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2021年08月24日(火)

自力建設「木立のこみち」11人で設計する②

はじめまして。クリエーター科1年木造建築専攻の名和です。

前回のブログに引き続き、21期自力建設「木立のこみち」、設計後半の様子をご報告します。

 

前半のブログでは、7月中旬に東濃ひのき製品流通協同組合への見積依頼を行ったところまででした。今回は、見積結果を受けて行った減額調整(VE)、実施図面作成、そして、製本までの濃密な2週間の様子をご報告します。

 

7月下旬 見積結果届く

今年度は課題である「屋根付き通路」に加えて、木工の活動をより快適に行うための「庇」も作ります。そのため、例年に比べて規模が大きい今年の自力建設。当初から費用については懸念事項でした。7月21日の東濃ひのき製品流通組合への計画説明から早1週間、見積もり結果が帰ってきました。

 見積結果は、なんと「244万円」弱!予想していた通り、予算150万円を大幅にオーバーしています。ここから墨付けが始まる8月上旬までに、設計の価値を落とさずに減額する方法を探っていかなければいけません。

 

減額調整(VE)

 

大切にしなければならないこと

減額といっても闇雲に費用を下げては、設計の質が落ちてしまいます。譲れない軸のようなものを意識しつつ、品質を落とさず減額していく必要があります。これは、減額調整(VE:Value Engineering)と言われます。

今回は、施主の前野先生の要望、そして、「屋根付き自由通路」としての機能性をまずは大切にしようということになりました。まずは各担当者が叩きのVE案を出し合い、其々について11人全員で議論して、最適な設計案を決定していきました。しかし、11人其々の考え方が異なる部分もあり、決定は一筋縄ではいきません!話し合いが、何時間にも及ぶこともありました。

議論の様子

VEで見直した箇所

①基礎

今回の計画において、「庇」は格子に取り付けることになります。そして、庇をできるだけ等間隔に配置するために、格子は既存のものを取り換えます。当初、庇については、既存の基礎がない部分を新設する計画でしたが、見積もり結果を受けて、構造性能を担保しつつ見直し、簡易な形状の基礎に変更しました。通路についても、構造の小原先生にも相談しながら、費用が掛からない形状に変更していきました。

その結果、基礎だけでおよそ90万円の減額が可能であることが分かり、一安心です。

取換予定の格子

②屋根

次は屋根です。屋根面積をできるだけ少なくする方法を探ります。庇については、作業スペースは十分確保されているということで、思い切って格子の1フレーム分を削減しました。通路については、軒の出を減らすことを検討し、話し合いを重ねました。

屋根に使用するACパネル(集成材)との兼ね合い、風速などから計算した雨がかり等を細かく検討しました。今回の計画では、雨に濡れずに通行できるということも重要ということから、軒の出現状のまま変更しないことになりました。

軒の出検討資料

 

③雨樋

雨樋については、特注品を既製品に変更し、デッキにかからない通路部分の横樋を削減し、雨を見せるような雨仕舞に変更しました。

②と③を合わせて、20万円弱の減額となりました。

 

その他、工事を学生での実施に変更したり、照明器具を見直したりと、諸々の減額を行った結果、概算でなんとか150万円以内に抑えることができました。ただ、まだ予算ギリギリのため、もう少し減額方法を探る必要があるかと思っています。実施図面作成後に、再度見積依頼を行い、VEの答え合わせになります。

 

実施図面作成開始

これらの減額案に合わせて、実施図面を作成します。

まずは平面・立面・矩計・伏図担当者が先行して作図していきます。作図したものは、先生のチェックを受けながら、ブラッシュアップしていきました。学生とはいえ、大工さんや施工業者さんたちにもお見せする図面です。先生のチェックも厳しく、何度も赤を入れていただき細かい部分まで確認していただきました。作図の経験が少ない学生も多く、とても勉強になりました。

先生赤入りの図面

大工さん来校

平面図などの基本図面が揃ったところで、大工さんが来校し、墨付けに向けて計画の説明を行いました。施工で問題となりそうな部分、接合の方法などのご意見を頂きました。大工さんのご意見を受け、屋根勾配や接合方法などの見直しを行っていきました。

現場で計画を説明する棟梁

7月31日 材積み込み

図面作成の合間を縫って、ほぼ毎日行っていた製材。墨付けは8月5日から、白川町の東濃ひのき製品流通協同組合にて実施します。製材した材を移動するため、7月31日に製材できている材の積み込みを行いました。予定より積み込み日程が繰り上がったため、全ての製材を終わらせることができませんでしたが、一旦製材作業も一区切りです。あとは、墨付けまでに、図面に専念するのみ!

積込を終えた材と製材担当田村くん

8月上旬 実施図面作成終盤

積み込みも終わり、図面作成も終盤です。しかし、基本設計で詰め切れていなかった部分がまだ残っており、それらは図面作成と並行して確定してきました。

 

  • 雨仕舞

雨仕舞については、雨とい、唐草、竪樋の形状などを議論しました。雨仕舞だけでこれだけたくさんの検討事項があることにまずは驚きです。担当者も、雨仕舞を考えるのは初めてです。書籍で調べ、メーカーに問い合わせ、これまでの自力建設の雨仕舞も参考にしながら、できるだけ費用をかけずに、機能的・意匠的に最適な形状のものを検討します。

(※唐草とは、屋根の一番外側を囲い込む部材のこと。雨水の水切りの役割も果たします。)

唐草・雨樋を検討する様子

雨がかりしにくい安全寸法と、意匠的にきれいに見せる寸法、どちらに寄せていくかは悩みどころです。実寸模型や担当者がまとめたデータを参考にして、最適な寸法を皆で検討しました。最終的に、唐草を長めにして、水切りの出はきれいに収まる短めの寸法とすることになりました。時間をかけて検討した雨仕舞、実際にどのような見せ方になるのか楽しみです。

 

  • 接合詳細図

実施図面作成において、通路の接合詳細図の作成は大変な作業でした。それは、今回の樹状の形状に理由があります。今回の設計は、リズムのある自然な樹状を表現するために、通路樹状の接合部の角度が異なっています。そのため、一つの樹状について、接合詳細図が一つずつ必要となります。結果的に、通路の接合詳細図は50枚を超えるボリュームになりました。担当者を中心に皆で分担して行いましたが、製本ギリギリまで作業は続きました。意匠的な美しさを保ちつつ、後工程の作業ボリュームを抑えていかに設計するか、その難しさと大切さを全員が実感しました。

角度の異なる通路樹状

8月4日深夜 製本

前述の接合詳細図で手こずった結果、製本が大工合宿前日の深夜になってしまいました。できている図面から出力して製本作業を行っていきます。眠い目をこすりながら、手作業で製本していきます。結局、作業は朝方まで続きました。

製本作業の様子

翌日からは、白川町の東濃ひのき製品流通協同組合にて墨付けが始まります。

徹夜明けの体での墨付けはどうなったのか?続きは、次回ブログで!

 

第21期建築専攻1年:名和 史緒梨