活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2025年08月11日(月)

【‘25夏 木工事例調査⑦】大蔵木工所

中津川市を訪問して行った木工事例調査の2日目。最後に訪問したのは、ろくろを使った木工をされている大蔵木工所です。その時の様子を学生がレポートで紹介します。

・・・・・

2日間の木工事例調査、最後の訪問先は中津川市駒場の「大蔵木工所」でした。
大蔵木工所は、今は息子さんの大蔵衛さんが代表を務めていらっしゃいますが、この日はまずは工房に招かれ、先代のお父様による轆轤実演を皆で観覧させてもらいました。ケヤキ、セン、トチノキ、コナラなどの広葉樹の天然木を仕入れ、製材、粗削り、天然乾燥の工程を経た材を轆轤に取り付けるところから実演していただきました。

先代のお父様による轆轤の実演

先代のお父様による轆轤の実演

轆轤の回転軸の径に材のくぼみをぴったりと設置するために、水で若干湿らせて材を膨張させるなど細やかな準備の後、おもむろに轆轤が起動されると、一気に切削が進みます。轆轤には正面向きに材が取り付けられ、座った状態で木地が対面に切削されます。

轆轤の回転速度は1分間に2000回転と高速で、普段私たちが実習で使用する木工旋盤機とは使用する刃物も材に当てる角度も違ったのですが、つぶさに観察すると最も材が削られる刃物の角度を一定に保って切削なさっていました。

お皿に紙やすりをあてる様子

回転するお皿に紙やすりをあてて仕上げていきます

「一定の形に削れるようになるまで10年以上かかり、刃物が使いこなせるようになるのも20年かかります。」

とおっしゃりながら、刃物を適宜交換しつつ作業を進め、紙ヤスリによる仕上げを段階的に経て美しい木目の出た見事な平皿が出来上がりました。自分のところに回ってきた平皿を手に取ると、とても滑らかな手触りで、すっと手になじみました。

続いてお皿以外の製品を紹介になり、私がびっくりしたのは「湯呑が吸い付くお盆」です。ある日、鏡を拭いていた時、鏡の表面に張り付いた10円玉が取りづらかったことから発想し作成したというお盆は45度近く傾けても湯呑がズレず、伝統工芸士の技の奥深さを感じました。その他にもお茶っ葉の詰まらない急須や新素材を組み合わせた髪を梳くのが心地の良いブラシなど工夫を凝らした製品を紹介されながら、「これまで2000種類くらい作ってきたけれど、いつまでたっても余裕ができないです。」と笑顔でおっしゃり、

「10年前には漆で絵を描いたものも作っていたけれど、ここ最近は自然な風合いを残したものが人気です。」

と木工品のトレンドにも目配せなさっているのには、ただただ頭が下がる思いがしました。

傾けても湯飲みが落ちないお盆

傾けても湯飲みが落ちないお盆

お話がひと段落して、皆は製品販売のコーナーに向かいましたが自分はちょっと残って、先代が木工を志したきっかけを尋ねました。

「最初は一般企業に勤め、複数の部署に配属させてもらいました。現場だけでなく経理など様々な仕事の内容を知ることができてとても良かったのですが、大量採用の時代で10年間で半分の人が辞めていくのを見聞きする内に能力主義の行きつく先が『見えて』しまいました。しかも精密機械を駆使する部門ではかなり気を遣います。それよりは、自分の目で一つ一つ確かめられる木工製品づくりのほうがよくて伝統工芸を志しました…。

木工を続けていて嬉しいのは、自分の作ったものが実際どこかで使われているのを見かける時です。どういった樹種が好きか?ですか…やっぱり、木目がきれいなものが好きですね。」

このように語ってくださった大蔵さんの表情からこれからも伝統を新たにしていく意気と矜持を感じることができました。

大蔵さんの工夫を凝らした作品

大蔵さんの工夫を凝らした作品

お話を聞かせてもらったお礼を言い、急いで自分も販売コーナーの方に行ってみて更にびっくりしました。轆轤製品だけでなく民芸家具や乾燥を済ませた大きな材まで整然と展示されており、目移りが止まらなくなりました。

さまざまな大きさや形のお皿やお椀、お盆に花器。コーヒーカップや曲げわっぱ、おにぎりの型まであり、店内は「用の美」に溢れていてずっと見ていたかったです。

しかし、出発時刻が近づいてきており、代表の大蔵衛さんに、あまり使用されない広葉樹の利活用について素早く質問すると、イチョウのまな板の事例を簡潔に教えてくださいました。

その時は『イチョウか…』と思っただけだったのですが、数日後、学校の経営学の授業で「イチョウのカッティングボード」に今、都市部からの注文が殺到している話を聞き驚きました。

大蔵木工所の、伝統を深く引き継ぎながら常に新しいトレンドをキャッチし、創意に富んだアイデアを形にしていく姿勢は、木工を学んでいる私たちにとって憧れのロールモデルです。今回、見学で学んだことを少しずつでも自分たちなりに木工制作に生かし、作品として形にすることで大蔵木工所の皆さんへのお礼にしていきたい…と思いました。

クリエーター科
木工専攻2年 橘 明広