活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2026年09月14日(月)

【アニュアルレポート2025】植栽キハダの成長について  ~郡上市寒水の事例〜

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告より

准教授 大洞智宏

目的

 キハダ(Phellodendron amurense)はミカン科キハダ属の落葉高木で、日本では北海道から九州まで広く分布する。キハダの内皮は漢方で黄檗(オウバク)といい、ベルベリンを多く含み、胃腸薬の製造に用いられてきた(橋詰ほか,1993)。このように、木材としての利用だけでなく、古くから染色や薬用木として利用されてきたため、人工造林等に関する研究は各地で行われてきた。しかし、岐阜県内におけるキハダ栽培の記録は多くなく、成長過程などに関するデータ集積も少ない。このため、県内での栽培に関する情報収集が必要となっている。

 本調査では、キハダの成長過程を把握するため、樹皮採取後の幹材の樹幹解析を行ったので報告する。

概要

 調査は郡上市のキハダ植栽地(図1)で実施した。調査地は、標高約740m、東向斜面の下部に位置し、過去には水田として利用されていたと考えられる。本調査地では、2024年に植栽木の一部が伐採され樹皮の収穫が行われた。収穫後、残置された2個体の幹から1mごとに円板を採取し(図2)、樹幹解析試料とした。

図1 調査地の状況

図2 試料採取状況

 採取した円板は持ち帰り、読み取り顕微鏡を用い4方向の年輪幅を計測した。計測した数値を円板ごとに平均し、2倍したものを各高さの直径とした。樹高成長についてはSDA(Nobori,etc.2004)を用い解析を行った。計測個体はいずれも樹齢22年生、胸高直径(皮なし)はNo1が28.1cm、No2が29.1cmであった。樹高については、樹皮の収穫のため玉切りが行われているため正確な数値は不明であったため、参考として樹幹長の計測を行った。No1の樹幹長は15.04mであった。No2は樹頂部の枝が失われており、計測可能な部位までの樹幹長は13.7mであった。

 キハダの成長は、初期成長が大きいが、陰性のものと比べて早く成長が衰えるタイプ(柳沢,1981)であるとされている。本研究の樹幹長の伸長過程(図3)では8年生時から傾きが緩やかになる傾向が見られた。同時に、平均樹幹長成長量(図4)も8年生時をピークに減少に転じていた。胸高直径成長過程(図5)では判然としないが、平均直径成長量は、10年生前後をピークに徐々に減少に転じている(図6)。過去には、神奈川県(中川1982)や鳥取県(橋詰1994)でキハダ人工林で調査が行われている。このうち、神奈川県の事例では2本が樹幹解析され植栽後6年、11年以降から直径成長量が落ちていると報告されている。また、鳥取県の事例では3本が樹幹解析され植栽後12年経過後から漸次成長が衰えたとしている。これらの報告は本調査の結果と同様の傾向を示していると考えられ、植栽後10年程度で成長が衰える場合があることを示している。 

 なお、本調査地では過去に収穫された形跡もみられるため、成長の比較的良い個体であれば、20年前後で胸高直径30cm程度の収穫が可能であると考えられ、比較的短伐期での収穫が可能であることが確認された。

図3 樹幹長伸長過程

図4 平均樹幹長成長量の推移

図5 胸高直径成長過程

図6 平均胸高直径成長量の推移

引用文献

 橋詰隼人、中田銀佐久、新里孝和、染郷正孝、滝川貞夫、内村悦三(1993)図説実用樹木学.朝倉書店

 橋詰隼人(1994)キハダの人工造林に関する研究(Ⅲ)-植栽方式による成長の違い- .日本森林学会関西支部大会講演集3:127-130

 中川重年(1982)神奈川県高麗山におけるキハダ人工林の成長.神奈川県林業試験場研究報告8:1-10

 Nobori, Y. etc., (2004): Development of stem density analyzing system combined X-ray densitometry and stem analysis. Jpn. J. For. Soc., 10: .

 柳沢聡雄(1981)広葉樹林とその施業.林野庁研究普及課監修.大日本山林会

教員からのメッセージ

広葉樹林の造林は、各地で行われています。しかし、その後の成長過程や収穫に関する研究の蓄積は十分とはいえません。特に目標林型を考える場合に欠かせない収穫時期の密度や個体サイズに関する情報が不足しています。今後も広葉樹林に関する事例調査を行っていきたいと思いますので、広葉樹造林に関する情報をご存じの方はご連絡いただければ幸いです。本調査には、米澤翼氏に助力いただきました。また、調査の実施に関してご快諾いただきました森林所有者様にこの場を借りてお礼申し上げます