森林文化「暮らしと仕事」半田俊哉さんの建築と生き方
クリエーター科全専攻とエンジニア科の2年生が合同で履修する必修授業「森林文化」。
四分野が毎回ゲストスピーカーをお呼びして、森林文化を考えて、最新の知見を学びます。
建築専攻のゲストは、兵庫県丹波篠山の「エイチ・アンド一級建築士事務所」半田俊哉さんをお呼びし、「暮らしと仕事」をテーマにお話しいただきました。
半田さんのWEBサイトには、ご自身の設計についてこう書かれています。
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何気ない日々を振り返ると
ほんのりと嬉しい色であふれている、
人々がそんな時間を重ねていくことが
できる建築設計を心掛けています。
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半田さんは名古屋で生まれ、埼玉で育ち、大学卒業後、マニエラ建築設計事務所等でモダニズム建築を設計し、
青年海外協力隊でエチオピアで活動されるなど多様な経験を経て、
現在は丹波篠山と神戸に拠点を持って、奥様と2人で木造建築の設計をされています。
そこにある素材でつくられ、風景の中に佇む家の美しさを原体験としながら、
暮らしを軸にした美しい建築をつくられています。
大学の時夢見ていたことが忙しさに埋もれていくことに疑問を持ちながら、
紆余曲折を経て丹波篠山に移住した半田さんですが、
農業や地域コミュニティと混じり合う暮らしをする中で感じたことを話してくれました。
・日々の暮らしに目を向け、正しいと思う暮らしを実践する
・何を作れるかは、その人の暮らしが全て。「暮らし」を知らないと「暮らし」つくれない。
・風土に根差した風景はその土地にあるものから生まれる。その土地(=自分のいる場所)での暮らしが始まる。
という半田さんの言葉は、
転職して森と木に人生を寄せていくために入学し学んでいるアカデミー生たちに、強く響いたのではないでしょうか。
後半は会場とディスカッションです。
事前に配った質問カードを元に辻先生が対話方式で会場と半田さんをつなぎます。
会場のからの挙手もあり、活発な質疑のなかで、半田さんの考え方や生き方のキーワードをたくさん聞くことができました。
半田さんの建築は、
兵庫県産の杉や、近くの山の石など、そこにある素材を使うことを大事にし、
耐震性能と温熱性能も確保しながら、美しさに妥協しない木造建築です。
それでいながら、土日は田んぼをしたり、事務所の一部を地域に開いた本屋にしてイベントをしたり、
茅葺を自分たちで葺いたり、近所のクリエーターたちと交流したり、お子さんを自然体験キャンプに参加させたり、服をご自分で裁縫したり……。
少し手間のかかることの中にある幸福を、静かに澄んだ気持ちで見つめるような生き方が、会場に伝わったのではないでしょうか。
資本主義の効率化と市場原理が取りこぼした、人の本質的な営みを実感する暮らしをすることそのものが、
設計のメインテーマとして上質な空間になって還っています。
森林文化アカデミーの目指す方向と、とても親和性のあるお話で、学生からは非常に好評の講義となりました。
二日目は建築専攻向けの少し専門的な講義をしていただきました。
さらなるゲストに、岐阜の誇る木工作家、川合優さんが登場。
川合さんは以前からアカデミーが見学や講義などでお世話になっていますが、
なんと半田さんと大学の先輩後輩関係で、川合さんのご自邸は2年前半田さんの設計で完成したとのこと。
川合さんのお宅は「外部に依存する」という半田さんの言葉通り、
室内から外に向かってつながることに重点を置き、
庭や周囲の環境との関係を慎重に構成されていて、
無節の板も相まって、工芸品のような静謐な空間になっていました。
終始穏やかで気さくな半田さんに、学生も教員も思う存分質疑できる、贅沢な時間でした。
半田さん、お忙しいところありがとうございました。
木造建築教員 松井匠