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2017年07月26日(水)

教員オススメの一冊 3:佐渡のたらい舟 ダグラス・ブルックス

佐渡のたらい舟、ほか2冊

↑ダグラス・ブルックスさんの著書『佐渡のたらい舟』。日本語では他に『沖縄の舟サバニを作る』がある。

佐渡のたらい舟
著者:ダグラス・ブルックス
発行年:2003年
発行元:鼓童文化財団
価格:2,160円+税
おすすめしている教員:久津輪 雅


森林文化アカデミーでは今年5月から7月まで、美濃市の86歳の船大工・那須清一さんとアメリカの船大工、ダグラス・ブルックスさんを中心に長良川の鵜飼舟を作り技術を記録する「鵜飼舟プロジェクト」を実施しました。ダグラスさんは那須さんを含め日本各地の7人の船大工に弟子入りし、失われつつある技術を詳細に記録しているのですが、その最初の記録がこの本です。

需要が減り、後継者をつくらず引退しようとしている職人のもとに飛び込んで教えを請うのは、日本人でさえ難しいことです。まして外国人の彼にとって、どれほど困難だったでしょうか。しかし今回、間近に接してみて、彼がなぜ次々に弟子入りを果たし成果を残すことができたのか、理由が分かる気がしました。

忘れられない瞬間があります。プロジェクトの初日、5月22日の午後3時。那須さんが指導しながら、ダグラスさんたちが舟の底板を組み立てていました。5月にしてはとても暑い日で、私から那須さんに休憩を取るよう勧めたのですが、普段話し好きな那須さんがじっとダグラスさんの方を見つめたまま、口をききませんでした。ダグラスさんも自分から決して休もうと言わず、結局、休憩を取らずに夕方6時まで作業は続きました。翌日以降もずっと同じでした。

ダグラスさんは制作期間を2ヶ月と見積もっていましたが、那須さんの予想は3ヶ月。そこで那須さんは、初日にこの外国人を試したのです。ダグラスさんは弟子として師匠に絶対に従う姿勢を示し、受け入れられました。中盤にさしかかり予定より遅れが生じ始めると、ダグラスさんは朝5時半に工房に来て、前日の那須さんの指示をすべて朝のうちに終わらせるようになりました。アメリカでの経験も豊富な彼からすれば、日本の和船づくりには非合理的で時間がかかる工程もたくさんありましたが、それを自分から主張することがありませんでした。

ダグラス・ブルックスさんと那須清一さん

↑作業初日。那須清一さんはダグラスさんの人と腕を見極めようと視線を注いでいた。

ダグラスさんは純粋に技術を記録し継承することに重きを置いているので、それ以外のことはあまり描かれませんが、そのような師匠との息詰まるやり取りや葛藤を行間に読み取ってもらえると、この本の面白さも増すのではないかと思います。

佐渡島では、最後のたらい舟職人が亡くなった後、本書を参考に新たにたらい舟を作り始めた人がいて、その人はこの本を「バイブル」と呼んでいます。素晴らしい貢献だと思います。彼の仕事が貴重なのは、舟をつくる技術者自身が技術を記録していること。だからこそ、「使える」技術書になっているのです。

鵜飼舟プロジェクトではダグラスさんに加え、東京文化財研究所がチームに加わりました。ダグラスさんは技術面を、東京文化財研究所の研究員は長良川の舟の歴史的・文化的側面をそれぞれ執筆し、2019年に報告書にまとめる予定です。私も一部執筆を担当します。佐渡島のように、いずれ新たな作り手によって役立てられる日がきっと来るはずです。

完成した鵜飼舟

↑完成した鵜飼舟。ダグラスさんや船主となった漁師さんの手で、進水式が行われた。

2ヶ月にわたり学生たちに、那須さんやダグラスさんのような一流の職人たちの仕事ぶりを見せられたのは、本当にありがたいことでした。きっと1人1人が何かを感じ取ってくれたことと思います。このような取り組みが必要な分野はまだまだあります。若い人たちに、アカデミーで学び、木工技術を生かして、このような伝統技術の記録・継承や新しい価値の創造に取り組んでもらいたいと思っています。
久津輪 雅・准教授

久津輪 雅
昔からの木のものづくりを継承するとともに、新しい可能性を切り拓いています。
研究テーマ グリーンウッドワーク(生木の木工)
伝統工芸の原材料確保と後継者育成支援

 

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