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2017年06月08日(木)

空間を感じて描くこと。「空間認識」を身につける

森林文化アカデミーは「木でものをつくること」に携わる人材も育成しています。
木を使った家具やおもちゃから、和船・和傘・下駄など伝統工芸を深く学ぶ「木工専攻」と、
国産材をつかった木造建築を学ぶ「建築専攻」です。

「空間認識」の授業は主に木工と建築の学生に向けた授業です。
木工も建築も、山から切ってきた木を「欲しいと感じるもの」「住みたいと感じるもの」にしなくてはいけません。
つかみ所のない課題ですが、ものつくりに携わる人は、人が魅力を感じる空間とはなんぞや?ということを考え続けることが、仕事なのかもしれません。

そのための第一歩としての「空間認識」の授業では、自分とその周りの空間を“意識して認識し直す”ことからはじめます。

第一回目は「建物の実測」。
建っている建物を図面にして、採寸していく「野帳」の作成を行いました。
「野帳作成」は、ただそこに立っているよりもずっと多くのことがわかります。
自分の周囲の空間を描き、測っていくうちに、定量的にも感覚的にも、その場所を深く理解することができます。

さいわい、森林文化アカデミー内には自力建設で建てられたユニークな建物が16棟あるので、今年は「風の円居」で実測に決定。
「風の円居」は学生の多目的室としてつくられた4m×4mの床をもつシンプルな建物ですが、開口部と架構の関係に、設計者の工夫があります。「風」をテーマに部屋を開放的にしているのです。
方眼紙に、建物の平面図を描いていきます。描けたら、二人組になって採寸し、寸法を入れます。情報を整理解体していると、だんだんに、設計者の意図がわかってくる感覚があります。
これは創作の醍醐味を追体験しているようなものなので、ものつくりに関わる人間には、とても楽しい作業です。良い建築や民家の野帳づくりは非常に勉強になり、ワクワクするものなのです。
ムカデや豪雨のハプニングもありましたが、無事(?)1日目が終了しました。

2日目は自室を実測してきてもらい、それをパースにします。
パースは平面図と高さの設定さえあれば、遠近法で立体的に立ち上げることができます。
慣れ親しんだ自室を、改めて描くことで理解します。


「あれ、こんなに大きな棚じゃないな…」「なんか天井が低いような…」と気がつくのが大事です。
木工も建築も、パースを描けると相手に説明しやすいというプレゼン技術としての有用性はもちろんですが、設計段階の空間をパースにしたら、天井が高すぎた!部屋に対して家具が大きすぎた!など大発見があり、パース描きは侮れないのです。イメージを推敲していく作業そのものなのです。


そして3、4日目は静物デッサン。
この光景をみて「美大みたい……!」という人があとを絶ちませんでしたが、美大ではデッサンは滅多にしません。実技試験で入学してくるので、すでに基礎ができていることが前提で、入学後は各自の表現から始めるからです。
ところがほとんどの建築学科は、実技ではなく難しい学科試験を乗り越えて入学するので、美術の基礎を学ぶ機会はありません。

なんてもったいない!
というのも美術の基礎は、ある地点までは「技術」なので習うことで身につけることができるからです。
デッサンは絵を描く練習ではなく「視る訓練」です。
自分と空間を客観的に把握し、ものを正しく評価するための身体感覚をつくる作業です。
それは木工・建築における「欲しいと感じるもの」「住みたいと感じるもの」をつくる近道であり、必要な能力なのです。

モチーフ(対象)には椅子を選びました。
よーく見て、構造を理解しないと、絵の中で歪んでしまうので、木工と建築を志す人のモチーフには最適。

授業が3+3時間という短い時間だったのですが、もっと描きたいという人もいて、夕方からも続きを描いていました。みなさんお疲れ様でした。これを基礎にして各自の制作をしてください。
空間を再認識することで、みなさんの中に「良いものをつくるための定規」ができることを応援しています。

松井匠(木造建築 講師)