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2026年02月26日(木)

学びの祭典!令和7年度「課題研究公表会」(前編)

 森林文化アカデミーは2年制の専門学校です。短いようで濃い2年間の学びの集大成として、それぞれが自分で見つけた課題に向き合い、研究としてまとめる「課題研究」があります。大学でいう卒業研究にあたる、大切な取り組みです。今回は、先日開催された課題研究公表会の様子をお届けします。

 公表会は、涌井学長の挨拶からスタートしました。学長からは「アカデミーのイベントの中で一番楽しみにしている行事です。皆さんの発表をとても楽しみにしています」と温かい言葉が送られました。その言葉を聞きながら、発表を控えた学生たちは少し緊張した表情になり、学長からの期待の大きさを感じている様子でした。今回は美濃市長にもご参加いただき、会場の空気はさらに引き締まります。

 

涌井学長より、課題研究への期待と学生へのエールが贈られました

 

お忙しい中、美濃市長にもご参加いただきました

 

 クリエーター科は、林業、森林環境教育、木造建築、木工の4専攻に分かれています。今年は19名の学生が、それぞれのテーマについて発表しました。2年間の思いが詰まった、熱のこもった時間となりました。

 発表のトップバッターは、木造建築専攻の石岡大樹さんによる「大工の見える化-大工体験ワークショップとSNS 発信を通して-」です。

 いま日本では大工さんの数が減り、高齢化も進んでいます。家づくりの工程が変わり、子どもたちが大工の仕事に触れる機会も少なくなっているのが現状です。そこでこの研究では、子どもたちに実際に大工仕事を体験してもらうことで、その魅力を伝えられないかと考えました。

 小学生向けには「木組みでつくるちいさなお家」を開発し、伝統的な木組みを体験できるワークショップを実施しました。子どもたちは夢中になって取り組み、「楽しかった」「またやりたい」という声に加え、「大工になりたい」といった感想もあったそうです。中高生向けには、のこぎりやノミを使った刻み作業も体験してもらい、仕事の難しさや奥深さにも触れてもらいました。

 さらにSNSで活動の様子や現役大工さんの声を発信し、体験の輪を広げる工夫も行いました。小さな実践かもしれませんが、大工という仕事をもう一度身近に感じてもらう大切な一歩となる研究でした。

大工さんを子どもたちの憧れの職業にしたい!と語る石岡さん

 

 木造建築専攻の2人目は、葛山直子さんによる「自主製作木質ボードによる建材活用の可能性― ①国産広葉樹パルプ材 ②針葉樹おがくず・樹皮―」です。

 葛山さんの研究では、国産の広葉樹チップや、製材のときに出るおがくず・樹皮などを使って、自分たちで木質ボードをつくり、建材として活かせないかに挑戦しました。ふだんは燃料などに使われがちな材料ですが、見方を変えれば新しい価値を生み出せるのではないか、という発想からはじまった研究です。

 広葉樹チップを使ったボードは、木の色や形がそのまま表れ、不ぞろいな表情が「おもしろい」「自然らしい」と評価されました。内装材としての可能性が感じられる結果でした。また、おがくずや樹皮では、接着剤を使わずに固める方法にも挑戦しました。条件を工夫することで、持ち運べる程度の強さを持たせることもできました。断熱性能など、今後さらに検証が必要な部分もありますが、身近な木の副産物から建材を生み出そうとする姿勢は、とても意義のある試みです。地域の木を無駄なく使う未来につながる一歩となる研究でした。

 

葛山さんが作成した木質ボード、休憩時間になると皆で触って意見交換

 

 木造建築専攻の3人目は、銭鼎琨さんによる「広葉樹の利用促進に向けた、小規模太陽熱木材乾燥庫の環境設計手法と運用最適化-物理シミュレーションと実測データに基づくハイブリッド・デジタルツインの構築-」です。

 銭さんの研究は、里山で活動する木工家さんや小さな木材事業者の方が、広葉樹をうまく乾燥させるための「小さな太陽熱乾燥庫」づくりに挑戦したものです。燃料費が上がる中、太陽の熱を活かして、できるだけお金をかけずに安定した乾燥を実現できないか、という思いからはじまりました。実験では、条件の異なる3つの乾燥庫を使い、温度や湿度、日射量などをセンサーで計測しながら約6か月間データを集めました。そして、その実測データとシミュレーションを組み合わせ、「デジタルツイン」という仕組みで乾燥庫の中の環境を“見える化”しました。その結果、日射量の影響がとても大きく、集熱面や断熱の工夫によって乾燥の進み方を調整できる可能性が見えてきました。さらに、設計条件を入力すると、予想乾燥日数やアドバイスが表示されるオンラインツールも開発しました。専門的な知識がなくても、科学的な根拠にもとづいて乾燥庫を設計できる環境を目指した、とても実践的な研究です。地域の広葉樹をもっと活かすための、大きな一歩といえるでしょう。

