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2017年07月16日(日)

鵜飼のため、だけじゃない 〜鵜飼舟プロジェクトに寄せて

5月22日から森林文化アカデミーで始まった鵜飼舟プロジェクト、7月15日にほぼすべての作業が終了しました。あとは7月22日の完成報告会と進水式を待つだけです。

さて、この写真は小瀬鵜飼の鵜匠・足立陽一郎さん(右)と、木曽川うかいの鵜匠・水野敦さん(左)が、森林文化アカデミーに舟大工の那須清一さんを訪ねてくれた時の写真です。特に足立さんは昔から那須さんと顔なじみで、何度も作業を見に来てくれました。

 

木の舟を使う鵜匠や漁師にとって、舟大工は「自動車整備工場」のような存在です。漁の最中には、岩場で底を擦ったり、かがり火を支える腕木が折れたりして、様々な故障が生じます。自分で直せないほどの故障だと舟大工に連絡し、舟大工は釘を抜いて壊れた板を取り替えるなどして、現場で修理するのです。

那須さんのような民間の舟大工がいなくなると、困るでしょうか。実は、岐阜市には「鵜飼観覧船造船所」があり、観光客が乗る舟を作っています。公営の木造船造船所は全国でもここだけだと思います。先日岐阜市の関係者と話した際、もし民間に舟大工がいなくなれば、この造船所が鵜匠の舟を作ることになるだろうと言っていました。

しかし鵜匠の舟を作ることはできても、民間の漁師たちの舟はどうなるでしょうか。鵜飼のための造船所では、一般の漁船を作ることはまずできないと思います。また、美濃や郡上で舟が壊れた時、岐阜から修理に駆けつけてもらえるかと言えば、それも難しいでしょう。

長良川鵜飼は国の重要無形民俗文化財に指定され、さらにユネスコの世界文化遺産への登録を目指しているので、これからも鵜飼舟がプラスチックの舟になることはありません。しかしこのままでは、長良川に浮かぶ鵜飼以外の舟は、プラスチックの舟ばかりになってしまいます。いま長良川ではたくさんの木の舟を見ることができますが、これは誇るべき貴重な風景なのです。

 

下の写真は、足立陽一郎さんの鵜飼舟です。ほとんどの鵜匠の舟は底をFRPで覆っているのですが、陽一郎さんは船体のどこにもFRPを貼りません。そのせいで、底板は多少水がしみて、傷んでいるところもあります。それでも貼らない理由を聞くと「FRPを貼れば舟が長持ちする。長持ちすれば、舟大工の仕事がなくなる」からだそうです。鵜飼を残したいという気持ちはもちろんですが、長良川の川文化全体を残したいという意志を感じます。

鵜飼舟プロジェクトに携わったアメリカ人舟大工、ダグラス・ブルックスさんと話していたことですが、本当に長良川に木の舟の文化を残したいなら、鵜飼舟だけでなく、多様な舟を作り、そして使うほうがいい、ということでした。たくさんの舟があるからこそ、文化が栄え、鵜飼舟も生き残ることができる。生物多様性の考えに似ています。

私は伝統的な作り方だけにこだわらず、たとえば舟によっては鍛冶屋さんが1本1本打つ舟釘を現代的な木ねじ(ビス)に置き換えてもいいと思っています。ダグラスさんは、民間の安価な舟は合板で底板を作ることも提案しています。アメリカでは実際に、このような自由な発想で木の舟づくりがリバイバルしました。

鵜飼舟プロジェクトは、実は鵜飼のためじゃない。もっと広い長良川の木の文化のため。そんなことを、完成報告会でお話ししようと思っています。

久津輪 雅(木工・准教授)


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