1 自力建設
実践を通して学ぶ
入学してすぐに始まるのが「自力建設プロジェクト」です。
学生が自ら設計・施工して、学内に小さな木造建築物を完成させます。
実務でも、自分の設計を自力でつくる機会は、まずありません。
木の建築の面白さ、奥の深さを、かけがえのない経験から知ることができる、
日本でも本校にしかない建築専攻の最大の特徴です。
優れた教育プログラムとして「2016年ウッドデザイン賞」「2007年建築学会教育賞」を受賞しました
山からつながる木造建築の教育手法
「自力建設プロジェクト」は、新入生に与えられる最初の課題です。
毎年1棟、1年間で学生自らが設計、施工します。
小さな建築であっても、つくられるプロセスや考え方に大差はありません。
利用者のことを考え、陽のあたり方や風の吹く方向、その土地からの見え方や見られ方、周辺にある樹木の特徴など、土地の持っている特質を読み、試行錯誤を繰り返し、計画し表現します。
地域の職人さんの指導の元、土を掘り、基礎をつくり、木材を加工して、軸組みを建て、
屋根、壁、床をつくり、設備を組み立て、仕上げをし、
約一年という期間を経て、ひとつの建築を完成させます。
建築するということは、そこにあった自然を破壊する行為を伴います。
自力建設を通して、ひとりひとりが、建築そのものの意義と対峙します。
さらに、木という素材のクセを読み、使いこなす面白さ。
いろいろな方々の協力によってこそ完成できるという事実の認識。
地鎮祭や上棟式といった各種式典の大切さ。
色彩や素材感をいかに表現するか。
竣工後の使い勝手、メンテナンスの意味合い。
学ぶべきことは多種多様に広がります。
これらを悩みながら実際につくり上げていくことで、机上の設計だけでは学ぶことができない、深い思考が自然と身につきます。
1年目の秋には、学内演習林から切り出してきた木材を、製材し乾燥します。
翌年入学する新入生への乾燥材のプレゼントです。
使うごとに、自然素材のもつ深みが増し、手を入れることで愛着も増します。
そこには作業効率を追求した現代の建築では持ちえない感動があります。
入学したてで実施図面を描き建設するという、かなり大変なプログラムですが、
やるべきことが明確なため効率的に学べます。
これからの建築に必要な教育の原点がここにあると考えています。

自力建設を一棟ずつ紹介した特設ページはこちらからご覧ください
■自力建設の一年の流れ(2025年度【紡木人】)
●前年度12月 自力建設の課題作成(2年生)
次年度の自力建設の課題作成は、前年度の2年生の課題
次年度の自力建設の課題はアンケートやインタビューの設計手法を学ぶ「小規模造建築物の計画3」の授業で学生が作成します。
2024年度は、23期自力建設「ほとりの櫓」にクリスマスリースを設置し、願い事を書いてもらった中から自力建設の課題を設定しました。
●4月 課題発表(新入生)
学内に必要な機能の建物を課題に設定し、細かな条件とともに提示。入学早々の1年生に与えられる1年を通しての課題
25期の自力建設のテーマは「屋根付きチェーンソー練習場」。
チェーンソー練習は屋外で行っており、屋根がないため雨天時や夏場の日射により過酷な練習環境となっています。
少しでも快適かつ安全にチェーンソー練習ができる場所の確保は重要な課題となっていたため、今回の課題は、「屋根付きチェーンソー練習場」としました。
| 設計条件 | |
|---|---|
| 必要機能 | ・チェーンソーが安全に使用できる空間を確保すること ・タープ等により、雨や日差しを遮る空間の拡張ができること |
| 予算 | 150万円(木材、学生人件費除く) |
| 施主 | 杉本 和也(林業教員) |
| 敷地 | 林業機械学習棟横の駐車場 |
| 木材 | 事前に準備された演習林で算出された木材を使用すること |
林業機械学習棟の軒下でのチェーンソー練習
●5月 各自計画案を作成
自力建設の課題を計画するために、実際の施設の見学や専門授業で補強しながら各自が1カ月かけて計画案を作成
いざ計画をしていると……
⇒ 構造計算をしないと図面が書けない。
⇒ 梁の断面算定はどうするんだ?
⇒ 基礎ってどうやって設定するの?
⇒ CADの表現方法は……?
