ドイツ木工視察報告⑥ ロッテンブルク林業大学の材料科学の研究
ロッテンブルク林業大学(HFR、正式にはロッテンブルク応用森林科学大学)では、材料科学などが専門のマーカス・ミュラー教授と木材マーケティングが専門のバーティル・ブリアン教授が「木製品の栄誉の殿堂(Hall of Fame)へようこそ」と木材加工棟を案内してくれました。この建物全体の1/3が木材の研究に使われており、残りはすべての学科の教員・学生が研究内容に応じて使うことができます。

ロッテンブルク林業大学の木材加工棟

マーカス・ミュラー教授(左)とバーティル・ブリアン教授

ミュラー教授がいま行っている研究をいくつか紹介してくれました。
① ブナ材を使ったCLT(直交集成板)の開発
木材を異方向に重ねながら接着して作った板がCLTと呼ばれ、木造のビル建築などに使われています。トウヒなどの針葉樹で作られることが多いのですが、ドイツの森林に豊富にある広葉樹のブナを有効活用するため、ブナのCLTを作っています。
ブナは寸法安定性が悪いのが欠点で、水を含むと大きく膨張します。そのためPEG(ポリエチレングリコール)を細胞壁に含浸させ、収縮を抑える実験を行っています。
PEGは考古学分野でも出土品の形状安定などに使われており、日本でもおなじみです。

ブナのCLT
②国産材によるギター製作(化学改質と熱改質)
ギターのほとんどの部材は国産材で作れますが、指板(フィンガーボード)だけは硬度が必要なため、インド産ローズウッドなどの熱帯産材に頼っています。これを国産のブナで代用するため、まずフェノール樹脂を含浸させて強度を高め、さらに窒素中で220度まで加熱して木材を焼かずに濃い色に変え、安定性を高めます。
コストは10〜20%高くなるものの、熱帯雨林保護の観点から需要が高まっており、地元のギターメーカーと共同研究を行っています。

ブナ材を使ったギターの指板(フィンガーボード)
この研究は、ロッテンブルクに近いテュービンゲンのラインハルトというギター製作会社からの依頼で行っています。その会社もHFRのバスチャン・カイザー学長が案内してくれました。この会社は月に600〜800本のギターを生産しています。

テュービンゲンのラインハルト社の材料庫内。左はロッテンブルク林業大学のバスチャン・カイザー教授

③解体材のアップサイクル
古い建物から出た廃材を建設資材としてアップサイクルする研究です。ドイツの法律ではこうした廃材は防腐剤や釘などが含まれるため、焼却処分することになっています。しかし再び建築資材として80〜90年と利用できれば、それだけCO2の固定や資源保護にもつながるとの理由です。


④落ち葉の断熱材
ロッテンブルク市などの自治体では、毎年秋に公園から大量の落ち葉を改修して処分費用を払って堆肥化しています。これを回収して断熱材として再利用しようという試みです。
落ち葉の断熱性能は木質繊維やセルロースファイバーと同等であることが分かりました。それを中空の壁の中に吹き込み(blow-in insulation)、断熱材として用います。これも堆肥化するとCO2が放出されるのに対して断熱材ではCO2が固定できるという考えのもとに行われているほか、自治体の処分費が利益に変わるメリットもあります。

建物の2階には、本格的な木材加工用の機械が揃っているほか、作業台や木工手道具もありました。木材技術学科に入学したばかりの学生が1週間の機械使用講習を受け、箱を作る課題があるのだそうです。この設備を利用させてもらい、森林文化アカデミーの木工専攻との連携プロジェクトを実施することも可能かもしれません。


学生が製作する課題の箱。手道具、電動工具、木工機械を使って製作する。

応用科学大学だけあっていずれの研究も社会からの具体的なニーズに基づいて行われていること、CO2排出量削減や熱帯雨林保護などの環境政策を強く反映していること、などが理解できました。教員や学生の研究は企業と連携して行われることも一般的で、学生の論文執筆に月500〜2000ユーロ(9万円〜37万円!)支払われることもあると聞きました。先進的なドイツの取り組みを、見上げるようにしながら聞き続けました(先生たちの背が高いので、実際に見上げています)。

続きます。
久津輪 雅(木工・教授)