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2025年06月13日(金)

植栽について考える(自力建設2025)

今年の自力建設では、建物による日陰のほか、植栽によって日陰をつくるという案を採用しています。棟梁が発表されたその日から、私たちは植栽についての検討を始めました。

 

 そもそも、植栽をすることについてチーム内では賛否両論がありました。植栽基盤の広さ、深さ、養分等が不十分だったり、日照条件など生育条件として適していない場所に植えられたりして、街路樹や庭木が枯れてしまうということは多々あります。日陰をつくるためだけに、なにも知らないまま、なんとなく樹木を植えるべきではないのではないか。入学前に林業に従事していたメンバーから、鋭い意見が投げかけられました。

とくに建設予定地は、もともと尾根筋にあたる場所を切り崩してつくられていて、樹木の生育にとってはかなり厳しい環境です。森林文化アカデミーという、森林と人間の営みの間を取り持つ人材の育成を目指す学校で、厳しい環境での植栽を試みることの意義とは。各々が納得できるまで意見をぶつけ合いました。

 

これから建築の道を歩んでいくうえで、外構(植栽)は必ず関係してくるため、今回植樹を行うかどうかは別にして、植栽に関する基本的な知識はしっかりと学んでおく必要があります。さらにこの学校は、林業分野や里山、樹木を専門にする先生からも実地で学べる貴重な場所です。樹木にどのような環境を用意しておく必要があるのか、専門家の知恵も借りながら真剣に学ぶことができる、またとない機会だと感じています。

話し合った末に、生きものとしての樹に敬意を払い、植栽ができる環境なのかどうか、今の環境で植栽を行うにはどんな手立てがあるのか、自分たちでも書籍で調べたり、樹木に詳しい先生に教えを請うたりしながら、考えてみようということになりました。

 

後日、柳沢先生にご協力いただき、建設予定地の土壌調査を行いました。

 

柳沢先生にご指導いただきながら土壌の固さを調べました

 

まずは、「長谷川式土壌貫入計」という器具を使って土壌の固さを調べます。

なんだか難しい名前ですが、仕組みはいたって簡単。一定の力で杭を地面に叩き入れ続けることで、土壌の固さを調べています。

もう少し詳しく書くと、2kgの重りを50㎝の高さから落とし、そのエネルギーで下の金属製の杭を土中に貫入させます。100cm貫入するまで重りを繰り返し落とし、毎回の貫入量を記録することで、層ごとの土壌の固さを計測しています。

今回は植栽予定地と、そこから隣接するすでに木立ができているところの両方を調査し、それぞれの土壌の固さについて比較しました。

重りを持ち上げては落とし、持ち上げては落とし……

 

まずは植栽予定地から。ここはもともと尾根筋にあたるところでしたが、切り崩した際に転圧をかけたと、morinosの川尻さんから伺いました。どのくらいまで押し固められているのやら。ひたすらに、重りを持ち上げては落とし、目盛りを読み上げ、ノートにメモして、を繰り返します。転圧がしっかりかけられているようで、なかなか刺さっていきません。なんだかんだと言いながら賑やかに計測しました。

 

交替しながら計測していきます

 

160回叩きつけて、ようやく100cmの深さまで杭が刺さりました。

続いて比較として、既に木立がある箇所の測定をしました。建設予定地からテクニカルグラウンド側に隣接した斜面です。腐植土がたっぷり堆積しています。アラカシの根元近くを計測しました。

 

アラカシ下の計測。やまちゃん、手伝ってくれてありがとう!

 先ほどとは打って変わって、するすると入っていきます。63回で100cm入りました。

 結果について、柳沢先生ご協力のもと取りまとめていただくとともに、後日解説をしていただきました。試験の結果から、植物の根が土中を伸びていけるかの判断ができます。判断の目安は以下の通りです。

 

 

植栽基盤としての判定

 

S 値(一回の打撃あたりの貫入量(cm))

根の侵入の可否

硬さの表現

判定

S 値≦0.7

多くの根が侵入困難

固結

極不良

0.7<S 値≦1.0

根系発達に阻害あり

硬い

不良

1.0<S 値≦1.5

根系発達に阻害樹種あり

締まった

1.5<S 値≦4.0

根系発達に阻害なし

軟らか

4.0<S 値

根系発達に阻害なし(低支持力、乾燥)

膨軟過ぎ

(一般社団法人日本造園建設業協会「植栽基盤整備ハンドブック第6版」より一部改変)

 

 一回あたりの貫入量が 1.5~4.0cm が、植栽基盤としては望ましいということですね。また、0.7cm 以下だと植物の根が入っていくのは難しいということです。さて、植栽予定地とアラカシの根元はそれぞれどうだったのでしょうか。

 

 

 グラフ縦軸は一回あたりの貫入量、横軸は深さ(単位はそれぞれcm)です。

 既に木立ができているアラカシの根元は、表面からすでに適度な柔らかさがあり、深くまでいっても同様に根が伸びていくのに適した硬さになっていることがわかります。

  一方の植栽予定地は表面がガチガチでした。30cmくらいまで掘ってようやく、貫入量が 0.7cm を超えはじめ、それより深くなると十分に柔らかくなるという結果が出ました。表面から 30cm 程をバックホーで掘り起こし、植える樹種に適した土を入れれば、植栽をすることもできるだろうということでした。

 

調査結果の見方について、後日柳沢先生からご教示いただきました

 

  また今回の立地条件で植えるのに適した樹種や、前提となる植栽基盤について、各自で文献を調べました。文献の選定にも柳沢先生から助言をいただきました。以下、参考までに、私たちが調査した文献をリストアップします。

中島 宏 著 『改訂 緑化・植栽マニュアル』 経済調査会 2020

山崎 誠子 著 『樹木別に配植プランがわかる 植栽大図鑑』 エクスナレッジ 2013

村越 匡芳 著 『庭に植えたい樹木図鑑」 池田書房 2006

林 将之 著 『山渓ハンディ図鑑14 増補改訂』 山と渓谷社 2020

高橋 理喜男 著 『造園学』 朝倉書店 1986

井松 志郎 著 『緑のデザイン図鑑:樹木・植栽・庭づくり』 建築知識 1998

日本緑化センター 著 『植栽基盤整備技術マニュアル』 日本緑化センター 1999

苅住 曻 著 『最新 樹木根系図説』 誠文堂新光社 2010 

管理のしやすさ、樹高の高さ、根回しのしやすさ、根の張り方、陰樹か陽樹か、もともとこの地域にある木なのか、など、複数の要素を合わせて植樹する樹種を選ばなければならないことを学びました。

それぞれの樹種によって、生きるのに適した環境は異なります。また、樹種ごとに違いはありますが、いずれの樹種も大きな体を支えるための根を伸ばすスペースが必要です。棟梁を選ぶプロポーザルのコメントシートのなかには、「経済的合理性を重視するハウスメーカーのなかには、外構の木をまるで野菜かのように扱っていたところもあった」というコメントがありました。

建築の道を志す私たちにとって、今回教わったことは忘れてはならないことのように感じました。建築物だけでなく造園的な観点もセットで考えなければならないのでしょう。貴重な勉強の機会となりました。

 

(執筆:千々和 駿)