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2019年03月03日(日)

木工事例調査 in 宇治・伊賀〜 ①永野製作所

森林文化アカデミー木工専攻の恒例授業「木工事例調査」。学生たちが自ら企画して先進的な取り組みやユニークな製作を行っている木工房などを訪問する実習です。今回は京都府宇治市・三重県伊賀市を2日間かけて回りました。学生によるレポート、まずは宇治市の永野製作所からお届けします。

 

株式会社永野製作所の代表である永野智士さんは2005年から5年間、フィンランドのNIKARI本社で家具製作に携わり、2010年から日本でNIKARI製品のプロダクトライセンスを得て、加えてオリジナル家具であるimous-designの家具の製作活動をされている木工家です。

今回はお忙しい中、大人数で押しかけたにも関わらず、私たちアカデミー学生の工房の見学をさせていただき、さらに私たち学生からの質問にも快く答え、解りやすく説明をしてくださいました。永野さんへの感謝と、再訪したいという気持ちを込めて、学生が特に感じた点をレポートしたいと思います。

 

永野製作所の工房にお邪魔して初めに持った印象は、整然とした作業場だな、というものでした。壁面や天井下のダクトスペースなどが効率的に活用されて、きちんと掛けられたり収納されたりしている、治具やクランプなどの作業道具。

この第一印象について永野さんにお話しを伺いました。広い工房に移りたいというお考えもあるようですが、永野さんのお話しの中で特に興味を持ったのは、家具製作の段取りを踏まえ、作業で使う木工機械の配置と高さを、永野さんご自身で調整されているということです。スペースを有効活用するために機械の高さまで調整されているのは驚きでした。そのお陰で、長さ4000mmのテーブルも作成できるようになっているとのお話しでした。工房の中では、作業用の馬(置き台)が整然と並べられていたのが印象的でした。個人の工房だからこそされているカスタマイズや工夫が随所に見られ、NIKARIのチェアの印象である「スッとした感じ」の製品を生み出すにふさわしい、整った製作の場であると強く感じました。

 

 

永野製作所の主力製品であるNIKARIの家具や永野さんオリジナルのimous-designの家具は、建物の新築または改修に併せて制作する場面が多く、設計士さんや大工さんとの共同作業が多いとのこと。住宅や店舗の造付け家具や造作に興味がある学生にとって、永野さんのお仕事について詳しく伺うことができたのはとても幸運なことでした。

永野さんのお話しで印象に残っている言葉は、「家具は建物の一部であり、家具づくりの上で建築を知っておくことは重要だ」ということです。さらに、設計士さん、あるいは大工さんと仕事上のコミュニケーションをとる手段として、「図面が描ける能力を磨いておくことが必要」ということも大事とのこと。作るモノの情報を正確に相互に伝えあうことで、現場での手戻りも少なくなり、作業の効率は上がります。仕事をスムーズに成し遂げる為には共同で仕事する相手との共通言語を持っておくことが大事で、こうした分野での木工家としての必要なスキルを知ることができました。

 

永野さんがフィンランドNIKARI本社にいらしたときのお仕事ぶりについてもお話しを伺いました。

フィンランドに限らず欧州において、手工芸系の職人養成教育を受けるためには、まず学歴(高等教育を受けているか否か)が必要とされるとのことでした。日本人の古くからの「職人」イメージは、中学校を卒業したらすぐに親方のところに弟子入りするといったもので、学歴より実務経験重視という先入観があります。永野さんの欧州での体験談はむしろ逆で、高等教育を受けてからでないと職人になるためのトレーニングを受けられない、というものでした。この日欧の職人養成に関する制度の違いについては、それぞれ良い面、悪い面があると思います。しかし、永野さんからは、「日本のものづくり職人は学歴が無くとも挑戦できるから、アグレッシヴで自由で面白い!」という感想をお話し頂きました。年齢、経歴がさまざまな学生が集まるアカデミー生にとっては、とても心強い言葉であり、アグレッシヴにやっていこうという力を頂いたと思います。

文責:森と木のクリエーター科木工専攻(1年) 畑山、輪竹