 

自身で開発したプラットフォームについて丁寧に解説する銭さん

 

 木造建築専攻の4人目は、増岡卓弥さんによる「「中大規模木造建築における接合部モデルを考える」―半剛接合による接合部設計のすすめ―」です。

 増岡さんの研究は、中大規模の木造建築でとても重要になる「接合部」に注目したものです。大きな建物では、柱や梁をどうつなぐかが安全性を左右します。これまで実務では「ピン接合」という簡易なモデルで計算することが多いのですが、木造の実際の挙動により近いのは「半剛接合」という考え方だとされています。そこで、剛接合・ピン接合・半剛接合の3つのモデルで同じ建物を解析し、違いを比較しました。その結果、半剛接合モデルでは変位が他より大きくなり、より安全側で設計できる可能性が示されました。また、これまで手間のかかっていた接合部の剛性値計算を、エクセルで簡単にできる計算シートも作成。実際の建物を題材に検証したところ、計算時間を大きく短縮できました。半剛接合という少し専門的な考え方を、実務で使いやすい形に整理した点が大きな成果といえるのではないでしょうか。より安全で合理的な木造建築を広げていくための、実践的な研究といえるでしょう。

 

専門的な用語も多い発表でしたが、堂々と発表する増岡さん

 

 木造建築専攻の5人目は、三宅徹さんによる「間伐ボランティアによる木材利用の関係人口創出」です。

 三宅さんの研究は、「間伐ボランティアの活動を通して、木材利用の関係人口を増やせないか」という問いから始まりました。きっかけは、豊田市で続いてきた間伐ボランティアの活動です。山の手入れだけでなく、切った木をどう活かすかまで広げることで、山や林業に関わる人を増やせるのではないかと考えました。

 そこで取り組んだのが、「木材加工の流れの見える化」と「建築材料に関する講座づくり」です。まず、台風で倒壊したお社を間伐材で再建。林内での製材や乾燥などを体験しながら、木が建物になるまでの流れを共有しました。その後、地域のお寺にトイレシャワー小屋を建設。材出しや製材、乾燥庫づくりにも多くの人が関わり、親子向け講座も実施しました。

 その結果、複数の団体や家族が参加し、継続的に関わりたいという声も生まれました。木を「伐る」だけでなく「使う」まで体験することで、山とまちをつなぐ新しい関係づくりに挑んだ研究です。

 

自身の研究の背景から丁寧に説明する三宅さん

 

 次からは木工専攻の発表になります。トップバッターは、浅野由佳梨さんによる「【加子母の経木】存続の意義と可能性を探る」です。

 浅野さんの研究は、「加子母の経木(きょうぎ)」に注目し、その価値とこれからの可能性を探ったものです。経木は、スギやヒノキなどを薄く削ってつくる木のシートで、かつては食品包装などに広く使われていました。しかし、プラスチック製品の普及などにより、現在は生産量が大きく減っています。

 調査では、聞き取りやアンケートを通して、経木が今もなお食品の風味を損なわない素材として評価されていることや、地域文化と深く結びついていることがわかりました。一方で、生産者の減少や後継者不足といった課題も見えてきました。

 さらに、実際に製造現場でのインターンシップも行い、技術や仕事の流れを体験しました。経木づくりには高い技術と手間が必要であることを実感しました。そのうえで、協力者との関係づくりや、新たな活用方法の模索など、継続に向けた道筋も検討しました。地域に根ざした伝統素材を、どう未来につなぐか。経木の魅力と課題の両面に向き合った、意義ある研究でした。

 

経木について、熱く語る浅野さん

 

経木が使用されているものの中には、おなじみの〇〇なども・・

 

 木工専攻の2人目は、安達 彩佳さんによる「CNCルーターによるプロトタイピングの可能性—木と人、そして暮らしをつなぐ—」です。

 安達さんの研究は、CNCルーターを使ったプロトタイピング(試作)の可能性を探る取り組みです。テーマは「木と人、そして暮らしをつなぐ」、木製のストレッチ用ポールを題材に、形をつくりながら考え、考えながら形を更新していくプロセスを検証しました。

