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2026年06月22日(月)

【アニュアルレポート2025】新たな獣害対策カリキュラムの導入​

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告より

新たな獣害対策カリキュラムの導入

准教授 新津裕

 

 

目的

 

 森林文化アカデミー開学20年を機に若手教員を中心に議論し作り上げられた「森林文化アカデミービジョン2040」の中で、林業専攻の1つのコンテンツとして獣害対策カリキュラムの新設を提案した。これは、林業を取り巻く様々な事象の変化の中で林業だけでなく森林利活用分野の環境教育、木質資源を活用する木工や木造建築の分野でも無視できない事態が森林で引き起こされているからである。

 一見して緑豊かに見える日本の森林だが、その実年間約4,000haもの森林が被害を受けている。この数字は日本全国で考えると少ないと思われるかもしれないが、毎年同程度の被害が蓄積しているという事を考えると馬鹿にできない数値である。林業とは非常に周期の長い産業であるだけに、目の前の木材収穫だけでなく樹が育つまでの世代を超えた視野を持ち森林を管理しなくてはならない。当該カリキュラムでは、森林の中で起こっている野生動物の影響とそれを取り巻く様々な視点を持ち、多様な現場において野生動物の影響を把握したうえで適切な森林管理の判断を行える人材の育成を目指している。

ニホンジカの剥皮被害を受けたヒノキ林

概要

 全国で深刻化するニホンジカを中心とした獣害被害。野生動物の個体数が多い地域では、それらが植林した稚樹の新芽を採食してしまったり、樹木が大きく育ってからもオスジカの角研ぎや樹皮の採食により樹の幹への被害を引き起こす。本来価値の高い木材を生み出すことが目的の植栽木だが、影響を受けたモノは生育不良や生育しても欠点材となってしまい深刻な問題である。対策として、これらの森林での現状を把握することと、当該地区において「樹木の保護」なのか「野生動物の捕獲」なのかそれとも「バッファゾーンの整備」なのか検討できる事が必要である。そして、施工技術や捕獲技術の他に対象となる野生動物の生態や行動の理解が不可欠であり、それらを意識しない対策はむしろ逆効果となる場合すらある。アカデミーの連携機関のロッテンブルク林業大学(ドイツ)では、森林管理を担うフォレスターの育成をしている。ドイツのフォレスターが担う業務には必ず野生動物の管理が付随しており、自ら地域のハンターやフォレスターを集め捕獲技術を高める講習会を行ったり大規模な捕獲を行う事もある。ロッテンブルク林業大学のカリキュラムや教育手法なども参考にしながら、必要な知識と技術を学ぶ為の17日間もの日数をかけて実施する科目を2025年から運営し始めた。

連携で視察したドイツHFRでの理論的かつ実践的な野生動物管理実習の様子

 対象はクリエーター及びエンジニア科の学生で開講している。これは森林の技術者視点でもマネジメント視点でも森林の現状把握と適切な対策を行う意味でも必要な観点だからである。

 

歴史的背景を理解する

「森林獣害」という事象に対して考えるにあたり、目の前で起きていることに対して対処方法を考えるよりも、過去の流れから何故今のような状況に陥ったのかを理解することが肝心である。また、どの部分を切り取るかによって見え方が違うからこそ、都合のいい解釈ではなく、根本的な要因を理解しておくことで「○○をすれば解決する!」といった短絡的な判断に陥らなくて済む。全国一律でもなく、地域によって異なる対象動物に関わる事象の歴史を知ることが獣害対策の第一歩なのである。

生態と行動の理解を深める

獣害への対策として防護・捕獲が主として講じられるが、その前に理解しておかなくてはならないのは、対象となる動物の「生態を知ること」である。生態を知らずに行う対策は多くの場合で失敗する。それは、対象の野生動物に対して適した素材・適した構造でないことが由来で効果を発揮できない為である。

対象を知る

獣害を引き起こしている対象動物を知るためには、直接その姿を捉えるか痕跡(フィールドサイン)を読み解くことが第一歩。しかし痕跡を読み解くには類似する野生動物(特に偶蹄目など)のことも知識を有しておく必要があり、更に他の動物がどのように影響を及ぼしているかも知ることも欠かせない。また、調査のための手法も様々あり、目的に応じた調査を行う必要がある。何がいるのか?どれぐらいの密度でいるのか?季節変動はあるのか?それらを知る一つの道具としてトレイルカメラが注目されている。

防護技術と捕獲技術を学ぶ

それぞれの対策についての適切な知識とともに、施工技術を身に着けることを目指している。まずは防護については単木保護・侵入防止柵・忌避剤についてのメリットとデメリットを理解する必要がある。また、それらの防護対策と組み合わせることで効果が発揮できる捕獲についての考えと技術を理解する。さらには猟師と捕獲者の違いについて理解することで、獣害対策とマインドの異なる趣味がベースの猟師に森林の獣害対策を任せるリスクについても理解しておくことが肝心である。

 

エアソフトガンで銃器も学びます

その他

ジビエとしての利活用だけでなく、通常残滓として処分されてしまいがちな資源についての活用についても視野を広げていく。発想の転換で課題を資源として活用していくことが今後の林業にとっても有益だと考えるからである。

皮革・骨・角の活用の事例視察

教員からのメッセージ

 獣害というキーワードについて多くの人が耳にする時代になってきました。多くの場面では家屋被害や農作物被害、人的な被害が顕著になることで意識が高まってくるのかと思いますが、顕著になってきたタイミングでは森林では既に手遅れになっていることが多いのです。被害が出たから樹を植え替えようか!といっても数年間かけて育てたコストはどこからも回収できません。未来の森のことを考えるのであれば、獣害について考えていくことは必然です。ロッテンブルク林業大学では再造林するコストと捕獲するコストを天秤にかけると圧倒的に捕獲に手間をかけたほうが安上がりといいます。これからの日本の森を担う我々はどの様に野生動物と向き合っていくべきなのか、一緒に考えていきませんか?

この森では何が起きているのでしょうか

 

 

 

参考文献

 

活動期間

 2025年~

連携団体

・岐阜森林管理署

・岐阜大学

・飛騨高山舞地美恵

・ロッテンブルク林業大学

関連授業・課題研究&関連研修

・獣害対策プログラム(Cr1,En2)

関連教員

中森さつき

活動成果発表

ロッテンブルク林業大学

・野生動物と社会学会

 

 

過去のアニュアルレポートは、ダウンロードページからご覧いただけます。