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2018年06月08日(金)

木工所の救急箱には何を常備すべき?

木工専攻と木造建築専攻の学生向けに、傷の応急手当の授業を企画しました。

木工では小刀やノミなどの手工具、各種木工機械を使います。木造建築でも、学生が自ら設計し建設する「自力建設プロジェクト」で、これから電動工具などを多用します。そこで作業現場でできる応急手当に焦点を絞り、専門家をお招きして教えていただきました。

講師は平成医療短期大学・看護学科で教える岩瀬桃子さん。かつて岐阜大学の高度救命治療センターに立ち上げから関わった経験があります。

資料作成には、岩瀬さんの元上司で岐阜県総合医療センター・救命救急センター長の豊田泉先生にもご協力いただきました。

 

さて、木工所の救急箱には、どんな薬や医療品を備えておけばいいか、ご存知ですか?

私の手元にある職業訓練校の古い教科書『安全衛生』には、

・ピンセット
・綿棒
・筆(薬を患部に塗る)
・はさみ
・止血帯
・滅菌ガーゼ
・油紙
・包帯
・三角巾
・・・などとあり、

・オキシドール
・ヨードチンキ
・エタノール
などの消毒液も備えるよう書かれていました。

 

しかし、今回教えていただいたのは、なんと

「大量の水」と「清潔なガーゼ」

さえあれば応急手当は大丈夫、ということ。これには驚きました。

 

まず、現在では

切り傷や擦り傷などの手当には、消毒液を使わない

のが基本となってきているそうです。

理由は、消毒液は悪い細菌を殺すが、良い細菌(新しい皮膚を作るのを助け、傷を治そうとする細菌)をも殺してしまうからです。

 

刃物等で切ってしまったら、まず「圧迫」
血が出ている所を清潔なガーゼで押さえます。

もしそれでも血が止まらなければ「駆血」。傷口より心臓に近いところを締めて、出血量を抑えます。

出血箇所を、心臓より高く上げる「挙上」も効果があります。

写真は「ハーイ、分かりました!」ではなく、「挙上」による効果を確かめているところ。手を心臓より下に下げていると手の甲に血管が浮き出てきますが、手を高く上げると血管が消えます。

 

ある程度出血が止まったら、きれいな流水で傷口を洗います。

その上で、ガーゼや絆創膏などを貼って患部を保護しておけばOK。大きな傷ならば、縫合した方が早く治り、傷跡も目立たなくなるので、医療機関へ。

 

絆創膏も、新しい常識がありました。

「傷を早くきれいに治す」という謳い文句の「キズパワーパッド」などの商品名の絆創膏がありますが、その仕組みを詳しく教えていただきました。

正式名称を「創傷被覆材」と言います。傷のまわりを湿潤環境にすることで、外部からの感染を防ぐとともに、細胞を増やして傷の治りを早める、という仕組みだそうです。

少し前までは傷は乾かしてかさぶたにして治すのが普通でしたが、2000年ごろから患部は乾かさないのが一般的になってきたとのこと。湿潤環境療法と言うそうです。キズパワーパッドは2004年に発売されています。数日間貼ったままにしておき、患部を湿潤な状態に保つことで、傷を早く、美しく治すことができます。

ただし、傷口が汚れて細菌がついていそうならば、このタイプの絆創膏は使わないのが原則とのこと。かえって悪い細菌を増殖させてしまうからです。

 

講義の後は木工房へ移動し、怪我が発生したことを想定してロールプレイも行いました。木工の学生は子どもや大人向けの木工講座の企画運営などを行うため、怪我への対応の関心が高く、活発な質疑応答がありました。

医療現場では毎年のように新しい研究に基づく知見が導入され、数年前の教科書でもまったく役に立たなくなることもあるとのこと。このような学習会を継続し、常に新しい情報を学んでほしいとアドバイスを受けました。岩瀬さん、ありがとうございました。

久津輪 雅(木工・准教授)

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