ドイツ木工視察報告⑤ 歴史的建造物の修理と高機能化を手がける企業
ドイツ南西部・バーテンビュルテンベルク州ロットワイルにある、歴史的建造物の修理と高機能化に特化した企業、「ホルツマヌファクトゥーア・ロットワイル」を訪問しました。会社がある建物は第2次世界大戦まで火薬工場として使われていた建物で、1988年に同社が創業して以来、地区全体の建物が再生され、クリエイティブな工業団地となっています。

この訪問には、ロッテンブルク林業大学で木材マーケティングを担当するバーティル・ブリアン教授、州建具協会のクリスティーナ・キュッパース事務局長に同行していただきました。会社では2人の創業者であるヘルマン・クロース氏とギュンター・ザイツ氏、木工部門の責任者のヨハネス・ヴィッチャート=フォーゲル氏が歓迎してくれました。

左から創業者のクロース氏、ブリアン教授、州建具協会のキュッパース氏、私、創業者のザイツ氏、木工部門責任者のヴィッチャート=フォーゲル氏。(みんな背が高い・・・)
訪問の目的は、ドイツの職人養成の仕組みである「デュアルシステム」を現場側から見ることと、ドイツと日本の交流の可能性を探ることです。
まずは会社の概要説明(日本語で「ようこそ」と書いたスライドを準備してくれていたのが感激でした)。ドイツには65万棟の歴史的建造物があり、3%が文化財としてリストアップされています。その分野への投資は年間70億ユーロ(1兆3000億円)に上り、約5万人が修復・修理の分野に従事しているとのこと。投資額は日本よりかなり多いのではないかと思います。中でも同社は、建物を単に「修復」するのではなく、「修理」した上で構造強度、防火、防犯、断熱などの性能を大幅に上げることを得意とする職人集団です。木工・ガラス・塗装の部門があります。


一例として、シュトゥットガルト新宮殿の窓の改修について説明してくれました。戦後再建された窓を、最新鋭の防犯・断熱性能を持たせたものに交換し、年32トンのCO2削減に貢献したとのことです。

続いて工房を案内してもらいました。
目に飛び込んできたのが、巨大な木の扉。城で使われていた500年前の扉で、材質はナラです。州内の町が城を所有しており、修復予算を組んでいるとのこと。現状では4枚の扉に対して200時間の作業を見積もっているが、さらに100〜200時間がかかる可能性もあるそうです。


木工部門には50人の職人と、9人の見習い職人が働いています。ドイツでは中等学校(〜15歳)を終えた後に職業学校に通いながら働き始める(デュアルシステム)ため、この工房でも2/3がそのようなルートでの就職で、最年少は17歳ですが、40歳で入ってきた人もいるとのこと。ドイツでも近年は大学進学者が増え、職人を目指す人は減っているそうですが、この会社には毎年60〜80人もの応募があり、そこから3人の見習いを受け入れているとのことでした。女性も増えていて、木工部門では25%が女性です。

話を聞かせてもらった若い職人は19歳。
中等学校時代にインターンでこの会社に来たことがあるそうです。いったん高校を卒業後、職業学校で学び始めて現在は1年生。デュアルシステムで会社で働きながら学んでいます。道具はすべて会社からの貸与で、新たに必要な道具も会社で調達してくれるとのこと。彼の学校からは学生たちが様々な企業で働いていますが、この会社は合板だけでなく無垢材も扱えるので楽しい、やりがいがあると話してくれました。

日本では新規学卒就職者の離職率の高さが話題です。高卒では約38%、大卒では約34%が3年以内に離職しています(木材・木製品、家具・装備品製造業だけで見てもほぼ同様の数値)。ドイツで同様のデータがあるかどうかは調べられませんでしたが、デュアルシステムにより学校で学びながら働きたい会社を選び、スムーズに就職している様子がうかがえました。
森林文化アカデミーでも従来からインターンシップなどに力を入れていますが、地域の企業との連携をより一層強化したいと思ったところです。
最後に日本の技術を採り入れていることも紹介してくれました。1つはファナックの産業ロボット。古い窓枠からアスベストが含まれるパテを削るため、作業を防塵室内で自動化しています。もう1つは旭硝子が開発した技術を用いた真空断熱ガラス。通常の断熱ガラスは30mmの厚みが必要なところ、これは8mmで済むため、古い木枠を生かしたまま最新の省エネ性能を持たせることができるそうです。


真空断熱ガラス(左)と従来のガラス
今後の交流について、たとえばホルツマヌファクトゥーア・ロットワイル社で日本から1週間程度のインターンシップの受け入れが可能か尋ねたところ、可能との返答をいただいたので、今後希望する学生やすでに働いている職人がいればマッチングできたらと思っています。
(続きます)
報告:久津輪 雅(木工・教授)