2泊3日でした。

ヒューゲルカルチャーを前に集合写真

 

報告:なんちゃって先生 萩原・ナバ・裕作
後半リポート:「げんちゃん」ことクリエーター科1年 早矢仕 玄