【アニュアルレポート2024】住宅のエネルギー消費量実態の標準値の設定
住宅のエネルギー消費量実態の標準値の設定
教授 辻充孝
目的
暮らしによるエネルギー消費量の把握は、電気やガスの消費量に一次エネルギー原単位を乗じるだけで簡便に求めることができる。しかし、それがどの程度の位置づけなのか判別が難しい。
そこで、家計調査の光熱費からエネルギー消費量を割り出し、月ごと、地域ごと、家族数ごとに標準値を整理することで、自身のエネルギー消費量の位置づけを認識できるようにすることが目的である。
標準的なエネルギー消費量が分かると、比較することで暮らしの見直しにつながり、結果的に省エネな暮らしに結びつくことを期待したい。
概要
建築物省エネルギー法の「エネルギー消費性能計算プログラム」によって、新築時のエネルギー消費量が簡便に計算できるようになり、エネルギー消費量の目安が分かるようになった。しかしこの計算は仮定されたモデル建物(図1)に設定された家族の暮らしを行った場合の計算であり、実態のエネルギー消費量を示しているわけではない。

図1 省エネ基準のモデルプラン
そこで、継続的に統計データを取得している総務省の家計調査に着目し、e-Statから光熱費に関連する値(単位:円)を取り出し、光熱費単価から割り戻しエネルギー単位に変換した。集計期間は東日本大震災前の2006年~2010年の5年間と少し落ち着いた2016年~2020年の5年間の平均とした。
例えば温暖地(6地域)で4人家族の場合、2006-2010年の場合、年間エネルギー消費量は77,040MJに対し、2016-2020年では72,163MJと6.3%程の削減となっている。
地域や家族数によっても異なるが概ね数%の削減効果が見られる。
月ごとの変動を見ても、それぞれの月で削減効果が見られる。これは、住宅の高性能化(断熱、日射熱制御)や高効率設備の普及の効果が影響していると考えられる。
家族数ごとの値(表1)を見ると、2人家族が4人家族の半分ではなく15%程度の削減に留まっている。これは、リビングなどの共用部や浴室を共同で使用しているため、大人数で暮らすことでエネルギー削減の効果が表れていると考えられる。

図2 一次エネルギー標準値の比較(4人家族、2006-2010年、2016-2020年)
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表1 温暖地(6地域)標準値 2016-2020年
今回まとめた標準値の活用を紹介する。例えば、岐阜市(6地域)に居住するAさん家族(4人家族)で表2の光熱使用量だった場合を考えてみる。

表2 Aさん家族の光熱実績例
ガスの使用量がそれなりに多いことから、給湯はガス利用と想像できる。(正確には住まい手に問い合わせることで確認が可能。)そのため、電気はそれ以外の暖房、冷房、換気、照明、家電だと考えられる。
ここで、電気使用量に着目すると5月や8月と比べて1月が3倍以上あることが分かる。冬期に増えることから暖房を多く使っていると考えられるが、これが多いのか少ないのか、あるいはガスの使用はどの程度か判別しにくい。
そこで、今回の標準値のデータと比較してみると暮らしの分析が可能になる。
1月の標準的な使用量は582kWhであるので、Aさんの800kWhは4割近く多いことが分かる。ただし、これで暖房が多いと決めつけるのは早計で、照明や家電が多い可能性もある。そこで、暖冷房を使用しない5月に着目すると標準的な使用量は354kWhとAさんの250kWhと4割ほど少な目で8月はさらに少なくなっている。想像した通り1月の電気の多さは暖房が原因で、しかも1月と5月の差分は550kWhと暖房に多くのエネルギーを消費していることがわかる。一方で、5月や8月の電気使用量の少なさは、家電や照明、冷房が少ないと想像できる。
つまり、エネルギー消費削減のカギは暖房をどのように減らしていくかが重要であると考えられる。
次に給湯や調理に使用している都市ガスの使用量を確認すると、全体的に少な目であることが分かる。ただ、温暖地での給湯エネルギーは家全体の1/3程度を占めるため省エネを丁寧に検討したいところである。
このように、標準値があれば、各月の光熱明細からいろいろなことが分析でき、省エネな暮らしを見つめることにつながる。
※他地域や6人家族までの標準値データは森林文化アカデミー木造建築専攻のHPからダウンロードできます。
教員からのメッセージ
これまで、さまざまな住まいの実測を行ってきましたが、暮らし方による省エネ効果は建物や設備性能と同じくらい大きな効果があります。冬の晴れた日中はカーテンを開けて日射を取り込んだり、お風呂は続けて入浴することで追い炊きを減らしたりと、身近なところでも省エネが進みます。翌月の光熱費にすぐに反映されますので、暮らしの工夫をいろいろ考えてみるのは面白いですよ。
活動期間
2007年~2024年
連携団体
・(一社)住宅医協会
関連授業・課題研究&関連研修
・木造建築の環境性能設計(Cr)
・建築計画・環境工学(En)
過去のアニュアルレポートは、ダウンロードページからご覧いただけます。