 理学療法士の方との協働により、身体にやさしく、しかも生活空間になじむデザインを目指しました。ヒノキ材を使い、背中に点で当たらないよう緩やかな曲面をもつ形状を検討しました。CNCを活用することで、設計データを修正すればすぐに形へ反映でき、約1か月で5本の試作を重ねることができました。丸太から板材への変更や、脚部の改良など、段階的な見直しもスムーズに行えました。

 その結果、CNCは完成品を一度でつくるための道具ではなく、試作と検証を繰り返しながら思考を深めるためのツールとして有効であることが見えてきました。木とデジタル技術を組み合わせた、新しいものづくりの可能性を感じさせる研究です。

 

複数の被験者からのフィードバックを繰り返し試行錯誤を重ねたという安達さん

 

学長も早速体験してみます

 

 木工専攻の3人目は、橘明広さんによる「木工作品創作による地域貢献の可能性-「聴き削り」による「きのこけし」での「縁」の起こし方を探る-」です。

 橘さんの研究は、木工作品づくりを通して地域との「縁」をどう生み出せるかを探った取り組みです。キーワードは「聴き削り」。地域の方の話を聴き、その想いや歴史を受け取りながら作品を削り出していく姿勢を大切にしました。はじめは端材で作った「きのこけし」を展示しましたが、「意味がわからない」という声もありました。そこで、こけしの中に“おみくじ”を入れる工夫を加えたところ、自然と手に取ってもらえ、会話が生まれるようになりました。惟然市では地元の俳人・広瀬惟然の俳句をおみくじにし、関市の木で作品を制作しました。羽島市では円空彫りの学びを生かした作品を出品しました。さらにクリスマスマーケットでは、サンタこけしと歌のおみくじで多くの来場者と交流しました。

 実践を通して、作品を介した対話が人の心を動かし、地域への関心を高めることがわかりました。木を削ることは、地域とつながること。その可能性を丁寧に見つめた研究でした。

 

自身の作風を確立するまでの紆余曲折を楽しく語る橘さん

 

橘さんの作品です。さまざまな表情きのこけしが

 

 木工専攻の4人目は、ベケットリンドさんによる「鹿毛皮の利用状況の調査及び家具への活用」です。

 ベケットさんの研究は、増えすぎたニホンジカの捕獲と、その副産物である「鹿毛皮」の活用に目を向けた取り組みです。日本では年間約74万頭もの鹿が捕獲されていますが、肉や皮として有効活用されているのはごく一部にとどまっています。そこで、これまであまり使われてこなかった鹿毛皮を家具に活かせないかと考えました。まずは日本における鹿革の歴史や現在の利用状況を調査しました。鎧や防具など、かつては身近な素材であったことがわかりました。次に、自ら鹿皮をなめす工程にも挑戦。環境負荷の少ないミョウバンなめしを選び、素材への理解を深めました。そして、ナラ材を使ったシンプルなスツールを制作し、座面に鹿毛皮を用いました。展示会ではアンケートも実施しました。多くの人が獣害問題は知っていても、皮が廃棄されている現状は知らないことがわかりました。一方で、実物に触れたことで7割の人の印象が良くなり、毛皮の柔らかさや温かさに驚く声も多く聞かれました。鹿毛皮を家具として使うことが、森の現状を知るきっかけになる。そんな可能性を感じさせる研究でした。

 

鹿毛皮の有用性について話すベケットさん

 

 木工専攻の最後は、見世健太さんによる「美濃市産広葉樹の木工利用と地域材流通スキームの提案」です。

 見世さんの研究は、美濃市で伐採されながらも十分に活用されていない広葉樹に目を向け、木工利用と流通の仕組みづくりを探った取り組みです。日本の木材流通は針葉樹中心で、広葉樹は用材としてほとんど流通していないのが現状です。しかし実際には、ヤマザクラやホオノキなど、木工に使える材も伐採されています。この研究では、林内に残された広葉樹を実際に搬出し、製材・乾燥を行い、トレーやスプーン、器などを制作しました。その結果、未利用材でも木工素材として十分使えることが確認できました。一方で、木工家が自ら山に入って材を出すのは現実的ではないという課題も見えてきました。そこで、林業事業体と木工家が直接つながる小規模な流通スキームを提案してくれました。これは、伐採情報を共有し、希望する木工家へ通知する仕組みです。アンケートでも、供給側・需要側ともに一定の意欲があることがわかりました。地域に眠る広葉樹を、地域の木工へ。小さな一歩ですが、地域材を活かす具体的な道筋を示した研究でした。

 

今回提案した地域材流通スキームが今後どのように運用されていくのか、期待が膨らみます

 

地域材を利用して見世さんが作成した木工品

 

皆様、本当にお疲れさまでした!

林業専攻 中森