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2026年03月06日(金)

「好き」という気持ちが、暮らしになる(山村資源利用演習・最終回)

<2025.11.5–6> エンジニア科2年・林産業コースの「山村資源利用演習」を、2日間にわたって実施しました。

この授業は、学生が現地に身を置き、自然条件や暮らしのリズムを感じながら、山村資源がどのように使われ、支えられてきたのかを体験的に学ぶ実習です。今回のフィールドは、飛騨市神岡町山之村で、山村に根づく資源利用の現場を体験しました。

参加した学生は3名。同じ時間を過ごし、同じ作業に向き合いながら、それぞれの視点で学びを深める2日間となりました。

今回の講師は、森林文化アカデミー14期生の 前原 融(まえはら・とおる)さん。
山之村に移住し、”わらび粉づくり”を中心とした暮らしをされています。

栃の実加工所に到着すると、前原さんは、わらび粉づくりを始めたきっかけや、山之村での暮らしについて語ってくれました。

大学卒業後に就職したものの、「好きだったわらび粉」について調べる時間が増え、「わらび粉をやりたい」と森林文化アカデミーへの入学を決意したとのこと。

多くの人に「やめた方がいい」と言われながらも、飛騨の地に可能性を見出し、山之村へ移住しました。

「わらび粉づくりは、1年のうち秋の2か月ほど。それ以外の季節は複数の仕事を組み合わせながら暮らしています」

山村資源を活かすために暮らす −― 前原さんの話に、学生は興味津々です。2日間、演習を通してたっぷりお話を伺います。

初日は、わらび粉づくりの工程の説明を聞きます。
その後、澱粉を沈殿させるための「たれ舟」の作業を見せていただきます。前日に、叩いたわらびの根を水いっしょに入れておいたものの上水(うわみず)を流します。

粉の量、水の加減、沈殿の具合――すべてが経験に基づく判断です。

「ダメなら、また沈殿させ直せばいいだけなんですけどね」

そう言いながらも、その一手間がどれほど面倒かは、学生たちもすぐに理解します。

午後は、わらび栽培地での火入れ。ススキなど地上部を焼き、春にわらびが優勢に芽吹くように整える作業です。

消防団の備品であるジェットシューターを背負い、枯れ草に少しずつ火をつけ、燃え広がらないように消火をしながら、徐々に火入れをしていきます。火を入れる前には防火線をつくるなど、安全には万全を尽くしています。

ゆっくり火が進むよう、斜面の上から火を入れていきます。風もなく穏やかな日でしたが、火は意外と燃え広がりません。

「草の乾燥具合など、なかなか難しいですね」

草地となった場所を開墾しながら、少しずつわらび畑を広げている前原さん。常に試行錯誤しながら、栽培地を管理して、より効果的にわらびが採れる栽培地づくりに挑戦しています。

翌朝は、わらび掘りからスタート。

掘り起こしたわらびの根は、栃の実加工所に戻って丁寧に洗います。短い秋を終えようとしている、冷たい山之村の水での作業です。

洗った根は叩き、繊維から澱粉質を取り出します。

叩いたわらびの根は、1日目に見たたれ舟に入れ、水を入れて沈殿させ、バケツに移してまた沈殿させるを繰り返すわけですが・・・

  • 一晩置かないと、粘りが強すぎて濾過できない。
  • 水の量が多すぎると、白はなと黒はなの境(良質なわらび粉の分離)がぼやける。
  • 逆に、水が少なすぎると分離しない。

などなど、良質なわらび粉を取り出すための様々な注意が必要です。

「沈殿した量を見て、水を決めるんです」

前原さんが一人で積み重ねてきた長い時間が、”職人の勘”を築き上げていました。

昼には、今年の営業を終えた山之村キャンプ場で、特別に用意していただいた手打ち蕎麦をいただきました。

普通のそば、だったんそば、そして栃の実を練り込んだ蕎麦。
蕎麦湯もそれぞれ別に取り、その違いを味わいます。

山之村は栃の実の生産地。栃の実を使った蕎麦は珍しく、そして貴重なもの。今回は試作として特別にいただくことができました。今後は、実際に提供することも考えていきたいとのこと。山村資源を利用した、新たな名物が生まれそうな予感です。

午後はいよいよ、わらび餅の試食タイム。前原さんがつくる本物のわらび粉でつくった、”本物のわらび餅”です。

”本物のわらび餅”を初めて食べた学生たちは、これまで食べたことのない、滑らかな食感に驚いていました。明らかに、これまで食べてきた「わらび餅」とは、全く違うものです。

「僕も以前は、わらび餅が大好きだったのに、何でできているか知らなかったんです」

大学時代に、わらび餅には本物のわらび粉が使われていないことを知り、衝撃を受けた前原さん。リサーチの末に出会った高山の和菓子屋で食べたわらび餅が、まったく別物だった –– その体験が、山之村に住むこと、そしてわらび粉職人としての今の暮らしにつながっています。

「この2か月のために、いろいろな仕事をしながら1年を過ごしています。この時期を迎えて、本当にウキウキしています!」

笑顔で話す前原さんの話を聞いて、学生のひとりは次のような感想を述べていました。

「私には大変に感じたわらび粉の生産。でも、前原さんは毎年それを楽しみにしている。「好き」という気持ちは、原動力にも行動力にもなるのだと感じました。”好き”の気持ちが、生き方や暮らし方にそのまま表れている、そんなことを感じた実習でした。」

山村資源の利用とは、技術や知識だけでなく、生き方そのものと結びついています。山之村で出会ったのは、「効率」や「量産」とは違う時間の流れでした。

それでも確かに、ここには揺るぎない価値があります。

若い世代が山村で生き生きと生きる人々と触れ、自分自身の言葉で考える –– その積み重ねから、これからの山村とその資源利用の新しい道を生みだしてほしい、そんなことを感じた2日間でした。

前原さん、そして山之村の皆さま、本当にありがとうございました。

<森林環境教育専攻 教員 小林(こばけん)>