高性能と自然素材から、地域の拠点へ
9月9日、日本バウビオロギー研究会の第79回定例セミナーに参加しました。
会場は、広島県江田島市に誕生した環境ゲストハウス「島韻(とういん)」。
「島韻」は、自然素材と高性能を組み合わせた新しい居住のあり方を提案する建物です。

まず、設計者の川端さんから建物について詳しく説明していただきました。

印象的だったのは、性能だけでなく、素材の選び方にも一貫したこだわりが感じられたことです。
断熱には木質繊維断熱材を使い、構造材には近隣県である島根県のスギ、建物の各所には鳥取県のJパネルを採用するなど、地域の木材や素材を積極的に取り入れています。
そして、建物の性能はまさにピカイチ。
さらに国産木製トリプルサッシを随所に採用し、UA値は0.19W/㎡Kで、断熱等性能等級は最高等級7の水準をさらに上回ります。
気密性能C値も0.2cm²/m²と高性能。
耐震等級3を確保。
エネルギー性能としても、リアルZEBも取得しています。
太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、オフグリッドでの運用も可能としています。
水も水質検査を実施したうえで井戸水を利用。

国産の高性能木製サッシ(トリプルガラス)

太陽光発電6.96kW
興味深かったのは、これほどまでに断熱・気密性能を高めると、従来の高断熱住宅のように「南側の日射取得を最大限に利用する」ことに、必要以上にこだわらなくてもよくなるという点です。
「島韻」では、南側の日射取得だけを優先するのではなく、景色の素晴らしい東側に大きな開口部を設けています。性能を高めることで、太陽のために建物をつくるのではなく、その場所で暮らす人のために、景色や居心地を含めて開口部を選べる。そんな設計の自由度が感じられました。

また、建物は完成して終わりではありません。実測を繰り返しながら、現在も温熱環境を継続的に計測・取得しているそうです。設計時のシミュレーションだけでなく、実際に建物がどう使われ、どのような環境になっているのかを確かめていく姿勢も印象に残りました。
そして、この建物がもう一つ面白いのは、完成した建築そのものが、行政や民間団体による「学びの場」へと発展していることです。今回のセミナーも、その一つと言えるでしょう。

川端さんからは、こうした取り組みをさらに広げ、民間の拠点と公共の拠点をつくり、建築とコミュニティによって支えていくことが夢だというお話もありました。
「いい建物をつくれば、人が集まる」というわけではありません。災害時にも人が集まれる場所にするためには、普段から人が集まり、活動し、顔の見える関係が育っていることが大切です。建物をつくることと、コミュニティを育てること。その両方があって、初めて地域の拠点になっていくのだと感じました。

その後の建物見学では、参加者から性能の話だけでなく、設計のディテールや素材の使い方についても熱心な質問や議論が続きました。実際の建物を目の前にすると、図面や数値だけでは見えてこない部分まで、さまざまな視点から考えることができます。

続いて、二つのミニセミナーが行われました。
一つ目は、日本電磁波協会の土田さんによる「建物の電磁波環境」についてのセミナーです。この建物で実際に電磁波を測定し、電場がどのように広がっているのかを実測値を示しながら説明していただきました。
そのうえで、建物の中でどのような対策が考えられるのかを参加者で共有。日本ではまだあまり実践されていないテーマということもあり、こちらも参加者から熱心な質問が飛び交いました。
もう一つは、ウェルの山本さんによる「調湿性能」についてのセミナーです。
同じ「珪藻土」でも、その空隙の大きさによって調湿性能は大きく異なるという話が、とても印象的でした。小さなモデルを使って実測しながら、実際にどのように湿気を吸ったり吐いたりするのかを示していただき、非常にわかりやすい内容でした。

一般的な珪藻土は比較的大きな空隙を持つため、水分を吸収することはできても、室内を適度な湿度に保つ「調湿」の効果は必ずしも大きくないとのこと。一方、例えば稚内で採れる珪藻土は、細かな空隙によって湿度に応じた吸湿・放湿が起こり、40~60%程度の湿度環境に関わる調湿材料として利用できるということ。

高い断熱・気密性能、地域の自然素材、電磁波、調湿。普段は別々に考えがちなテーマを、一つの建物を通して横断的に学ぶことができた今回のセミナー。
建物の性能を追求するだけでなく、その建物を人が使い、学び、交流し、地域の活動につなげていく。そんな「建築のその先」まで考えることの大切さを感じた、充実した一日でした。
