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2025年08月04日(月)

【アニュアルレポート2024】 一枚板テーブルの脚をデザインせよ 〜県内企業と連携した木工教育機関3校合同プロジェクト授業〜

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2024より

木工専攻・教授
久津輪 雅

3校合同プロジェクト授業の集合写真

▼目的

 瑞穂市の板蔵ファクトリー株式会社の吉田香央里社長から、次のような依頼があった。

「板蔵ファクトリーは銘木の一枚板を豊富に所有しており、一枚板テーブルが主力商品である。しかしテーブルの脚は一般的なデザインのものが多く、一枚板の価値を生かせていない。学生さんならではのアイデアでユニークなテーブルの脚をデザインしてほしい」

 この依頼に、県内の木工教育機関が連携して取り組むことを着想した。岐阜県には木工の教育機関が4校もあり、それぞれに特色ある教育を行っている(森林文化アカデミー、森林たくみ塾飛騨職人学舎木工芸術スクール)。このうち木工芸術スクールを除く3校は2年制であり、応用的な授業も実施できるため、これまでも3校合同の交流授業を行った実績がある。森林たくみ塾と飛騨職人学舎に相談したところ快諾を得たことから、プロジェクト授業として企画した。

 木工教育機関が連携して取り組むことにより、県内企業の課題を解決するとともに、学生同士、教員同士の交流を深め、木工教育の質の向上にも寄与することを目的とした。

 

▼概要

 スケジュールは以下の通りである。

 ①6月1〜2日

 課題出し、板蔵ファクトリー・岐阜銘木協同組合見学、班分けとデザイン検討

 森林文化アカデミー見学

 ②6月22〜23日

 班ごとにデザイン案の中間報告、原価計算の講義

 飛騨職人学舎・飛騨産業見学

 ③7月15日

 試作、森林たくみ塾見学

 ④7月27〜28日

 本製作、プレゼン、審査

 

 参加した学生は、森林文化アカデミー2名、森林たくみ塾6名、飛騨職人学舎1名である。学校対抗とするのではなく、あえて混成チームを3チーム組み、学生同士の交流を促すことにした。1泊2日を3回、日帰りを1回組み、それぞれの学校を訪問しながら課題出し、デザイン案の中間報告、試作、本製作と進むスケジュールにした。また、学生チームとは別に3校の卒業生からも参加を呼びかけ、3チーム(森林たくみ塾卒業生1チーム、飛騨職人学舎卒業生2チーム)が出品することになった。

 

 3校の学生たちは6月1〜2日に板蔵ファクトリーを訪れ、吉田社長から課題の提示を受けた後、それぞれのチームに分かれてさっそくデザインの検討を始めた。通常はチームのメンバー同士は離れているため、LINEなどで連絡を取りながらデザインを詰めていったようだ。学生の3チームには、それぞれ3校の教員が1人ずつサポートとして付き、技術的なアドバイスを行った。6月22日のデザイン案の中間報告までは3週間しかなく、非常にタイトなスケジュールだったが、3チームとも何とか中間報告のプレゼンに間に合わせた。こうして他校の学生と交流することにより、学生たちは新鮮な刺激を得たようだった。また、教員にとっても改めて自校の特色に気付かされたり、他校の教育や設備から学ぶことが多かった。

 

 7月27日の本製作では、森林たくみ塾の工房を借りて朝9時から夜遅くまで本製作に取り組み、翌日のプレゼンに臨むことになった。プレゼン資料を作成するのにほとんど徹夜のチームもあったようだ。28日の審査では、板蔵ファクトリーの吉田社長、親会社のヤマガタヤ産業の吉田芳治社長、森林たくみ塾の小木曽賢一社長、飛騨産業の岡田明子社長、岐阜県生活技術研究所の長谷川良一所長に審査員を務めてもらい、学生3チーム、卒業生3チームがプレゼンを行った。どのチームの作品も非常にユニークで評価が高く、依頼主の板蔵ファクトリー吉田社長からは「どの作品も商品化したい」との声が挙がったほどである。当初は上位3チームに賞金を予定していたが、審査結果が拮抗していたことから6チームすべてに賞が贈られた。

入賞作品とデザインした学生

優勝したチームと板蔵ファクトリーの吉田香央里社長(左から2人目)。家庭用だけでなく商業施設にも使えると評価され、その後、商品化された。

入賞作品とデザインした学生

このチームの作品も、商品化された。床柱としての需要が減った絞り丸太を足置きに使うというアイデアが極めて斬新。

入賞作品とデザインした学生

左側と右側、2種類の脚を提案したチーム。樹木の枝をイメージしたデザイン。

 その後、これらの作品は10月の「飛騨の家具フェスティバル」の会場で展示されてそこでも好評を博し、そのうちの2作品は実際に商品化された。商品化されたのは、板を放射状に組合せた作品と、絞り丸太を足置きとして用いて、木の感触を楽しんでもらおうという作品である。また、参加した学生の中から1名が板蔵ファクトリーに就職することにもつながった。このように様々な成果を挙げたことから、本プロジェクトは2025年度も板蔵ファクトリーとの間で継続して実施することになった。

 

▼教員からのメッセージ

 木工教育界には学会などがなく、横のつながりがないから教育内容が我流になりがちだし、社会のニーズとかけ離れた教育内容になる恐れもある・・・普段からそんな課題を感じていました。それを克服する意味でも、この3校合同プロジェクト授業は非常に有意義です。県内に森林資源があり、木材産業があり、木工教育機関が多数あるという、岐阜県ならではのメリットを生かしたユニークな教育プログラムを、さらに充実・発展させていきたいです。

 

▼活動期間
2024年6〜7月
(2025年度も継続)

▼連携団体
板蔵ファクトリー株式会社
森林たくみ塾
飛騨職人学舎

▼関連授業
3校合同プロジェクト授業

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