自然体験を通じた学びと地域文化の形成(ローカルビジネス 授業レポート3)
<2026.1.23> 森林環境教育専攻1年生の授業「ローカルビジネス」で下呂市に伺いました。
この日は、地域の自然資源をフルに活用した、エコツーリズムを体験します。216WORKS (ニジイロワークス)の代表、熊崎潤(くまざき・じゅん)さん、そしてガイドの洞千穂(ほら・ちほ)さんに案内をいただきました。
(洞さんは、一昨年お世話になった洞さんの奥様で、日本に数人しかいない「国際山岳看護師」とのこと。私は、初めて知ったお仕事。移動中の車内で伺った、洞さんのお話もとても興味津々のお話でした!)
ツアー終了後は熊崎さん、洞さんのご厚意で、事業について、そして「ローカルビジネス」についての考えをじっくり伺う時間をいただきました。ありがとうございました。
今回は、森林環境教育専攻1年生 髙木杏菜さんのレポートでお届けします。
<教員 小林(こばけん)>

216works 熊崎潤さん(中央)、洞千穂さん(右橋)
― 自然体験を通じた学びと地域文化の形成 ―
◆216WORKS 熊崎 潤さん
トレッキング用の事前準備を整え、参加同意書に署名してからはじまる氷瀑ツアー。 標高約1,400mの御嶽山を歩き、氷点下で凍った滝を見に行くのだ。
スキーウエアを持っていなかったわたしは、先輩にお借りすることで難をしのぐことができた。(みかほさんありがとう!) ほかにも、 ヘルメットやサングラス、スパイク、ブーツなどは216WORKSの備品からお借りすることができ、これには絶大な安心感があった。

全員の装備チェックを経てから、くまさんこと熊崎さんと216WORKSの方々へ自己紹介をする。
ひとの名前を覚えるという、この日一番緊張感のある場面を乗り越えたあと、熊崎さんの運転でツアーの出発点へと向かう。 装備のレンタルや、参加者全員での自己紹介、スタッフの運転による移動などは、すべて安全対策の一環だという。
「事故につながる可能性のあることは、やっていればわかります。やっぱり、減らせる事故は減らしておきたいですよね」と語る熊崎さんと雪道を眺めても、雪山の恐ろしさがわたしにはいまいちピンとこなかった。経験から導かれるプロの自然の見え方と、自然を見る勉強を始めたばかりの自分との差をひしひしと感じる。
御嶽山の地理や植生についてなど、マニアックな質問に答えていただきながら、移動の1時間はあっという間に過ぎる。 道中には、日本一の溶岩壁である巌立峡を一望できる場所があり、その雄大さに息をのんだ。

この日は晴天。氷瀑を見に行くはずなのに、つい心を奪われたのは亜高山帯の植物やパウダースノーのうつくしさだった。

「きれい」という感想に、熊崎さんから雪や地形について解説があり、見えている景色に知識が加算されていく。「これだけ寒ければ、六角形が見られるんじゃないかな」と熊崎さんがさっと手袋をかざすので、真似してみると、黒い手袋のうえに結晶のかたちが見えた。
ぼんやりとした感性が「見えた。うれしい!」という鮮やかな感情に変わって、世界の解像度が上がっていく感覚がうまれる。ガイドツアーならではの、学びの体験だった。

熊崎さんは「小坂の滝」が好きだと語る。けれど、その魅力を人に感じてもらうには知識と熱量、熟練のスキルが必要になる。「雪を捕まえる」という単純な動作でさえ、おなじ動作をくり返し続けてきた人の動きには無駄がなく、目を見張った。

そうした技術や知識、それらを支える冷静な状況判断や、自然を愛する情熱を燃やしながら、ガイドを職業団体として成立させていることに、熊崎さんの仕事のすごさがある。

熊崎さんは、沢遊びの原体験があった。しかし、小坂の滝を職業にするようになったきっかけは、それだけではないという。
こどもの頃に、地域の滝をすべて探索した「小坂の滝調査委員会」という地元の滝マニアがつくりあげた写真集との出会いが、熊崎さんの進路に強く影響したという。
それは、氷瀑を目の前にしてランチでいただいた「ひこまさ」さんのパンとスープへとつながる。ひこまささんは、「小坂の滝」の写真を撮った調査員のひとりだった。

このように、ローカルビジネスにおけるガイドという仕事は、個人の情熱だけではなく、地域文化のレイヤーの上に成立した職業なのだ。

ガイドの熊崎さんと1年生の髙木さん(写真右)
また、熊崎さんのガイドツアーには、課外授業として下呂市の高校生も参加するという。 前日に訪問した、下呂市役所の青木さんが「ガイドがかっこいい職業として、子どもたちの目に映ってほしい」と語るように、下呂市のエコツーリズムは教育と地域づくりにもつながっている。
しかし、エコツーリズムという観光業を「地方創生」にまでつなげるには、情熱から生まれる知識・実績・信頼だけではなく、行政連携・経済循環といった社会的基盤の構築が必要になる。
下呂市はこれをE-DMO(エコツーリズムによる観光地域づくり法人)という仕組みをつくることで取り組んでいる。これは、コロナ禍で観光業が減衰していったことから、これからの観光対策として市が打ち出したものだ。
小坂の氷瀑ツアーは、活火山である御嶽山の恵みと、それを経済循環につなげる仕組み、なによりたくさんの人々の強みが合わさってできた、希少な観光事業だった。
だからこそ、エコツーリズムは一時的な体験消費ではなく、世界への認識を変える機会になりうる。

本授業を通して、ローカルビジネスとは、地域資源を単に「商品化」することではなく、 人・文化・自然・歴史・教育・経済の文脈をつなぐことに本質があると学んだ。
また、 現場で活動する方々の実践に触れることで、地域と個人体験に根ざした仕事のあり方や、持続可能な社会に向けた仕組み作りという“協働のあり方”を知る機会となった。
前日に訪れた水口さん(円空の湯)と熊崎さんは、ともに、川や沢での「遊び」の経験が現在の仕事の原型となっている。つまり、好きを仕事にするには「遊び」の感覚が必要なのではないだろうか。また、お二人の場合、自然に対する「冒険心」が、事業や職業へと発展していく過程を示していたと思えた。

熊崎さんは「ガイドは口八丁」と冗談めいていたけれど、それはつまり、接客サービスのプロということだ。
今回の体験で、相手に興味を与えること、そして伝えることの高度なバランスに興味を持った。そして環境教育を学ぶ者として、お金をもらって人を誘う、「接客のプロ」のスキルについて、強く興味を持った。
アカデミーに帰る道中、接客とは?をぼんやり考えていた。ふと、スナックでバイトをしてみたくなった。
(文責 髙木杏菜)