⇒ 仕上げ素材の特徴を勉強しないと決められない。
などなどいろいろ学ばないといけないことが山積していることに気が付きます。
授業の中で補強したり、放課後の時間を利用して作業にかかり、計画案を策定作成します。
やるべきことが明確!学びの効率が高い!
●5月 森林・木材の学び
計画にあたり、使用する木材の学びを深めます。
林業専攻の教員と学生のみなさんと、使用する木材が伐出された演習林を一緒に回り、林内の状態や伐採された丸太が建築材になるまでの工程などを学びます。
木材は製材したすぐは水分を多く含んでいて使用できず、しっかり乾燥させた材を使用します。
昨年度から準備された木材の材積や特徴の説明も受け、計画に反映させます。
●6月 公開プロポーザルコンペ
1カ月かけて作り上げた計画案を全校生に向けて発表し、投票によって設計者を確定
計画案の内容のみならず、プレゼンテーションも重要な審査項目。これまで培った経験も活かして、いかに自らの考えを表現できるかがカギです。
発表を受けて全校生の投票により、代表設計者 兼 棟梁が決定します。
25期は投票の結果「紡木人」に決まり、女性棟梁を中心に実施設計がスタート。
●6月 実施設計
投票によって選定された代表設計者兼棟梁を中心に同級生チームで実施設計スタート
同級生(ライバル)をまとめつつ実施設計図書を作成します。時には遅くまで議論することもあります。
この年は、植栽の移植や外構計画も課題の要点になります。
植物生態学が専門の柳沢先生に協力いただいて土壌調査等を行いました。
学内に森林・林業・環境教育・建築・木工の専門家が集まっているのも強みです。
実施設計に合わせて作成した完成予想パース。竣工の写真と見比べてください。
●7月 木取り
実施設計と並行して部材の段取りを開始
用意してある製材した木材の表面と断面をを直角に整えていきます。(木取りといいます)
学内にある4面モルダー等の機械を活用し、加工する材の段取りを行います。
●8月 墨付け
完成した実施設計図書を元に、用意した材に墨付け
実施設計通りに加工するための墨をつけていきます。
この年は、東濃ひのき製品流通協同組合の大工さんに丁寧に教わりながら材の元口と末口の見分け方や差し金の使い方など学びました。
●9月 刻み
墨付けを元に刻む
エンジニア科林産業コースの学生も合流して墨付けをもとにした刻み(加工)が始まります。
刻みには1mm単位の精密な加工技術が要求され、何度もやり直しながら、正確に墨付け、刻みを繰り返しました。
エンジニア科林産業コースの学生と一緒に刻みを行うため、部材の加工図を元にエンジニア科の学生に指示を出します。
そのためには、全員が計画内容を十分に理解をしていないといけません。
●9月 地鎮祭
工事の安全と建物の永続を願う地鎮祭
刻みと並行して、現場では地鎮祭が執り行われました。
神主を引き受けていただいた学生さんにより、祓詞奏上、四方祓い、刈初の儀、穿初の儀、玉串奉奠などの儀式も全く滞りなく、粛然と遂行できました。
●10月 基礎工事
現場では本格的に工事がスタート。まず地域の職人さん指導の下、基礎工事
計画通知(行政が行う建築確認申請のようなもの)の手続きは建築教員が行い、通知後、着工します。
職人さん指導の下、丁張、堀り方、砕石敷、捨てコン、配筋、型枠工事、打設と慎重に進めます。
●10月 建て方・上棟式
基礎と躯体を立ち上げる建て方
後期授業が再開している合間をぬって、建て方と上棟式の段取りを進めます。
基礎と架構が組み合わさる感動の瞬間です。無事、上棟式を迎えました。
●11月~ 屋根仕舞、造作工事
施設用途に合わせて、屋根や造作、設備工事を授業の合間に進める
上棟式後は、残りの工事を段取り良く計画し、職人さんの指導の下、着々と工事を進めます。
まずは屋根工事を行い、躯体を雨から守ることが最優先。
●3月 竣工式から利用へ
竣工式を迎え、自らが利用者として、活用がスタート。
さまざまな工事を経て、竣工を迎えます。
長かった1年の思い出がよみがえりつつ、ここで得た学びを2年生でさらに深める。
ここで得た経験を持って2年生へ。
設計施工の実体験によって、2年時の高度な学びがしっかりと身につきます。
自力建設を一棟ずつ紹介した特設ページはこちらからご覧ください



















