南面のポリカーボネート(自力建設2024「栞」)
先日、乾燥庫「栞」の竣工式が無事執り行われました。式の開始前に、棟梁の銭さんから建物の概要についての説明もありましたが、ここではその中の南面に使用している素材「ポリカーボネート」について、もう少し詳しくご紹介したいと思います。
すでに現地でご覧になった方もいらっしゃると思いますが、乾燥庫の南面には、透明な樹脂パネルを使っています。この素材は「ポリカーボネート」、通称「ポリカ」と呼ばれるもので、様々な用途に広く使われている材料です。
ポリカの特徴は、まずその高い耐衝撃性。同じ厚みのガラスと比べて、200倍以上の強度があるともいわれ、多少の衝撃では割れにくいため、屋外での使用にも適しています。また、耐候性にも優れ、雨風や紫外線に長期間さらされても劣化しにくいという利点があります。さらに、透明度が高く光をよく通すため、太陽の熱を効率よく取り入れることができ、軽量で扱いやすく、コストも比較的抑えられることから、自力施工の乾燥庫には理想的な素材です。
また、今回使っているのは「中空ポリカ」と呼ばれる二重構造のものです。パネルの中に空気層があることで、外気との熱のやりとりが抑えられ、内部の熱が逃げにくくなっています。例えるなら、魔法瓶や二重窓のような断熱効果があるイメージです。
さらに、今回はポリカの厚みにも変化をつけています。東側の部屋には厚さ10mmのポリカを、中央と西側の部屋には厚さ4mmのポリカを使用しています。これは、素材の性能を実際に比較してみることを目的とした実験的な試みでもあります。10mmのポリカは専門業者から取り寄せた高品質なもので、断熱性も非常に高くなっています。一方、4mmの方は、手軽にホームセンターで入手できる一般的な製品です。
実際にポリカの表面を触ってみると、厚みによる違いがよくわかります。厚みのある10mmのパネルは、熱が逃げにくいため表面温度が上がりにくいのに対して、薄い4mmのパネルは熱が外に逃げやすいため、表面がしっかりと熱を帯びていて、触ると熱さを感じやすくなっています。現地を訪れた際には、ぜひ手を添えてその違いを体感してみてください。
また、ポリカを支えるフレームにも工夫があります。東側の部屋では、屋根や雨どいの施工も担当していただいた専門の板金屋さんにお願いし、「ガルバリウム」という耐久性の高い金属素材で、細部まで寸法通りに美しく仕上げていただきました。ガルバリウムはサビにも強く、耐用年数も長いため、見た目にも機能的にも非常に安定感のあるつくりになっています。
一方、中央と西側の部屋では、コストや入手しやすさを優先し、ホームセンターで購入したアルミ製の定尺材を使用しています。こちらは自作感が残る構造になっており、どうしても継ぎ目が見えてしまいますが、それもこの乾燥庫の味わいの一部かもしれません。水切り部分にはガルバリウムを使っていますが、こちらもホームセンターで購入したものです。
仕上がりの色合いもそれぞれ異なっていて、東側は濃いグレーのガルバが引き締まった印象を与える一方、中央・西側は白を基調としていて、やわらかく開放的な雰囲気が漂っています。
断熱のために気密性も非常に重要な要素です。設計段階で思いついた点はもちろんのこと、施工中に気がついた箇所についても、とにかく徹底してブチルテープを貼り、シーリング処理を施しました。不慣れな作業で少々?不格好に仕上がったシーリングでどこまで気密性を高められたかは、これからの使用を通じて確かめていくことになります。
このように、「栞」は乾燥庫として、素材や構造にも工夫と実験が詰まった建物になっています。ぜひそうした細かな違いにも注目してみてください。
多くのご協力をいただきながら、無事に竣工の日を迎えることができました。途中ご心配やご不便をおかけすることもありましたが、温かく支えてくださった皆さまに心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
木造建築専攻 葛山